その② 一台の自転車

 私の妹は地下街にあるリフレクソロジーの店で働いているんですが、人の身体からだの痛みを探ろうと神経を集中させるためか、何かのセンサーみたいなものが鋭いスタッフが多いようで、不思議な体験をしたという話もたまに耳にするそうです。

 今年のお正月、久しぶりに実家で会った時、「そういえば、この間こんなことを聞いたんよ」と話してくれました。


 店のオーナーが、スタッフの女性と二人で車に乗って出掛けた時のことです。


 走行中、運転席から左側のサイドミラーを見ると、こちらに向かって走って来る一台の自転車が映っていることに気が付きました。漕いでいたのはおじさんで、真っ直ぐ走ってこちらへ近付いてきたので、この先の曲がり角で左折する予定だったオーナーは「巻き込んだらあかん」と思い、少しスピードを緩めておじさんを先に行かせることにしました。


 ほどなくおじさんはそのまま直進して行ったので、オーナーは元のスピードで再び走り始めたのですが、助手席にいたスタッフが「何で信号は青だったのに、スピード落としたんですか?」と不思議そうに尋ねてきました。

 

 オーナーは「自転車に乗ったおっちゃんが来てたでしょ?」と応えると、スタッフは「え」と顔色を変え、真剣な顔で「そんな人いませんでしたよ」と言ったのです。


 「でも確かにそこのサイドミラーに映ってたやん」とオーナーは繰り返したのですが、スタッフは「見てないし、通り過ぎてもいない」の一点張り。


 おかしいなと思いながらも曲がり角に差し掛かったので左折したところ、オーナーは道路脇に花が供えられているのを見付けたそうです。あの自転車おじさんに手向けられたものなのかはわかりませんが、「なるほどな」とオーナーは納得したそうです。



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