その③ 一二三四五六七八九十
子供の頃、爪を
私の癖はちょっと変わっていて。
例えばテレビの画面や部屋の中に、自分の中で理解出来ない、よく分からないものがあったり、何となく存在そのものが汚くて目に触れることすら嫌だと思うようなものを見てしまった時。
私はその瞬間息を止めて瞬きを一度だけした後、どこでもいいから何かの陰になりそうな空間を探すんです。見付けたら、瞬きで目の中に閉じ込めた嫌なものをその空間へ振り落とすように二回頭を縦に振って、嫌なものがそこに馴染むまで頭の中で『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十』と急いで数えた後、嫌なものを閉じ込める感覚で視線をずらして見えないようにするんです。
どんな動きか、わかりますか。
遊んでいても、ごはんを食べていても、嫌なものが目に入る度にそんな動きを繰り返すので、気付いた母からは何度も注意を受けましたが、私には止められませんでした。そうしないと自分の中に嫌なものがどんどん入り込んで来そうな気がして、その方が怒られることよりも怖かったから。
私は部屋中の色々な空間に、嫌なものを閉じ込めました。
テレビの裏の壁や、書類を積んだ時に出来るほんのわずかな隙間。
すぐに見付からない時は、絨毯をめくって十数えた後、めくったものを元に戻すようにして隠しました。
その行為をするようになって、二年ぐらい経った時でしょうか。何を嫌だと思ったのか今となってはもう覚えていませんが、何かを見て「嫌だ」と思った私は、いつものように息を止めて瞬きをし、部屋の中で光の当たらない陰になった空間を探してから、首を二回振った後、頭の中で数を数えました。
一、二、三、四、五、六、七、八、九、十。
そうして視線をずらそうとした時、聞こえたんです。
じゅういち、と続ける声が。
父でも母でもきょうだいの誰のものでもないその声にびっくりした私は、今さっき自分が嫌なものを置き去りにしようとした空間を見ましたが、そこには影があるばかりでした。怖くなった私は「うそです、ごめんなさい、かくしてごめんなさい」と心の中で必死で謝り続けました。
その後もつい、癖で何度かやりましたが、声が聞こえたのはその一度だけです。
あの声は家の中の色々なところになすりつけるように閉じ込め続けた嫌なものが集まって出したものなのか、あるいは、嫌だと思う私の気持ちに引き寄せられた何かが出したものなのか。大人になった今でも分からないままです。
更に言えば、どうしてあんな癖があったのかも理解出来ないままですが、まぁ、そういうものですよね、癖なんて。
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