第12話 異常個体との遭遇、そして戦闘


 ――これはヤバい


 ――スキル【透明化】


 瞬時にヤバいモンスターだと理解した俺は、スキルを間髪入れずに発動した。


 が、


 ――プシュッ


 スキル発動と同時に二回目の酸が俺に向けて放たれる。


「っ!!!!」


 大きくうしろに退き、ギリギリで回避。


「あっぶねぇ。もう少しであの世行きだったな」


 発動のタイミングが酸の攻撃よりも少し遅かったみたいだ。


 ほんとに間一髪。ちょっと服にかかって溶けてるし。


「でも透明化を使っちまえば、こっちのもんよ! ほーれほれ」


 煽りつつ、巨大な蜘蛛のモンスターを改めてまじまじと見てみる。


「あれ……まさか……」


 複数ある大きく鋭い赤い目は、こちらを引き続き見下ろしているように見える。


「これ、まさかレベル差――」

「キィイイイイイイイイイイッ!!!!!!」


 突然、モンスターは耳をつんざくような叫び声をあげる。

 煽りが通じたのか、そこには苛立ちが混じってるように聞こえた。


「一旦これは退避!!!」 


 作戦を考える為に、とりあえず全力で逃げるを選択。

 俺はとにかく行き止まりに当たらない道を全速力で進んでいく。


 少ししてうしろを振り向くと、ヤツはいなかった。


「セーフ……。なんだったんだアイツ」


 ネットで見た情報には、2階層にあんな化物モンスターがいるなんて書いてなかった。


 まぁ冷静に思い返すと、見た目はケツマッカチビスパイダーと同じだったから……それか?


 いやでもデカすぎるけどな。

 アイツ、ケツマッカチビスパイダーとはサイズが一回りも二回りも違ったぞ。

 明らかにこの2階層に合ってないモンスターだった。


 レベル差で透明化も効いてなかったし。


「……さて、この状況どうするか」


 アイツと戦うにしろ戦わないにしろ、帰り道にいるわけで、エンカウントは避けられない。


 イチかバチか走って突っ切って逃げるのもありなんだけど。


「それはつまんないよなぁー?」


 ゲーマーとしては、強敵が現れたら挑戦したい。戦ってみたい。

 想像しただけでワクワクする。


「あーだめだだめだ。ついゲームで考えてしまう」


 ここは現実。

 オサムの兄貴にも言われただろ。

 無理な挑戦をするやつは英雄じゃなくてアホだって。


 俺がするべきことは、逃げられる作戦を本気で考えて実行する。それだけ。


 なんだけど……。


「ハッ! 俺はアホだからな。だてに10年引き篭もってねーっての! アホとゲームが血に流れてる男を舐めんなっ」


 俺は迷わず巨大蜘蛛への挑戦を選択する。


「んじゃやったるかぁ」


 覚悟を決めて、来た道を引き返す。

 ゆっくり、焦らず慎重に歩を進めていく。


 ほどなくして、十数メートル先の巨大蜘蛛を視界に捉えた。


――――――――――――――――――――――――

【ケツマッカチビスパイダー異常個体】

ケツマッカチビスパイダーが突然変異した異常個体。

通常個体とは比較にならない程、サイズ・攻撃力・凶暴性が増している。

――――――――――――――――――――――――


「っ!」


 突然のポップアップウィンドウに驚く。


 アイテムだけじゃなくてモンスターの説明も見れるのか。

 凄すぎるだろ子供探偵メガネ。


 にしてもアイツがケツマッカチビスパイダーって分かっただけでもかなりデカい。


 だってケツマッカチビスパイダーなら、弱点は頭ってことだろ。

 ぶっ刺せば俺の勝ちじゃん。


 巨大蜘蛛はまだ俺には気付いていないみたいで、背を向け地面を歩いている。


 あー頭が向こうかー。

 まぁでも天井から降りてるし、ラッキーだな。


 今のうちにさっさと倒しましょうかね。


 ポップアップウィンドウをオフにして、俺はスキルを発動する。


 ――スキル【弱点特効】


「ふぅー」


 深く息を吐いて――吸って――。


「!」


 俺はダガーを強く握り締め、一気に駆け出す。

 地面を勢いよく蹴って蹴って、一瞬で巨大蜘蛛との距離を詰める。


「うおりゃぁあああ!!!」


 俺は巨大蜘蛛の下に潜り込み、脚の付け根と胴体、そして頭部を斬りつけながら通りすぎる。


 感触はあったが、どうだ。


 すぐに振り返り、巨大蜘蛛を確認。

 付け根の部分が少し傷付き、少量の血が出ている程度で、胴体と頭部は無傷に見える。


 浅かったみたいだ。


「ギイィイィイイイイ!!」


 あ、怒らせてしまったらしい。


 甲高い声で鳴いた巨大蜘蛛は、鋏角をカチカチさせながら素早い動きでこちらに近づいてくる。


「こわっ!」 


 予想以上に足が速い。 

 逃げる暇も距離を取る暇もなく、巨大蜘蛛の間合いにまで距離が縮まる。


「――っと――うぐっ――んっ――ふっぁ!!!」


 大きな鋭い脚の突き刺し攻撃を、俺は紙一重で回避していく。

 避けるのが精一杯で、反撃できないどころか変な声がつい漏れてしまう。


 これ一回でも当たったら絶対死ぬやつ。

 脚で突かれた地面がくっそえぐれてるし、絶対ヤバい。


 俺は何度も何度も巨大蜘蛛の攻撃を避けていく。


 次第に、目が慣れてきたのか動きが少しだけ見えるようになった。

 そのおかげで、反撃の機会を伺う余裕ができる。


 ――コイツ、たまに脚が地面に深く刺さりすぎて引っこ抜くのに時間がかかる時があるな。


 時間がかかるって言っても、1秒にも満たないレベルだけど、コンマ一秒の戦いでは十分な隙――反撃のチャンスになる。


 俺はそのタイミングを待ちつつ、回避していく。

 そして、時は来た。


 ――ズドンッ


 勢いよく振り上げられた脚は洞窟の地面に深々と刺さり――隙が生まれた。


 ココだッ!!!


「しねぇえええ!!!」


 瞬時にダガーを逆手に持ち、


 ――スキル【弱点特効】


 頭部に思いきりブッ刺した。

 ダガーの刃が見えなくなるほど奥まで。


「ギイィイィイイイイアアアア!!!」


 すると巨大蜘蛛は今まで以上の叫び声を上げ暴れ回り、鋏角を大きく開き始めた。


「あっ」


 ――スキル【危機察知】


 俺はすぐにダガーから手を離して素早くしゃがむ。

 刹那、頭上を大量の酸が飛び越えていく。


「あぶなっっ!!!」


 それが巨大蜘蛛の最後の悪足掻きだったのか、ドシンっと倒れ込みやがて動かなくなった。

 直後、死体は消え大きな魔石と経験値に変化した。


「ふはっ、ふははははははッ!!」


 勝った!

 俺は格上に勝ったぞ!!!

 透明化スキルなしで!!


 なーんだ俺つーえーじゃん! 

 楽勝じゃねーかよ!!!


 と思ったが、急に足の力が抜けてその場に膝から崩れ落ちる。


「ふ、震えてる……」


 生まれたての小鹿のように、足がガクガクと震えていた。


「まっ、まぁ武者震いってやつかなぁアハハ!(強がり)」


 ……ちょっと休憩するか。

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