正式に探索者になりました。ソロ活動始めます

第8話 はじめてのダンジョンソロ探索


 12月25日、夕方5時頃。


「ふぁ~」


 大きなあくびと共に目が覚める。


 起きたらまず俺の目に飛び込んでくるのは天井――ではなく推しのタペストリー。

 優しく包み込むような笑みを向けてくる水着姿の彼女に俺は挨拶。


「おはざーす」


 ここは実家、俺の子供部屋である。


 軋むベッドのうえで伸びをしてから起き上がる。

 ふと、窓の外を見やるとすでに日が沈みかけていた。


「今日も寒そうだな……」


 そんな独り言を呟きつつ、スマホを起動。

 ソシャゲのデイリーをこなしながらリビングに行き、朝ごはんを済ませる。


 これがニート(俺)の日常。


 世間にとっての帰宅時間が俺にとっての起床時間であり、夕ご飯が朝ごはんだ。


「昨日はあんな時間から外に出て何をしてたの?」


 居間でくつろいでいると、母さんが怪訝そうな顔で俺に訊いてくる。


「特に何も……」


 ぼやくようにそう答える。


 昨日ダンジョンに行ってた事と探索者になった事を俺は、家族の誰にも話していない。


 話したところで理解されないし、止められると思ったからだ。


「そう……。深くは聞かないけど、犯罪だけは……辞めてね」

「しないって……」


 犯罪なんてした事ないのに、そんな言い方ある?

 俺信頼されてなさすぎない?

 いや、信頼されてなくて当然か……。俺ニートだしな。


 家に居たくなくなったので、予定よりも早めに出かける準備をする。


 出かける準備ってのは勿論、ダンジョン探索のことだ。


「じゃあ行ってきます」

「ええ、気を付けて……」


 母さんはどこか不安そうな顔をしていたが、特に触れずに家を出た。


 絶対に探索者で生計を立ててみせるから、どうか待っていて欲しい。

 信頼される為に、自立する為に俺頑張るから。



 歩くこと30分、やっと公園に着く。


「昨日よりも多いな」


 見渡す限り、ネットでよく見るザ・探索者みたいな、装備を着た人が大勢いた。

 どの探索者も楽しい聖夜を過ごせたのか、心なしかスッキリした顔にみえる。


 なんなら、イチャイチャしてるカップルっぽい二人組の探索者もいます。


「あー萎える萎える萎えた」


 このままここにいると鬱なので、脇目もふらずに即行ダンジョンに向かいます。

 職員にステータスカードを見せて、ダンジョンに入る。


「うっ、忘れて、たオロロロロロ」


 酔い止めを忘れてました。不覚。

 ヒートテックを着てくるって事は覚えてたんだけどな。

 なんで忘れたかな。


 と、その時。


「お、お、オオォロロロロロ」


 奥から嗚咽と吐瀉物の落ちる音が聞こえてきた。


 見れば、少し先の壁際に俺と同じくダンジョンゲボ現象に襲われてる探索者がいるではないか。


 黒髪ロングの華奢な女性探索者だ。


 あの人も初心者なのかな?

 てか俺と同じでソロの探索者?


