第11話 はじめての2階層

 次の日。


「おはざーす」


 今日も今日とて夕方に起きた俺は推しに向かって挨拶。

 ラノベと漫画とフィギュアに囲まれた世界一落ち着く空間で、大きく伸びをして起き上がる。


「ふぁ~。体は……大丈夫そうだな」


 そろそろ筋肉痛が出てくる頃合いかと思ったが、意外と体中どこも痛くない。


 学生の時とか、派手に運動した次の日には、体全身痛くて湿布貼りまくってたんだけどな。

 成長したなー俺も。


「って事で今日も行きますか」


 探索の前に、まずはいつも通りの朝(夕方)のルーティンをこなす。

 ソシャゲのデイリーをしつつ、トイレに行って歯を磨いてご飯を食べる。


「ナギト……」


 ご飯をもうすぐ食べ終わるところで、母さんに話しかけられた。


「なに?」

「昨日はその、高校のジャージを着て帰って来たわよね……?」

「あー……」

「しかも普段してない眼鏡もかけたりして。――ほんと、変な事はしてないのよね?」


 帰って来たところを見られてたか。

 バレてないと思ったんだけど。


「なにもしてないから。安心して」

「そう……。母さんは味方だから、何かあるなら相談してね?」

「うん。ありがとう」


 こんな似たような会話何回目だろう。


 探索者のことを普通に言った方がいいのかなー。

 いやでも絶対話したら色々訊いてきた上で、辞めときなさいとか言ってくるんだよな。


 今までも同じようことあったし。


 うんやめておこう。

 話すのは探索者一本で食ってける状態になってからでも遅くないだろ。


「ごちそうさま」


 食べ終わった俺は、ダンジョンに行く用意を急いで済ませて家を出る。

 今日はダンジョンの前に行きたいところがあるから即行動。


「とりあえず、まずは酔い止めだな」


 忘れないうちに、近くのコンビニに寄って酔い止めを購入し、服用。


「で、お次が本命のダンジョンショップだね」


 歩いて10分。駅近くのダンジョンショップに着いた。


 ダンジョンショップ。

 ダンジョン探索に関連するありとあらゆる道具、便利グッズを揃えているショップだ。


 俺はここでかばんを買おうと思っている。

 詳しく言うと、魔石専用のウエストポーチだ。


 探索を続けてるとリュックが魔石でいっぱいになる問題をどうしようか悩み、昨日ネットで調べてみたら、それが検索にヒットした。


 見た目は普通の小さなウエストポーチだが、魔法科学で作られた特別仕様で、見た目以上の魔石が中に沢山入れられるらしい。


 デメリットは魔石しか入らないとの事だが、探索者からしたらデメリットでもなんでもない。


 実際大抵の探索者はこういった魔石専用ウエストポーチを買ってるっぽい。


「えーっとかばん系は……あそこか」


 沢山の道具が並ぶ店内を歩く。


「あったあった。ウエストポーチっと……ってたかっ!」


 一つ一つ左から順番に見ているが、ウエストポーチはどれもこれも値段が20万円を超えている。

 魔石専用リュックにいたっては余裕の50万オーバー。


「ネットで見かけたのは数万円台だったのにな。ちょ、もっと安いのはないのか」


 しばらく探して、ようやっと予算内のウエストポーチを見つける。

 そいつは端の奥に陳列されていた。


「んー、一番安くて2万8千円……」


 痛い出費だけど、沢山入るならまぁいいか?

 その分魔石をくそほど集めてお金を稼げばいいしね。


「あそうだ」


 念のために迷宮遺物、子供探偵メガネ(勝手に命名)で説明を見てみるか。


――――――――――――――――――――――――

【激安魔石専用ウエストポーチ】

魔法科学で作られた激安の魔石専用ウエストポーチ。

耐久性はいまいちだが、安さの割に大量の魔石が入る。

――――――――――――――――――――――――


「大量か。よし買おう」


 ウエストポーチを購入。

 早速装備し、チャックを開けて中を確認。


「これどうなってんだ」


 中が真っ暗で何も見えない。

 異次元空間的なやつなのか?


「とりあえず準備も終わったし、探索にいざレッツラゴー」



 早速ダンジョンに着いた俺は、昨日と同じ手順をふむ。


 マップの写真を撮って、ジャージに着替えてからルートを決める。


「今日は初の2階層に行ってみようかな~」


 ゲーマーとしてはしらみつぶしにマップを調べたいところではあるが、1階層にずっと居ても成長しないしな。


 一番探索が進んでいるパーティー(前線組)はもう28階層にいるっぽいし。


 俺も早くどんどん先に進まないと、このダンジョンが終わっちゃう。


 ※ダンジョンは、一番下の階層にいるボスが倒されると崩壊する。


 ボス討伐ひいてはダンジョン攻略までにかかる期間は、ダンジョンの規模によって異なるが、超大型は大抵3カ月を要する。


 しかし今回の超大型ダンジョンは、過去に出現した超大型の中でも最速で探索が進んでおり、一部ニュースでは、このペースだと1カ月以内にダンジョンが攻略されるのでは、とも言われている。


