第4話 告白

  *並んで教室に入る二人 紗千香がいる


紗千香 おはよう妃那。それに、参治君も……


参治  あ、ああ。お、おはよう……


*参治と、紗千香の気まずそうな表情に気づく妃那乃


紗千香 参治君、その……大丈夫だった? 記憶が、あいまいだとか聞いたんだけど……


参治  う、うん……事故に遭う以前の記憶が、どうにもあいまいで……


紗千香  そう、それならいいのだけど……


参治   ゴメン、心配かけたみたいで


紗千香  ううん、いいのよ。気にしないで


妃那乃  ご、ごめんね紗千香。参治、まだ記憶があいまいらしくて


紗千香  うん、それはいいのよ。むしろ、そのほうが……ううんなんでもない


*放課後。学校の校門を出たところで参治が待っている。妃那乃遅れて到着


妃那  ゴメン。まった


参治  いや、全然


妃那  ごめんね。今日委員会あるの忘れていて。先に帰ってくれてもよかったのに。さすがに家の場所がわからないってことはないんでしょ


参治  いや、そうなんだけどさ。これからは一緒に帰ろうって約束したじゃないか


妃那  え、あ、そうね……約束したわ


参治  うん、じゃあ、帰ろうか


 *二人、家に帰る道の途中で公園の前を通る


参治  あ、この公園……


妃那  先日参治が事故したのってこの辺りなんでしょ


参治  いや、そうじゃなくて……何か、大切な約束をしていたような気がするんだ


妃那  ――それってもしかして、あたしに告白したことじゃ……あれも、忘れちゃったのかな


参治  ああ、思い出したよ。次の火曜日、デートをしようって約束したんだ。あの公園で19:00に待ち合わせをしている。そうだよね?


妃那  え、ええ……そんな約束もしていたわね。参治が事故になんて遭うから、あたしのほうこそすっかり忘れかかっていたわ


  *翌日、放課後。参治とふたり下校して家の前で別れる。


参治  それじゃあこの後19:00に公園で


妃那  うん。わかった


 *妃那部屋で着替えをする。


妃那  さあ、デートは何を着て行こうかな。せっかく一回家に帰ったのだからちゃんとおしゃれしてから行きたいわよね


 *妃那、ふと気が付く


妃那  あれ、でもよく考えるとおかしな話じゃない? もちろんあたしはデートの約束なんかしていないんだけど、それでも参治が約束したっていうなら断る理由もないと思っていたんだけど…… なんで家が隣同士なのに、わざわざ公園で待ち合わせなんてするのかしら?

もしかして、参治は記憶があいまいなだけで、本当はあたしじゃない別のひとと約束をしていたんじゃないかしら?

もし、そうだとすると、参治が時々言っているあたしに身に覚えのない記憶も、他のひととの記憶だったりする?

 いいや、まさか、そんなことないよね。何言ってるんだろあたし。さあ、デートデート


*妃那、待ち合わせ場所の公園に行く。するとなぜか、そこには紗千香がいる


妃那  え、なんで紗千香がここに?


紗千香  妃那乃こそどうして?


妃那  うん、ちょっと待ち合わせで


紗千香  わたしもそう。今日、ここで待ち合わせをしているんだ


妃那  え、だれと?


紗千香  それはちょっと言えないな


妃那  でも、ここで待っていればそのうち来るんでしょ?


紗千香  どうかな。それはどうかわからない


妃那  だって、約束しているんでしょ


紗千香  そうね、約束はしているけれど、忘れているかもしれないし


妃那  そ、それってもしかして……


紗千香  私ね、一週間前にここである人に告白したの。それでね、一週間後の今日、ここで返事を聞かせてくれるって。でも、どうかな。彼、この一週間でいろいろあったみたいで約束自体忘れてしまっているかも


妃那  あ、あたし、急用を思い出しちゃった。か、帰るね


紗千香  まって

 *紗千香、妃那の手を掴む

紗千香  逃げないで。彼、来たわよ


  *公園の入り口に参治登場  


参治  ゴメン、待たせたかな


紗千香  約束、憶えていてくれたんだ


参治  そりゃあ忘れたりしないよ。先週あの後事故に遭って、少しだけ記憶があやふやになったけど、そのあとすぐに全部元通りに思い出したから


妃那  え、すぐに記憶が戻った?


参治  そしたらさ、妃那乃が急におれの恋人だとか言い出すものだからさ


妃那  ちょ、ちょっと待ってよ(妃那乃顔が赤くなる)それじゃあ記憶喪失って嘘だったの!


