第2話 クリスマスイブに探索者登録(仮)
12月24日、午後9時過ぎ。
イルミネーションと人の笑顔で輝く街並みを、俺は一瞥もせずただひたすら前を向いて歩く。人混みを縫うようにして足早に。
向かっている場所は宮崎駅の裏側に位置する広い公園。
二週間前、ダンジョンが出現した場所だ。
(人が多いな)
一応ここは繁華街であるが、普段は会社帰りのサラリーマン達がちらほらいるだけで、歩いてて肩がぶつかるくらいにまで人は集まらない。
クリスマスイブといえどそれは同じ。
じゃあなぜ今こんなにも人が多いのか。
その理由は、ダンジョンが出現したからだ。
しかも、ただのダンジョンではない。
貴重な資源が多く存在するダンジョンは、内包する魔力の量で五段階(超大型・大型・中型・小型・超小型)に分けられるが、今回この街に現れたのはその中でも一番大きい超大型。
国内では十数年ぶりの、観測史上三度目となる超大型ダンジョンだった。
資源の数とレア度は魔力量と比例するので、国内外から一攫千金を狙う探索者たちが大勢集まって来ているわけだ。
加えて、有名な探索者や超大型ダンジョンを一目見ようと普通の観光客も増えている。
てなわけで、こんなお祭りみたいな状況になっている、らしい。
らしいってのは、これ全部ニュースの受け売りだからです。
自分、引きこもってるので普段の繁華街を知りませんでした。
とまぁそんなこんなで目的地に着きました。
「……す、すげぇ」
視界に入ってきたのは、テント群にプレハブ小屋、武器を持った人に武装された車と物々しい雰囲気の公園だった。
「公園の面影が全くない……」
もうほぼ軍事基地みたいだな。
古い記憶にある俺の知ってる公園はそこにはなかった。
「てか眩しすぎ」
イルミネーションでキラキラしていた街とは違ってここには何も飾られていないが、かなり大きい業務用ライトが何個か置かれていて、夜じゃないみたいに眩しい。
ドラキュラニートだから眩しいと死んじゃう、塵になるからやめてくれ(※普段暗い部屋にいて光耐性がない)。
俺は額に手を置いて光を遮りながら受付を探す。
……にしても、探索者協会の職員とか警備の人はいるけど、探索者ぽい人は全然見当たらないな。
いや正しく言うと、いるにはいるけど、思ったよりいない。
やっぱり探索者といえどクリスマスイブを楽しんでるってわけね。
よっしゃ、萎えた。
時刻は午後10時を回った頃。
スキル:方向音痴のせいでだいぶ時間がかかったが(そんなスキルはない)、俺はようやく受付を見つける。
灯台下暗し、普通に入り口近くにあった。
ドラキュラニート対策の業務用ライトに気を取られて気づかなかったわ。おのれ探索者協会め(とばっちり)。
「えーっと、探索者登録は一番左か」
何個かある受付のうち探索者登録ができるのは一番左だけで、他は魔石の換金とか依頼の受付っぽい。
「探索者登録をお願いします、探索者登録をお願いします、よしおっけい」
小さい声で喋る練習を何度かして、俺は受付に近づく。
受付の男性がこちらに気付き、にっこり笑って「どうぞ〜」と軽く椅子の方へ手を差し出す。
俺は椅子に座り、練習したセリフを言う。
「たたた、探索者つぉっ録をお願いします」
「探索者登録ですね〜かしこまりました。身分証と登録料は持って来ていますか?」
「は、はい」
「ありがとうございます。書類の準備をするので、身分証を出した状態で少々お待ちください〜」
よ、よし。なんとかなったな。
久々に家族以外と喋ったから緊張した〜。
受付が優しそうな男の人でよかったわ。
これが女性だったら喋れてなかった。まじで。
リアルな女性となんてもうだいぶ喋ってないからね。強いて言えばちょっと前にネットのゲーム仲間と喋ったくらいか?