 流石に前線組に追い付くとまではいかなくても、せめてその半分くらいは探索しておきたい。


 なぜなら、下に行けばいくほど魔素が濃くなって魔石が高値で売れるからね。モンスターも強くなっちゃうけど。


 稼げるときにできるだけ稼いでおきたい。

 次いつどこにダンジョンが現れるかも分かんないし。


「最短ルートで2階層いって、そこからは……ここかな」


 ――スキル【透明化】を発動して、最初にオサムの兄貴と探索した道を進み、2階層へ続く階段を降りていく。


 探索者の出入りが多い影響か、途中モンスターとは遭遇せずにすんだ。


 しばらく階段を降り、やっと2階層に着いた俺は、昨日と同じ感じで距離の長い、下へ降りる階段がないルートを選択。


 モンスターをできるだけ狩れるルートだ。


「いっちょやりますかー」


 ――スキル【透明化】


 ――そしてタイマー起動(ちょっとカッコつけてボタンを押してみた)


 2階層は1階層と出現するモンスターに変わりはないものの、少しだけ強くはなっているはずなので、警戒しながら進む。


「にしても代わり映えしない景色だなぁ」


 前の階層と同じ薄暗いごつごつした岩肌の洞窟。

 少し広くなった程度しか違いは無い。


 もっと下の階層になるとモンスターに併せてフィールドも変わるらしいが、まだまだ先だろう。


 とそこで早速1匹のチビヒキコウモリが現れる。

 今回は起きている個体で、元気に飛びまわっているみたいだ。


「流石にまだ透明化は効くよね?」


 ダガーをしっかり構えながら、一歩ずつゆっくり近づいてみる。

 残り1メートルくらいのところまで来たが、バレる様子はない。


「ほっ。まだ大丈夫そうだね」


 ――スキル【弱点特効】


 ――シャッ


 素早くダガーを振るい、チビヒキコウモリを切断。

 声を出す暇もなく、チビヒキコウモリは魔石と経験値に姿を変える。


「――さて、どうなるかな」


 魔石を拾いあげて、魔石専用ウエストポーチに入れてみる。


 ――スポッ


「おお」


 魔石は吸い込まれるようにポーチの中へ消えていった。


「んで出す時はどうすんのこれ」


 手を突っ込もうとしても見えない壁にはじかれて取り出せない。


「ええ? こうか?」


 ポーチをひっくり返して揺すってみる。


 ――カランッ


 出てきた。

 収納技術は凄いのに、出し方は結構雑らしい。


 これが安いからなのか、どれもこんな感じなのかは分からない。


 ウエストポーチの使い方を確認できたところで俺は、ステータスカードを見る。


――――――――――――――――――――

 椎名凪斗 27歳 Eランク

173センチ 痩せ型


Lv.21

HP 3823/3823

MP 1845/1911


スキル

・透明化  Lv.4 ・危機察知 Lv.1

・昼夜逆転 Lv.8 ・弱点特効 Lv.1

・スライムキラーLv.1

・ネズミキラー Lv.3

――――――――――――――――――――


「うーん。スキルをレベルアップさせる為とはいえ、やっぱ弱点特効のMP50は痛いなぁ」


 ネット曰く、弱点特効は使えるスキルっぽいので、是非とも育てたい。

 が、持続時間は1分とかなり短いので、戦闘のたびに使うことになってMPを激しく消耗する。


 正直面倒ではあるがMP管理は怠らずに、調整しながら探索するしかない。


 ――ピピピピッ


「もう5分か早いな」


 タイマーが鳴ったと同時に、肌のピリピリ感が無くなって、透明化が解除される。


 時間管理にMP管理……ちょっとだるいねぇ。


「タイマーはもうしなくていいかもなぁ」


 透明化が解除されたとて、すぐにまた使えば気付かれないって昨日ドブデッパキショネズミを追ってる中で分かったし、タイマーの必要性なさそう。


 むしろ時間管理とMP管理って両方に思考を持ってかれる方がデメリット大きいしね。


 これからはMP管理だけにしよ。


 ――スキル【危機察知】


「――っ!」


 突然、体中に電気が走ったような感覚に襲われた俺は、反射で横に大きく飛び退く。


 瞬間、俺がいた場所に緑色の液体が勢いよく叩きつけられる。


 ――ジュウゥゥゥゥ


 煙と音を出しながら、地面がみるみる溶けていく。


「えっ?」


 訳もわからないまま、ふと視線をあげるとそこには――カチカチと鋏角を鳴らす巨大な蜘蛛が天井に張り付き、俺を見下ろしていた。

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