参治  まあ、そういうことかな。でも、せっかくだからそのままにしておこうかなって思って、いつも妃那乃にはからかわれてばかりだったし


紗千香  それで、私の告白の答えは出たの?


参治  ああ、もちろんだ。紗千香ちゃん。気持ちは嬉しいけど、俺にはずっと好きな人がいるんだ


紗千香  そう、わかったわ。じゃあ、私は帰るから。あとのことはよろしくね、妃那乃

  *紗千香去る


妃那  あの、ずっとわかっていて演技していたのね


参治  ゴメン


妃那  いや、謝るのはあたしの方なんだけど……


参治  俺のほうこそ、記憶が戻っているってすぐに言えばよかったんだけど、ちょっと嬉しくてつい調子に乗ってしまった。おかげで、正直に言い出すタイミングもなくなって……それで、紗千香ちゃんには協力してもらったんだ



  *回想シーン  

 

*事故の当日の公園 参治が一人物思いにふけっているところに紗千香登場


紗千香 あー、参治くんようやく見つけたよ。


参治  紗千香ちゃん、どうかしたの?


紗千香  うん、まあ、ちょっとね。妃那乃に聞いたんだけど、ふたりが付き合っていないってホント?


参治  まあ、本当には本当だよ。別に付き合っているわけではない


紗千香  じゃあさ、わたしと付き合わない?


参治  え?


紗千香  私、参治君のことわりとイケてると思ってる


参治  そう言ってくれるのはありがたいんだけど……


紗千香  ああ、ちょっと待って。その……もうすでに何となくは察した。だからさ、とどめを刺すのはもうちょっと待って。せめて一週間。そう、来週の19:00、ここで返事聞かせて。それまでに、ちゃんと覚悟決めとくから


参治  うん、わかった


参治  ――そんなこともあり、少し浮足立ってしまった俺は不注意のあまり事故に遭ってしまった。そして――


*月曜日の放課後、校門前で妃那乃を待つ参治のところに紗千香がやって来る


紗千香  あ、参治君。妃那乃を待ってるの?


参治  え、あ、うん……


紗千香  いろいろ大変だったみたいね。記憶喪失だとか?


参治  妃那乃から、そう聞いたの?


紗千香  うん、まあね


参治  まいったなあ。あ、そうだ。明日の放課後の約束なんだけど……


紗千香  なんだ、記憶。ちゃんとあるんじゃないですか。心配したんですよ


参治  ごめん。実は妃那乃が俺を記憶喪失だとおもいこんでかくかくしかじか……


紗千香  なるほど、そういうことならわたしに協力させてください。わたしだってつらいんですよ。どうせふられるなら、参治君たちにはちゃんと幸せになってもらわないと割に合いませんから


参治  すまないな……


紗千香  いえ(*笑顔で微笑む)



*回想終わり、現在公園のベンチ参治と妃那のが並んで座っている



妃那  ねえ、さっきの話なんだけど、紗千香に言っていた、ずっと好きな人がいるって……


参治  ああ、やっぱりそれ、気になる?


妃那  べ、べつに気になるわけじゃあないけどさ


参治  ずっと片思いなんだよ。だけど、そいつは俺のことをからかってばかりでさ。

本心がどうしても聞き出せなくてな…… それで、紗千香が本心を聞き出すために協力してくれるって言ってくれたんだよ

 おれもさ、くだらないことやってどうにか恋人のフリしながらそのまんま本当に恋人とかになれないかなとか、つまらないことばかり考えてしまったんだけど、本当に大事なことは、ちゃんと言葉に出して伝えることなんだってわかったよ。紗千香ちゃんが、そうしてくれたように。

 だからさ、俺も、今日はちゃんと言おうと思って


妃那  あのう、もしかしてそれって……


参治  ああ、俺にはずっと好きな人がいて、ずっと思っていたんだよ。この人といつかは家族になりたいって。妃那乃、俺の想いをを聞いてもらっていいかな


妃那  待って、あたしも、あたしも参治に聞いてもらいたい想いがあるの


参治  いや、もう待てないよ。ずっと我慢していたんだから


妃那  そ、それじゃあ、同時に言いましょう


参治  ああ、わかった


  *見つめあう二人。以下のセリフはハモるカンジで



「おれは、妃那乃と家族になりたい!ずっとひなのといたいよ!」

「あたしは、参治と家族になりたい!ずっと参治といたいよ!」


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子供のころに告白したことを美人な幼馴染にからかわれている俺。ある日俺が事故に遭い記憶が少し飛んでしまったことを知った幼馴染「私が君の彼女だよ?」俺「嘘じゃん」 水鏡月 聖 @mikazuki-hiziri

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