第27話 お見舞い

「――早く元気になってね、さいちゃん! 皆待ってるから! はい、これ」

「……うん、ありがとう美奈みなちゃん。それに、皆も」



 それから、数日経て。

 病室にて、パッと手を差し出し笑顔で励ましてくれるのはクラスメイトの明るい女子生徒、美奈ちゃん――そして、数多のクラスメイト達が彼女に同意を示すように笑顔で頷いてくれて。


 そんな暖かな皆に謝意を告げ、美奈ちゃんの手から受け取る。きっと皆で折ってくれたであろう、色とりどりの千羽鶴を。……でも、ちょっと倒れただけなのに……うん、みんな優しいなぁ。




「――それじゃまたね、彩ちゃん!」

「無理せずゆっくり治せよ」

「うん、今日はほんとにありがと皆」


 それから、一時間ほど経て。

 口々に暖かな言葉をくれる皆を、感謝を込め笑顔で見送る。……ほんと、みんな優しいなぁ。こんな私のために、わざわざこんなにも――



 ――トントントン。


「…………ん」


 ふと、微かに鼓膜を揺らす音。ゆっくりと身体を起こすと、オレンジ色の光が差し込んで……そっか、寝てたんだ、私。


 まあ、それはともあれ……今、音したよね? でも、誰だろう? そんな疑問を浮かべつつ、ゆっくりと歩いていき扉を開く。……よもや、あの両親おやがわざわざ来るとは思わな――



「……あっ、ごめんね久谷くたにさん。無理させちゃって」

「…………あ」



 すると、そこにいたのは申し訳なさそうに話す美形の男性。そんな彼の姿に、どうしてかホッと安らぐ自分がいて……ふふっ、なんで謝るの?




「……ありがとね、先生。忙しいはずなのに、わざわざ来てくれて」

「ううん、そんなことないよ。それより、体調はどうかな? 久谷さん」

「うん、もうだいぶ良くなってる。今日だって、すっごく学校に行きたかったくらいだし」

「……そっか、それは良かった。でも、無理はしないでね。いつでも待ってるから」

「……うん、ありがと先生」



 その後、ほどなくして。

 ベッドに戻り謝意を伝えると、穏やかな微笑で答え私を気遣ってくれる由良ゆら先生。……うん、やっぱり安心するなぁ、この人は。これなら、倒れるのもたまには悪くないかも。



 ――そう言えば、感謝と言えばもう一つ。 


「そう言えば、今更だけどありがとね先生。あの時、私を支えてくれて」

「……ううん、気にしないで久谷さん」


 そう伝えると、軽く顔を横に振りつつ柔らかな微笑で答える先生。あの時、私は倒れた。でも、床に身体を打ちつけることはなかった。と言うのも……倒れる前に少しフラッとした時点で異変に気付いてくれたのだろう、さっと駆け付け床に落ちる前に私を支えてくれて――


 ……そう言えば、初めてかな? あんなふうに、男の人に身体を支えてもらったこと。まあ、わりとすぐに意識が飛んだはずだし、そこまでちゃんとは覚えてないけど……でも、ちょっとお姫さま抱っこみたいな感じだったような……ふふっ、ちょっと役得? でも、状況が状況だし流石に許してくれるよね? 藤宮ふじみや先生も……蒔野まきのさんも。



「……あ、これって……」


 すると、ふと枕元に視線を移し呟く由良先生。そんな彼に、私はふっと微笑み告げる。


「うん、さっき皆がくれたんだ。ちょっと倒れただけなのに、皆ほんとに優しいよね。もしかして、先生も作ってくれた?」

「……あ、いや、僕は……」

「えっ、作ってくれなかったの? 先生。私のこと心配してくれてると思ってたのに……なんかショック」

「……えっと、その、ごめん……」

「……ふふっ、冗談だよ。ごめんね先生?」


 すると、私の言葉にたどたどしく謝る先生。そんな彼の姿に、私は少し可笑しくなって……うん、ごめんね? 意地悪しちゃって。誰にも言われてないけど、流石に分かるよ? どうせ、出しゃばるべきじゃないとでも思ったんでしょ? 皆が――大切な教え子達が、友達のために進んで行動しているところに、自分が出しゃばるべきじゃないとでも思ったんでしょ? ……ほんと、何ともこの人らし――



「……ところで、久谷さん。その、単刀直入に聞くけれど……最近、なにかあった?」



 卒然、ふっと降りてきた先生の問い。……まあ、意外かと言われればそうでもない……と言うか、まず間違いなくどこかで聞かれるとは思ってたし。


 ……さて、なんと答えよう。なにかあったと言われればあったし、無かったと言えば無かった。確かに、ここ最近の自分が傍目からもおかしかったことは自分でも分かってる。分かってる、けど……その根本的の原因は、なにも今に始まったことでなく。


 ところで……傍目からとは言ったけど、それほど表面おもてに出していたつもりもない。実際、皆気付いてなかったし。それこそ、気付いていたのは由良先生……それと、蒔野さんくらいかな。



「……うーん、よく分からないかな。でも、あの日は朝からちょっと体調悪かったから、たぶんそれが原因かなとは思うけど」


 ともあれ、そんな返答をする。……うん、嘘は言ってない……よね? 実際、明確な理由までは断言出来ないし、あの朝ちょっと……いや、わりと体調が悪かったのもほんとだし。それこそ、生まれて初めて授業に遅れる程度には――



「……ねえ、久谷さん。もちろん、君のプライバシーに関わることだし、無理にとは言えない。だけど……もし良かったら、話してくれないかな? 久谷さんの抱えていること。どんな話でも、絶対に受け止めるから」

「…………先生」



 すると、私のを真っ直ぐに見つめそう口にする由良先生。私を真っ直ぐに見つめるその綺麗なから、これ以上もなく真摯な思いが伝わって――


 ……全く、お人好しだなぁ。どうせ、分かってるくせに。私が何をしたのか、とっくに分かってるくせに。そして、それは貴方にとって到底許し難いことのはず……なのに、それでも貴方はそうやって……うん、そういうことなら――



「……そっか。うん、そこまで言ってくれるなら、聞いてもらおっかな。でも、分かってると思うけど……お世話にも、楽しい話とは言えないからね?」


 そう、悪戯っぽく告げる。すると、彼は柔らかな微笑で頷いてくれた。



 

 









 


 

 

 

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