 気になって見ていると、うっかり目が合ってしまう。


「っす」


 なんとなくお互いに軽く会釈をし、


「「オロロロロロ」」


 同時に吐いた。


 やべえコレめっちゃ気まずい。

 早く探索に行こう……。


 俺は吐き気を抑えながら女性探索者の横を通りすぎ、先にダンジョンの奥へと進む。


「えーっとまずは写真だよな」


 吐き気も治った頃、休憩エリアに着いた俺は、ダンジョンマップの写真を撮る。

 1階層から次の休憩エリアまでを全部パシャリ。


 今日は1階層だけの予定だけど、オサムの兄貴のアドバイス通り、一応ね。


 と、ここで俺は更衣スペースを探す。


「マップだとここだから……あっちか」


 これは昨日探索中に気付いたことだが。

 ダンジョン探索は冬服だと暑いしメチャクチャ動きにくかった。


 そもそもダンジョン内は温かいし、探索中は動き続けるから尚のこと暑い。ダウンじゃ流石に死ぬ。


 なので今日はダンジョン用の服をリュックに入れて持ってきた。


 ちなみにダンジョン用の服といっても立派な装備とかじゃなくて、ただの高校のジャージね。


 更衣スペースを見つけた俺はすぐにジャージに着替える。


「10年くらい経っても案外着られるもんだなぁ」


 見た目は相当にダサいが、そこら辺はご愛嬌。

 ちゃんとお金を稼げるようになったらカッコいい装備を買うつもりだし我慢我慢。


「ってことで行ってみっか」


 自分を鼓舞するようにそう言って、いざダンジョン探索へ。



 右手にダガーを持って、周りを警戒しつつダンジョンを歩く。


 昨日と違って今日はひとりだから本当に静か。

 唯一聞こえる音は洞窟に響く俺の足音だけだし。


 正直かなり不気味。

 しかもたまに、ポチャンとかいって雫が落ちるから本当にビビる。


「…………」


 あ、これ結構怖いかも。

 モンスターが現れないかどうかの神経凄い使うしキツい。


 まるで心霊スポットに来たみたいな感覚だ。


 ――スキル【透明化】発動。


「ふぅこれで安心」


 MP温存のためにモンスターが見つかるまでは使わないつもりだったが、我慢できなかった。

 まぁ仕方ない。どっちにしろ自動で回復するし、戦意喪失するよりはいいだろう。


 ちなみに自動回復は1分につきMPが大体2くらい回復するっぽい。

 昨日家から帰ったあと、ちゃんと計ったから確かだとは思う。


 そんな事を考えながら歩いていると、前方にモンスターを発見。


「いたいた」


 発見したのはコウモリのモンスター。

 名をチビヒキコウモリ。

 不思議と仲間意識を持ってしまう名前のモンスターだ。


 そのチビヒキコウモリは5匹くらいが一箇所に集まって天井にぶら下がり、寝ていた。


「結構可愛いんだよなチビヒキコウモリ」


 身体が小さく顔はブサカワと、倒すと愛護団体が怒りそうな見た目をしているわけだが、可愛いからと侮ってはいけない。


 チビヒキコウモリは攻撃手段として酸を吐いてくる。


 その威力は弱めだが、彼らは基本天井にぶら下がるか宙を飛んでいて、人間の目線より高めにいる為、ちゃんと酸を避けないと目に入って失明しやすい(※ネット調べ)。


 目が酸でやられるのは普通にグロい、シャレにならない。

 油断大敵である。


 まぁ、透明化の前では関係ないんですけどね。


 俺は助走をつけて跳び、ダガーでチビヒキコウモリを斬りつける。

 まさに一刀両断。

 一瞬で5匹の身体を二等分に。


 チビヒキコウモリは目を開ける事なく死んで消え去り、経験値と魔石へ変化。


「今の動き凄すぎないか?」


 自画自賛したくなるレベル。

 こんなアクション俳優みたいな動き学生時代じゃ絶対にできなかった。


「やっぱバフの効果だよなこれ」


 この動きが出来るのは多分、スキル【昼夜逆転】のバフ効果のおかげ。

 身体能力とか反射神経が昔とダンチで違う。


 ゴミスキルだと思ってたのに、案外一番良いスキルなのかもしれない。


「こういうの探索者になってなかったら一生気付かなかっただろうなぁ」


 毎日引き篭もってアニメか動画、ソシャゲの連続だったし。

 いやでもそう考えると昔に比べて最近は、反射神経を使うゲーム得意になったんだよな。


 まあどうでもいいか。


 俺は魔石をリュックに入れて先を急ぐ。


 スキル【透明化】の持続時間は5分(ドキドキワクワクダンジョンウィキ調べ)。

 できればこの時間内にモンスターをもう何体かは倒しておきたい。


「えーと右左右左右左右右左」


 俺なりに考えた、行き止まりを避けつつモンスターを多く討伐できそうな1階層のルートがこれ。


 距離は長いし、道中2階層に続く階段もないから探索者が全然いない、はず。

 つまり倒されずにいるモンスターが沢山はびこってる可能性オオアリ。


「っと出た出た」


 スライム2匹発見。

 昨日と同じように核を突き刺し討伐。

 急いで魔石を回収し次へ。


「あと2分? 1分くらいか?」


 そろそろ5分経つよな。

 急げ!


 せめてあと3体くらいはと祈ったが、ちょっと走ったところでスキル【透明化】が解除される。


「――くっ終わったか」


 肌のピリピリ感が無くなったので透明時間終了と分かる。


「やっぱ5分って短いなー」


 消費MPは25と少ないが、その分時間も少ない。

 ちゃんと考えて効率よく使わないとすぐMPが無くなりそうだ。


「……てか分かりやすくタイマーかけとくか」


 スマホを取り出し、5分のタイマーをかけると同時にスキルを頭で唱える。


 ――スキル【透明化】


「っしゃ今度は10体以上殺るゾー!」


 身体がほどよくあったまってきて興奮してきたのか、そう大きく叫んで走りだす。


「隠れてないで出て行こいやー!!!」


 ただのイキリである。


――――――――――――――――――――

 椎名凪斗 27歳 Eランク

173センチ 痩せ型


Lv.10

HP 983/983

MP 466/491


スキル

・透明化  Lv.4 ・危機察知 Lv.1

・昼夜逆転 Lv.8

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この話は、本文に書くか迷ったのでここに。


昨日、初めてのダンジョン探索を終えたナギトは。

家に帰るやいなや、ダンジョンの事やスキルの事などネットで色々と調べた。


以下、これはナギトの検索履歴である。


・ダンジョン探索 スキル透明化 最強

・スキル透明化 レア

・スキル透明化 ヤバい

・スキル透明化 強すぎ

・スキル透明化 弱い?

・スキル透明化 持続時間

・スキル昼夜逆転 効果

・スキル昼夜逆転 レア

・スキル昼夜逆転 強い

・スキル昼夜逆転 ゴミスキル

・スキル昼夜逆転 バフ どれくらい

・スキル 最強ランキング

・ダンジョン探索 使えるスキル

・ダンジョン探索 スキル 取得方法

・ダンジョン探索 スキル レベルの上げ方

・ダンジョン探索 スキル 効率のいいレベルの上げ方

・ダンジョン探索 効率のいいレベルの上げ方

・ダンジョン探索に必要な物

・ダンジョン探索オススメグッズ

・ダンジョン探索 やめた方がいいこと

・超大型ダンジョン 魔物 1階層

・ダンジョン 魔物

・超大型ダンジョン 何階層まである

・超大型ダンジョン 普通のダンジョンとの違い

・有名な探索者

・探索者 年収

・探索者 平均年収

・探索者 モテる

・探索者 ランクの上げ方

・探索者 オサム

・探索者 オサム 有名

・探索者 メロン肩あっと破壊神

・探索者 メロン肩@破壊神

・メロン肩@破壊神 SNS

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あとがき


 この度は読んでいただき、ありがとうございます。

 続きが気になる、面白いと思っていただけたら☆をつけて貰えると嬉しいです。

 踊るくらい喜びます。

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