第42話 小さくて大きな一歩
――それから、翌朝のこと。
一年二組の教室にて――ホームルームの少し前、皆の視線が一点に集まる。開いた扉の前にじっと立つ一人の男子生徒、
おはよう、音咲くん――もちろん、教師なら真っ先にそう言うべきなのだろうし、きっと普段ならそうしてると思う。だけど……きっと、今は違う。今、僕がすべきは――ただ、彼を見守ること。すると、少しの間があった後――
「……えっと、その……おはよう、みんな」
「良かったですね、
「……うん、そうだね
それから、数時間後の昼休み。
屋上のベンチにて、ほのぼのとそんなやり取りを交わす僕ら。あの後――扉の前で音咲くんが挨拶をした後、ややあって疎らながら笑顔で挨拶を返すクラスメイト達。そして、その輪はほどなく広がって、中には音咲くんに近づき迎え入れる生徒も数人いて。そんな光景に、僕もほっと安堵を覚えて……彼女の言うように、彼が皆と打ち解けるのも時間の問題だろう。
「ところで、由良先生。その音咲くんについてですが――心做しか、先生と私をどこか困惑の表情でご覧になっていたように思うのですが、やはり私の気のせいでしょうか?」
「……うん、それは言わないで」
そう、何とも愉しそうに話す蒔野さん。……うん、確かに戸惑ってたよね。まあ、それもご尤も……突然、自身のクラスメイトと教師が抱き合ってる
さて、もはや説明不要かもしれないけど……昨日のあの時――蒔野さんと抱き合っていたあの時、ふと視線を感じ目を向けると、そこには茫然とした
「――まあ、
すると、不意にそう告げる蒔野さん。その手には、水色のランチクロスに包まれた長方形のなにか……まあ、なにかも何も決まってるけど。なので――
「……うん、ありがとう蒔野さん」
そう、受け取り告げる。そして、彼女の承諾を得てクロスを開く。すると、出てきたのは銀色の箱。そっと蓋を開けると、果たして――
「……うわぁ、すっごく美味しそう」
パッと視界に映るは、彩り豊かな具材に満ちたお弁当。定番のハンバーグや卵焼き、そしてほうれん草のおひたしなど栄養バランスもすごく良さそう。改めて感謝を告げ、まずは卵焼きから――
「……美味しい」
ポツリ、そんな感想が洩れる。たった四文字の、何とも単純な感想。……まあ、僕に見事な食レポなんて期待してないだろうけど……それでも、流石にもうちょっと言いようが――
「……ふふっ、ありがとうございます先生。頑張った甲斐がありました」
すると、隣でそう告げる蒔野さん。疑いようもなく嬉しそうな、満面の笑顔で。そんな彼女に、僕もすごく嬉しくなって――
その後も箸が止まらず、ハンバーグやおひたしなど次々に美味しくいただく僕。……うん、ありがとう蒔野さん……そうだ、今度は僕が――
「――――
卒然、叫びを上げる僕。と言うのも……二つ目のハンバーグを噛んだ直後、口の中に痛烈な辛さが――
「ふふっ、ようやく当たりを引いたみたいですね?」
すると、何とも可笑しそうに問う蒔野さん。まあ、問いといっても答えは分かってるのだろうけど、それはともあれ……うん、実は根に持ってた?
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