いや、そういやあれはネカマだったっけ。まぁ声がまんま女の子だったし実質女性。
「お待たせしました〜。まずはこちらの書類に住所と名前を書いてください〜。身分証は一度お預かりしますね」
「はい」
受付の指示通り淡々と進めていき、いよいよ登録料を支払うだけとなった。
よ〜し、やっとだ。3千円を払うだけで俺はやっと探索者になれる。
ここから俺は変わるんだ!
昔バイトしてた時の残り、俺の全財産だ。受け取れぃ!
「では登録料3万円をお願いします」
「はい。ん、え? 3万円?」
「はい、3万円です」
「3千円ではなく?」
「はい3万円です」
「ちょ、ちょっと待ってください」
スマホを取り出し、今日出かける前に事前に調べてた【探索者になるためにはどうしたらいいの?】というサイトを確認。
あ、ちゃんと3万円って書いてる。
(ぷぷぷ。3千円って、ゼロひとつ足んねーじゃん!)
心の中の心くんが俺をバカにしてくる。
探索者登録をしようとしたら金持ってないパターンとかもうええて。
その轍を俺は踏まない様にって入念に調べたつもりだったのに、勘弁してくれよマジで。
フィクションは本だけにしとけよって(は?)。
「えーっと、ん〜」
どうしよう。頭真っ白。恥ずかしい。
ドヤ顔で3千円出しちゃったよ。恥ずかしい。
どうしようか悩み硬直していると突然後ろから。
「さっきから見ていたが、登録料が足りないんだろ? 俺が払ってやるよブラザー」
誰かからそう声をかけられた。
たくましく、ザ・漢らしいカッコいい低音ボイスで。
頼りがいのある声に、思わず俺は振り向く。
するとそこにいたのは。
「か、かっけぇ……」
身長2メートルは優に超している、筋骨隆々、上半身のタトゥーが目立つスキンヘッドのおじさんだった。
冬だというのに上半身裸でデカい斧を背負い、なんとも探索者らしい格好をしている。
見た目がまさにド○ェインジョンソン。
男の中の男。カッコ良過ぎて「かっけぇ」って声漏れたし。
「メロン肩@破壊神さんお疲れ様です!」
受付の男性がすくっと立ち上がり筋肉イケオジに挨拶をする。
なんだ?
この筋肉イケオジ有名な探索者なの?
てかメロン肩あっと破壊神ってなに。物騒過ぎでしょ。
「はは、その二つ名恥ずかしいから辞めてくれって」
「も、申し訳ありません!」
「いいよいいよ、次からは気をつけてくれな。――して、兄ちゃん。金が足りないんだろ?」
筋肉イケオジもといメロン肩@破壊神さんと目があう。
こわっ!
こうしてまじまじ見られると萎縮しちゃう。怖い。
「おーい兄ちゃーん」
「は、はい!」
「おお。魂が抜けたみたいな顔してたぞ大丈夫か」
「だいっじょうぶです」
「それならいいんだが。で、兄ちゃん金あるのか?」
「すみません、お金持ってないです」
「はっはっはっ、なんで謝るんだよ」
「は、はは」
なんかこれ周りから見たらほぼ恐喝シーンでしょ。
「いくら足りないんだ? 足りない分俺が出してやるよ」
「「え、いいんですか?」」
受付とハモる。あとでアイス奢りね。
「いいよ全然それくらい出してやるよ。見た感じ3千円しか持ってない感じか?」
「です」
「分かった。2万7千じゃあキリ悪いし、全部俺が払うよ。ほれ、3万円。これで登録はできるな?」
「え、本当にいいんですか?」
「ああ、気にすんな気にすんな。探索者は助け合うものだからな」
「かっけぇ……ありがとうございます!」
なんだよ探索者めっちゃかっけえじゃん!
ありがとうメロン肩@破壊神さん!
俺は3万円を両手で受け取り、そのまま受付に渡した。
てかこのシーン、周りから見たら闇金からお金借りてるみたいに思われない?(失礼)
――数分後
「これで無事、探索者仮登録は完了です。それでは、探索と一攫千金の世界へいってらっしゃい!」
俺、
ヒート〇ック着てくればよかった……。
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