第9話 モンスター大量虐殺


「おいまたスライムかよッ」


 先ほどから6回連続でスライムに遭遇中。

 スライムの魔石はかなり安いから、あまり嬉しくないエンカウントである。


 さっさと片づけるか。


 ダガーで核を破壊し3匹討伐。


「簡単に倒せるのは良いんだけどねぇ……」


 とそこで。


 ――ピピピピッ


 タイマーが鳴る。


「あっ切れた」


 またスライムだけで貴重な透明化5分が終わった。


 昨日はここまでのモンスターの偏りはなかったんだけどな。


 このルートを選んだのはミスだったかも。

 引き返すか。


 しゃがんで地面に落ちた魔石を回収していると、なにやら前方に気配を感じる。


「ん」


 なんとなく顔をあげて違和感の方を見ると、数メートル先にモンスターがいた。


 ――チュウ


 小さな灰色の害獣。

 ネズミ型モンスター、ドブデッパキショネズミだ。


 ヤツは丸々太った腹に細長い尻尾を持ち、顔の半分くらいはある歯を無遠慮に突き出して、小首をかしげこちらを見ている。


「あっ」


 俺と目が合うとドブデッパキショネズミは勢い良く逃げ出す。


「待て!」


 ――スキル【透明化】


 すぐに後を追いかける。

 が、一瞬のうちに距離が開き姿が見えなくなった。


「マジかよ」


 ドブデッパキショネズミは、見た目からは想像できないくらい足が速い為、討伐できる探索者は少ない。


「クソっ、あいつの魔石高いのに!」


 ふざけた名前をしてはいるが、ドブデッパキショネズミは魔石の質が良くて、1階層の中だと一番高く売れる最高なモンスターだ。


 魔石の質が良い理由は、存在感を消すために魔力を一点に集中させて凝縮してるかららしい。


「悔しい~! スキルをもっと早く発動していれば!」


 アイツは素では多分倒せない。というより追い付けない。

 だからスキル【透明化】を発動してバレないうちに倒すのが一番いい。


 昨日はそれでやったわけだし。

 まぁ昨日のは偶々透明だった時に遭遇できたから倒せただけなんだけど。


「とりあえず引き返すのはやめて後を追うか……」


 遭遇できたらラッキーくらいに考えよう。


 俺はドブデッパキショネズミが逃げていった方向に進みつつ、モンスターを狩っていく。


 スライムにスライムにスライムにスライムにスライム。


 スライムしか出ない。なにこれ。


 スライムの魔石だけで自販機ジュース一本分くらいにはなった。やったね!

 くそが。

 ※スライムの魔石は1個につき大体1~10円。


 その後もスライムにスライムにスライムにスライムにスライムを順調に狩っていく。


「もういいもういい! やってやるよやってやるよ! ここまできたらこのダンジョンの全スライム駆逐してやるよ! なんなら食ってやろうか! お前たちの体かき氷にかけたら美味そうだもんな! 食ってやろうか!」


 スライムノイローゼになりかけていたその時、ようやく別のモンスターを発見。


「きつぁあああ! キショネズミ!!」


 ドブデッパキショネズミとエンカウント。

 ただし今回はスキル【透明化】を事前に発動しているので奴には気付かれていない。


「うへへ、それじゃあ魔石いただきます――」


 立ち止まって周囲をキョロキョロしているドブデッパキショネズミを、俺はダガーで突き刺そうする。

 が、途中でその手を止める。


「チュウチュウ?」

「チュウチュウ!」

「チュッチュウチュウ!」


 奥からぞろぞろと、ドブデッパキショネズミの仲間がやって来たのだ。


「確率の収束きつあああ!!」


 もっと来いもっと来い。

 仲間を引き連れてもっと来い!!


 暫くドブデッパキショネズミたちを見守る。


「チュウチュウ!!」

「チュウ?」

「チュウチュウチュウ!!!」

「チュッチュッカ!!!」


 彼らはなにかコミュニケーションを取った後、奥へと走っていく。


「あやべ」


 急いで追いかける。


 一瞬焦ったけど、なんか今回はドブデッパキショネズミたちの足が遅い。

 さっき会った時とは違って、全力で走ってない。

 余力を残すために軽く走ってる、そんな感じだ。


 少しして、ネズミの集団は走るのをやめ動きを止める。

 彼らはただ黙って洞窟の奥を見つめている。


「なんだ……?」


 俺はネズミたちの意味不明な行動に困惑していたが、その答えはすぐにでた。


 奥からカサカサと、7匹のケツマッカチビスパイダーが出て来たのだ。

 

 一斉にドブデッパキショネズミたちは「チュウ!」と叫びだす。

 目は紅く光り、完全に捕食者の雰囲気。


「もしかしてこれ、縄張り争いってやつ?」


 動物のは見た事あるけど、ダンジョンでも起きるもんなんだね。

 透明化がないとこういうの見れなさそうだし、結構貴重そう。


 面白そうなので手出しせず静観することにする。

 上手い具合に漁夫の利もできそうだしね。


「あはっ」


 これ全部倒したら一体いくらになるんだよ。

 相当な金額になるんじゃないか?


