第5話 ゲロでもHPは減る
「はぁ……」
肩を落として猫背になり、俺は分かりやすく落ち込む。
アニメみたく最強スキルで無双とか夢を見てた時期が僕にもありました。
んな現実は甘くなかったですお疲れ様でした。
「ま、まぁまぁそんな落ち込むなって。ふっ、その落ち込み方と透け具合、なんか本当に消えそうだぞ」
「茶化さないで下さいよ。ちょっと萎えてるんですから」
「すまんすまん。まぁ、慰めになるか分からんが一つ言っておくと……スキルの横にレベルが書いてあるだろ?」
「はい」
「そのレベルを上げればあげるほど、スキルはより強いモノになっていくんだ。だから今は透けるだけのスキルでも、どんどんレベルを上げてマックスのレベル10にでもなったら、完全透明の最強スキルになるかもしれん」
「ほう?」
「要するにあんまり落ち込むなってこった。ナギトにはあと2つのスキル、昼夜逆転と危機察知もあるしな。後者にいたっては探索者の汎用スキルだし、スタートラインには十分立っているぞ」
「で、ですよね!」
そうだそうだ。こんな事で落ち込んではいられない。
俺は人生を変えるって決めたんだ。
萎えるな、落ち込むな、諦めんな!
「ちなみにスキルレベルは、どうやったら上がるんですか?」
「分からん。スキルによって条件が違ったりするらしくて、詳しい事は協会も分かってないらしい。が、とりあえず俺から言えるのは沢山使って沢山モンスターを討伐するって事だな」
「分かりました」
レベルを表記する割には上げ方結構ざっくりしてんだな。
ふとステータスカードを見て気付く。
「あれ、なんかMPの数字減ってる。てかHPも。元からこの数字だったっけ」
「数字はちゃんとリアルタイムで変動するぞ」
「すご! どんな仕組みしてんだ……。てかそうなると、スキル透明化ってHP・MPどっちも消費するスキルってこと!?」
それだとマジのゴミスキルでは?
いつか、何回も使ってるうちにHP0になって本当に透けて消える事になるやん。
「いや、MPだけだと思うぞ。HPは使う前から減ってたはずだ。恐らく原因はゲロじゃねーか?」
オサムの兄貴が足元の吐しゃ物を指差してそう言う。
まじかよ。ゲロで5も減んのかよ……。
確かに体力結構使ったもんな……。
次からは酔い止め持参しよ。
「よし、ステータスカードとスキルの説明はこれで終わったし、いよいよ探索といくか」
「あ、ちょっと待ってください。昼夜逆転と危機察知はどう使うんですか?」
「その2つは常時発動してるから、特に気にしなくていいぞ」
「あ、はい」
「仮に今後他のスキルを覚えたとしても、透明化の発動手順と何も変わらないから安心しろ」
「わかりました」
こうして俺は初めてのダンジョン探索へ。
俺とオサムの兄貴は他愛ない話をしながら、一本道の平坦な洞窟を歩く。
高さ5メートルほど、横は4メートルほどの薄暗い洞窟。
洞窟内は所々に光る鉱石が埋まっており、数メートル先がギリ見えるくらいの明るさが保たれている。
オサムの兄貴が余裕そうにどんどん進むので、モンスターとか警戒しなくていいのかさっき尋ねたが、ここはまだ何もでないエリアとのこと。
なので俺も無警戒でお喋りを楽しむ。
しばらくして、視界が開けた。
目の前には、円形の広大な空間が広がっていて、天井は見上げるほど高い。
地面には業務用ライトとテントが並び、探索者が大勢いる。
「ここは探索者の休憩エリアだ。中央にマップがあるから確認しにいこう」
中央まで来た俺はオサムの兄貴の指示を受け、スマホで1階層のマップの写真を撮る。
「今日はとりあえずここ、1階層だけの探索だからそれだけ撮ればいいが、今度探索に来た時は、次の休憩エリアまでの階層全部撮っておいた方がいいぞ。迷ったら終わるからな。あと、マップに随時更新が入ったりするから、探索の度に写真は撮り直した方がいい」
「分かりました」
「んーと、この休憩エリアから先に進む道は何本かあるんだが、今日は簡単なこの道にしよう」
オサムの兄貴が選んだ道は、割と一本道が続く短いルート。
辿っていくと先の方に階段のマークがある。
恐らく2階層に降りる階段があるのだろう。
「次の階層に降りはしないが一応階段を確認して、探索は終いにしよう」
「おっけーです!」
テント群を抜けて、入口に辿りつく。
「ここからはモンスターが現れるから気を引き締めていくぞ」
「はい!!」
緊張が高まってくる。
モンスター……生で見たことがないから怖さは勿論あるが、それ以上に好奇心がある。
実物はネットやゲームで見たままの姿なのか。それとも違うのか。
モンスターに俺の攻撃はどこまで通じるのか……。
攻撃……あれ、待って俺なんも武器持ってなくね?
準備無しで唐突に来ちゃったからまじで何もない。
え、素手?
俺ステゴロで戦わないといけない!?
待って待って喧嘩したことないって無理無理。
「とその前に、ほれ。これを使え」
洞窟の奥を見ていたオサムの兄貴が、そう言って俺にダガーを渡してくる。
「ナギトの分の武器を準備するのすっかり忘れてた。すまないな。とりあえず今日はその武器を貸すから気にせず使ってくれ」
オサムの兄貴……!
「いや、本来自分で用意するべきものをしてない俺が悪いんですよ。ほんと何から何までありがとうございます!」
色々考えているオサムの兄貴と違って、俺は探索者として自覚無さ過ぎた。
ちょっと心を入れ替えて、ガチのマジで気を引き締めよう。
俺たちは先に進む。
――――――――――――――――――――
椎名凪斗 27歳 Eランク(仮)
173センチ 痩せ型
Lv.1
HP 100/100
MP 50/50
スキル
・透明化 Lv.4 ・危機察知 Lv.1
・昼夜逆転 Lv.8
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