第6話 ケツマッカチビスパイダー


「あーっと、ちょっと運が悪いな……」


 少し進んだところで、オサムの兄貴が立ち止まってそう呟く。


「運が悪い?」

「ああ。この道を進んで右に曲がった先に、ケツマッカチビスパイダーが3匹いてな。最初の戦闘はチュートリアルらしくスライムとかだとありがたかったんだが、よりによってレアなモンスターとは……どうしたものか」


 チュートリアルにスライムって、ゲームみたいだなおい。

 と、思ったがよく考えたらダンジョンを元にゲームが作られたから当たり前か。


「そういえば、見えないのにどうしてモンスターがいるって分かるんですか?」

「それは気配感知のスキルのおかげだ。――してナギト、ケツマッカチビスパイダーはやれそうか?」


 真剣な表情で訊いてくるオサムの兄貴。

 それに対し、どこかで聞いたことあるような名言をカッコつけて答える。


「フッ。出来る出来ない、ではなく……ダンジョン探索は殺るか殺らないか、ですよねっ。もちろん俺は――」

「ナギト、俺は本気で訊いているんだ。ダンジョンでの判断ミスは命にかかわる。自信が無いのなら正直に無理と言え。俺が倒してやる」

「っ」


 静かに、冷静に、真剣に正論を言われハッとする。

 ここはダンジョン。ゲームではない。

 適当に物事を判断してはダメなんだ。


「っと俺は……」

「最初は誰もが初心者だ。怖いなら逃げていいし、自信ないなら戦わなくてもいい。命が第一のダンジョン探索において、無理な挑戦をする奴は英雄ではなくアホだ。それを踏まえたうえで、どうするナギト」

「…………」


 いやわっかんねー!!!


 まじで言ってる事は正論なんだけど、正直そのモンスターをまだ見てないから倒せそうか分からん!


 判断材料が名前しかなくて、しかも肝心なそれもふざけた名前してるからなんか倒せそうな気してくるんだよなぁー。


 ケツマッカチビスパイダー?


 絶対ざこじゃーん。


「俺、いけます」

「そうか、よく言った。まぁ万が一、何かあっても俺がついてるから安心しろ」

「はい!」


 そして、俺とオサムの兄貴は突き当り手前まで歩き、立ち止まる。

 そこで俺はスキル【透明化】を発動。


「ケツマッカチビスパイダーの弱点は頭と、スピード感。あいつらは敵と対峙した時、まず足をあげて威嚇をしてくる。その隙にダガーで頭を突き刺せ。素早く3匹ともな。刺して抜いて刺して抜いて刺して抜く。それでナギトの勝ちだ。簡単だろ?」

「ええまあ」


 グロいモグラ叩きって感じか。


「やつらは右に曲がって10メートル先にいる。全力で走って一気に終わらせろ。いいな?」

「分かりました」


 俺は、ふぅーっと一呼吸おいて。


 心の中でカウントダウンした後、勢いよく駆け出す。


「うぉぉおおおっ!」


 腕を大きく振る!

 足を高くあげる!

 少しでもはやくケツマッカチビスパイダーのもとへ!


「っ!?(ナギトのやつ、ナンバ走りをっ!?)」

 ※久々すぎて走り方忘れてるだけ


 あれっ、体が思ったより軽い。しかも俺足はや!


「――ってちょはやすぎ!」


 全力で走るのが久しぶりすぎた。

 予想以上に足がはやかった。

 そして、意外にも10メートルが短かった。


 結果、俺は体勢をくずしてしまい、ケツマッカチビスパイダーの目の前で思いっきり顔から転んだ。


「つ、いったぁ――」


 顔をあげると、眼前にケツマッカチビスパイダーの頭が。


「っ!」


 スイカのように大きな頭、鋭い鋏角。

 複数ある赤色の大きな丸い目がこちらを覗き込んでおり、そこに反射した自分が映り込んでいる。


 口を少し開けて呆然とした俺が。


 あ、これ終わった――


 ――と思ったが、ケツマッカチビスパイダーは俺を気にも留めずに外方を向いて方向転換。


 え?


「ナギト!」


 オサムの兄貴の俺を呼ぶ声が聞こえた瞬間、ケツマッカチビスパイダーたちは威嚇態勢をとりだす。


 前足を高く上げて、その真っ赤な目が捉えるのは、俺のうしろ。


 つまりオサムの兄貴を見ていた。


 がしかし、威嚇もむなしく地面から突き出た大きな棘により3匹とも一瞬で散ってしまう。


 緑色の血を吹き出して、バラバラに。


 そしてすぐに死体は消え去り、そこから光の粒子が出現しオサムの兄貴のもとへ。


 えっぐう。

 オサムの兄貴、こんな強い攻撃スキル持ってんのか。


「大丈夫かナギト」

「あっはい、助けてもらったおかげでなんとか。顔は痛いですけど」

「派手にずっこけたもんなぁ。ひとまず無事でなによりだ」


 ……。


 さっきのケツマッカチビスパイダーの挙動、少し気になるな。

 なんで俺には威嚇してこなかったんだ。


 むしろあれだけ近かったら威嚇なしで攻撃してきてもおかしくなさそうだけど。

 なんで俺は無視された?


「――あ」

「どうかしたかナギト」

「いやその。気になることというか、思いついたことがあって。近くにモンスターっていませんか?」

「? モンスターの気配はまだないが」

「ちょっと探しに行きませんか? 試してみたいことがあるんですよ」

「あ、ああ。別にいいぞ」


 俺の直感、俺のゲーム脳が正しければ、もしかしたら。

 もしかしたら俺のスキル、結構使えるのかもしれない。


 俺はすくっと立ち上がり、先を急ごうとする。

 それをオサムの兄貴は止めて言ってくる。


「あーちょっと待ってくれ。先に魔石の説明をしてからな」

「魔石? あー魔石!」


 そこから魔石の説明を受けたあと、俺たちは魔物探しを始める。


 ちなみに魔石の説明は至ってシンプルで、モンスターを倒したら魔石が落ちるから、それを忘れず回収しろとのことだった。それが探索者の主な収入源になるからね。


 あと、ケツマッカチビスパイダーの魔石はオサムの兄貴がくれた。俺なんもしてないのに、ほんとあざます。


――――――――――――――――――――

 椎名凪斗 27歳 Eランク(仮)

173センチ 痩せ型


Lv.1

HP 100/100

MP 31/50


スキル

・透明化  Lv.4 ・危機察知 Lv.1

・昼夜逆転 Lv.8

――――――――――――――――――――


 あれ、てかHP・MP回復してね?

 自動で回復するのマジかよ。ゲームよりも現実は良心的なんだな。




――――――――――――――――――――――――

あとがき


本筋とは関係ないですが、一応ケツマッカチビスパイダーの設定はここに。


・ケツマッカチビスパイダー

全長120㎝の真っ白な蜘蛛 。

ケツに真っ赤な♡の模様があるのが特徴 。

1階層ではちょっと珍しいモンスターで、一部では、幸せを運ぶ蜘蛛と呼ばれ、見かけると恋愛運があがると噂されている。


主人公とオサムの兄貴にピッタリなモンスターですね

――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る