第7話 僕のすべきこと
「……本当に、ほんの少しでも良い。なにか、少しでも事情を知っている人がいたら教……いや、知っててもここでは言いづらいよね、ごめん」
翌日、朝のホームルームにて。
教壇から、控えめに問い掛けるも返答はない。……いや、問い掛けてもいないか。結局、最後まで言い切れずただ謝っただけだし。
だけど、この沈黙は恐らく僕の言葉が伝わっていないからじゃない。むしろ、今の僕の話に関し何かしら共通の認識がある――それが、皆の表情や反応から改めて見て取れる。今、
「……それでは、ホームルームを終わ――」
「ちょっと待って!!」
その後も沈黙が続き、ホームルームも終わり間近のこと。
些か躊躇いつつ告げる僕の言葉を遮る形で、不意に立ち上がり声を上げる女子生徒。少し呆然とする僕に、その生徒――
「……その、
「……メール?」
「あっ、それたぶん私のとこに来たのと同じやつ! なんか、急に
「……っ!! ちょっと待ってよ
「――ちょっと、私のせいみたいに言わないでよ美加! 私だって急にあんなメールが――」
「――落ち着いて皆! 僕は誰も責める気なんてないから!」
すると、久谷さんの言葉を皮切りに次々と発言をする生徒達。そして、そんな彼女達をどうにか宥めつつ情報を整理する。恐らく……いや、間違いなくチェーンメールの類だろう。何処かの誰かが、何らかの意図で蒔野さんに関する何かしらの情報を流したんだ。事実かどうかも定かでない――ともかく、恐らくは彼女の名誉を酷く損ねるであろう何かしらの悪質な情報を。
「……それで、先生。そのメールの内容についてなんだけど……ごめん、流石にここでは言えないかな。この様子だと、たぶん皆も知ってると思うんだけど……それでも、内容が内容なだけに、多くの人の前で話すようなことじゃないと思うから……だから、また後で話すね?」
「……うん、ありがとう久谷さん」
その後、逡巡したようすでそう話す久谷さん。そんな彼女の気遣いに、こういう状況ながらもじんわり胸が暖かくなる。
ところで、本来ならもう一限目が始まっている時間なのだけど……今日、このクラスの一限目は古文――僕の担当する教科だったのは幸いだったかも。
「……さて、どうしようか」
その日の放課後のこと。
昇降口を出た辺りで、ポツリと呟きを零す僕。まあ、何をするかは決まっているんだけど……どうしようかというのは、その方法についてで。
ちなみに、あの言葉の通り後ほど――昼休み、例の件にて久谷さんが教えてくれて。具体的には、僕のスマホに例のメールを送ってくれた。口頭での説明だと多少なりとも誤解が生じるかもしれないし、何より校内で話すと万が一にも誰かの耳に入る可能性があるからという彼女の有り難い配慮だった。
ところで、本来であれば
ともあれ、何をするかというと――今、何処にいるかも定かでない蒔野さんの下へと向かうことで。と言うのも……蒔野さんだけでなく、彼女の親御さん――現在は、一人で彼女を育てているお父さまからも何の連絡もないから。
お父さまは、以前は大学の教授として勤務なさっていたとのこと。だけど、10年ほど前のお母さまとの離婚を機に、幼い一人娘である蒔野さんを寂しくさせないよう自宅で出来る仕事――例えば、翻訳の仕事などに徐々に切り替えていったとのことで。
尤も、その幼い娘さんも今や高校生――もう在宅の仕事にこだわる必要もないのだろうけど、すっかり
さて、随分と回りくどくなってしまったけど――つまりは、蒔野さんが家にいるのであれば、家にいるであろうお父さまからその旨――欠席の旨を伝えるご連絡があるだろうということ。もちろん、その際も例のメールを考慮すれば欠席の理由まではお話し出来ないかもしれないし、そもそもお父さまご自身も事情を知らない可能性が高いと思う。
そして、連絡がないということは――恐らくは、蒔野さんが家にいないということ。もちろん、彼女自身がお父さまに学校に連絡しないよう頼んだ可能性もないとは言い切れないけど……でも、あくまで憶測だけど、そうする理由なんて別段ないように思えて。正直、それよりも――お父さまに心配を掛けぬよう、普通に学校に行く時間に家を出た後どこかで時間を潰している、と考える方が、僕のイメージする彼女の印象とも符号する気がして。
まあ、それはともあれ……さて、どうしようか。探すといっても、彼女の行きそうな場所にまるで見当がつかない。さて、どうしよう……うん、やっぱり一つしかないよね。
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