 ざっと金額を数えている間に、モンスター同士の全面戦争の火蓋がきられる。


「「「「「チュウー!!!」」」」」


 ――戦いは一瞬で終わった。


 ケツマッカチビスパイダーは1階層だと強いらしいが、多勢に無勢。

 流石に大量のドブデッパキショネズミには勝てなかった。


 ネズミたちはケツマッカチビスパイダーの魔石を高々と掲げ、雄叫びをあげる。


「よーしここいらで殺すかぁ」


 俺は腕をくるくる回し、真打ち登場といった感じでゆっくりと動き出した瞬間。


 ドブデッパキショネズミたちは一斉にまた走り出す。ケツマッカチビスパイダーの魔石を持った状態で。


「あ、待てこら!」


 今度は結構足が速い。

 マズイなこれ。


 俺はドブデッパキショネズミのあとを追う。


 こいつ等なんで急に走り出した?

 スキルが切れてバレたわけでもないし、周りに探索者がいるわけでもないのに。


「……!」


 そうか。


 ハハーン、こいつらまさか、巣に帰ろうとしてるな?

 魔石を運んでるのが何よりの証拠だよな、ネズミさん?


 やべえこれもしかして大量のドブデッパキショネズミを一網打尽にできるんじゃね。

 おいおいそんなん俺大金持ちになっちゃうじゃん(※高くて1個500円なのでそれはない)。


「俺を金持ちにしてくださいネズミさーん! ってちょっと速い速い!」


 予想以上にネズミたちが加速しているので、俺は集中して必死について行く。

 一番うしろにいる足の遅い一匹についていくのが精一杯。


 なんかこの最後尾のやつ、学生時代のマラソン大会の俺みたいだな……。


 ――数分後


「はあ、はあ、はあ」


 途中スキル【透明化】が一瞬途切れるハプニングがありつつも、なんとか俺はドブデッパキショネズミの巣に辿り着く。


 ダンジョン1階層の奥の奥、せまい道を通った先に巣はあった。

 

 ぱっと見渡す限り50を超えるドブデッパキショネズミがいる。


「わわわ、これで俺も金持ちに……! ひゃっほーい!!」 


 それからはもう虐殺。


 なにが起きているのか理解できず立ち止まるドブデッパキショネズミに、恐怖で気絶するドブデッパキショネズミ、パニックでグルグル動き回るドブデッパキショネズミなど様々な挙動を見せる彼らをただ突き刺していく作業。


「あれおかしい。なんで俺が悪者みたいな感じになってるんだ」


 ドブデッパキショネズミは1階層の中だと最も厄介なモンスターに分類される。


 一匹一匹の強さは大した事ないのに、足が速く妙に賢い為、休憩エリアに集団で忍びこむことができ、そこで食料を盗み、テントやケーブルをかじり、病を運ぶ。


 まさに害悪。


 なのに、そんな奴らを俺は倒してるだけなのに、一抹の罪悪感が。

 なんか俺、頭おかしい人みたいじゃないか……?


「まっいっか! 魔石回収~魔石回収~」


 全ドブデッパキショネズミを殺し終えた俺は、大量の魔石をひとつひとつ拾い集めていく。


「masekiマセキ! masekiマセキ! マーセキ、マセキマーセキ回収♪マーセキ、マセキ高収入♪」


 と、巣の奥になにかある事に気付いた。


「ん、なんだこれ」


 手に取ってみるとそれは、やけに禍々しい眼帯と質素な眼鏡であった。


――――――――――――――――――――

 椎名凪斗 27歳 Eランク

173センチ 痩せ型


Lv.21

HP 3823/3823

MP 1861/1911


スキル

・透明化  Lv.4 ・危機察知 Lv.1

・昼夜逆転 Lv.8 ・弱点特効 Lv.1

・スライムキラーLv.1

・ネズミキラー Lv.3

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