第26話 心当たり
「――それで、平安時代の貴人における恋愛は、男性が女性に文を送るところから始まり――」
それから、数日経て。
一限目にて、壇上から生徒達を見渡しつつ授業を進める。大方は平時と同じ光景――されど、この三ヶ月で一度も見たことのない光景で。
ちらと、再度視線を移す。窓際から三列目の、前から三番目――
……いや、事態なんて言ったら大袈裟かな。彼女だって人間――例えば、体調を崩してしまうこともあるだろう。だから、少なくとも今の段階で大袈裟に考えることじゃない。ないのだけど……それでも――
――ガラガラガラ。
「……ごめん、先生、皆……ちょっと、遅くなっちゃった」
不意に扉が開き、息を切らした様子でそう口にする女子生徒。そんな彼女に、僕は――
「……ううん、気にしないで。それより、こうして来てくれて良かった……まだ連絡もなかったから、どうしたのかなと心配してて……」
そう、心からの安堵を告げる。すると、ボブカットの少女――久谷さんは、寝坊しちゃったと恥ずかしそうに微笑み……うん、ほんとに良かった。ひょっとしたら、なにか重大な……それこそ、事故にでも遭ったんじゃないかと――
「――――っ!! 久谷さん!!」
「…………あれ」
ふと、ポツリと声が洩れる。そんな私の視界には、見慣れない白一面が広がって。……えっと、ここ、どこ? そもそも、私は確か――
「――あら、目を覚ましたのね久谷さん。良かった」
「…………へっ?」
すると、不意に届いた穏やかな声。見ると、そこには
…………そっか、私……あの時、倒れたんだ。
……ただ、そういうことなら――
「……あの、看護師さん。その、私、学校に……」
「……まさか、戻るつもり? もちろん、学校が好きなのは良いことだけど流石に駄目。今日はゆっくり休みなさい」
「…………はい」
たどたどしく口を開くも、穏やかながら少し厳しい口調で答える看護師さん。……まあ、そりゃそうだよね。
その後、暫しして診断を受けることに。医師の話によると、今日の卒倒は過度のストレスが原因だろうということで。……過度のストレス、か。まあ、心当たりがないでもないけど。
「……やっぱり、まずいかな……いや、でも……」
その日の、放課後のこと。
そう、一人ブツブツ言いながら辺りをうろうろとする僕。……うん、怪しいことこの上ないね。どうか捕まりませんように。
さて、そんな不審極まる僕がいるのは白を基調とした二階建ての家――久谷さんの家の辺りで。用件はもちろん、今朝の件――彼女が突然倒れた、あの一件に関してで。原因を解明すべく、ご両親から何かしらお話を伺えたらと思いこうして訪れたわけで。
…………なのだけども。
「……いや、でも、うーん……」
そんな呟きを洩らしながら、なおも辺りをうろうろとする怪しい僕。……うん、どうか捕まりませんように。
ともあれ、何をそんなに悩んでいるのかと言うと……まあ、こうしてお宅に伺うことが果たして適切なのかどうかということで。
「…………あの、すみません」
「――っ!! いえすいません決して怪しい者では――」
そんな懸念の
「……あの、ひょっとして……
「…………へっ?」
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