悪役令嬢はツいている!?~乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまったが、バッドエンドを避けるために頑張っていきます。って、え?ついとるやんけぇぇぇええ!!~

四季 訪

第1話 悪役令嬢は嘘だらけ1

 とある大人気乙女ゲームが存在した。


 その名は『聖樹の乙女と五人の貴公子』通称オトプリ。


 いずれ聖女と呼ばれる平民出身の主人公クラリスが王侯貴族も通う学園で五人のイケメン貴族たちと恋に落ちるという王道な乙女ゲームだ。


 しかし、乙女ゲームではあるが、SRPGの要素もあり、そこそこ難易度があることでも有名で、純粋に恋愛を楽しみたい乙女ゲーファンからは不評が少なからずあった。


 俺はそんな大人気のオトプリのデバック作業に掛かっていた経験があり、売れて人気になったオトプリが懐かしくなって昨晩遅くまでそのゲームをプレイしていた。


 少し夜更かししてしまい、急いでベッドに入ったのが俺の昨晩の最後の記憶だった。


 ◆


 小鳥の囀りと共に目が覚める。


 (……枕、柔らかぁ)


 安物の俺の枕が妙に気持ちいい。


 いい目覚めだ。


 俺は妙にふわふわとしている枕を揉んで、夜更かししたとは思えないほどの寝覚めに口を綻ばせる。


 「ふへへ……」


 まるで若返ったかのような気持ちだ。


 (あれ、枕ちょっと濡れてる……?)


 俺は涎でも垂らしたかと思い唇を拭うが、口はちゃんとしまっていたようだ。


 「お嬢様。おはようございますですにゃ。お食事のご用意は出来ておりますにゃ」


 「え?」


 声のした方へ顔を向けると、そこには猫耳メイドさんが立っていた。


 「なんで猫耳メイド?」


 猫耳のカチューシャを付けているようにも見えない。


 寝ぼけているのかと考えた俺は自分の頬を抓る。


 「……いはい」


 強く引っ張った頬が赤くなる。


 「お嬢様!?一体何を!」


 「お嬢様?」


 俺は慌てるメイドの言い放った言葉にようやく違和感に気付くことが出来た。


 さっきから別人が自分の口で喋っているような聞きなれない声に、俺の心臓が早鐘を打つ。


 ふと近くにあった姿見に目が行くと、その鏡には寝ぐせのついた銀髪セミロングの美少女が俺の気持ちにシンクロしたように驚愕に目を剝いていた。


 「なんじゃこりゃぁぁぁあああああ!」


 成人男性の声とは真逆の声が誰かの部屋に木霊した。


 ◆


 「お、お騒がせしました……」


 「びっくりしたわぁ。突然悲鳴がロゼの部屋から聞こえてくるんだもの。暴漢が出たのかと思ってママ中規模魔法を連続起動でぶっぱするところだったわぁ」


 目の前で物騒なことを言うのは、この身体の持ち主の母、ローラ・フローレルだ。


 今の俺と同じ綺麗な銀髪を持つ、若さと美貌を保つ女性だ。


 なぜ俺がそんなことをしっているのか。


 それは───


 「ロゼ。お前はこれからは淑女として、女性らしくお淑やかさを身に付けねばならない。それはこのフローレル家のためでもあり、ひいてはこの王国ユグノール王国の未来のためなのだからな。今朝のような獣のような雄叫びは控えなさい」


 なんと、俺が『聖樹の乙女と五人の貴公子』の登場人物、ロゼ・フローレルに転生していたからだ。


 「は、はい。申し訳ございません……」 


 「ふん。やけに今日は聞き分けが良いな。熱でもあるのか?」


 ロゼの父、ゼン・フローレルが俺を心配そうに見ていた。


 俺はどうしたらいいか分からずに黙々と食事を済ませ、自分の部屋へと戻った。


 いつもと違う娘である俺の様子に両親である二人が終始心配そうにしていたが、それをフォローするだけの余裕など、今の俺には全くと言って良いほどなかった。


 俺は自分の部屋にそそくさと戻り、再び姿見の前に立った。


 そこには俺の記憶にも新しいロゼ・フローレルの面影を残す銀髪美少女が立っていた。


 年齢は恐らくまだ、十二かそこら。


 本編開始時の十五歳の姿からはいくらかまだ幼い。


 「なんで……なんで俺は今こんな姿になっちまってるんだ……なんで乙女ゲーの世界に……しかもよりにもよって──────悪役令嬢に転生しちゃってるんだよ!!」


 そう、こんなに幼気で、妖精のように可愛らしい美少女は、何を隠そうオトプリで最も嫌われており、最も悲惨な結末を迎えることで知られ、乙女ゲーの中でも重要な役割、もとい舞台装置的役割を担う存在である悪役令嬢その人なのであった。


 「嘘だろ……どうすんだよ!悪役令嬢だぞ!主人公がどのルートを選択しても妨害やら恋路の邪魔やらしまくって、最終的には散々やってきた悪事を聴衆の前で暴露されて『ざまぁwww』されるだけのストレス解消キャラなんだぞ!」


 ロゼ・フローレルの末路は全部で五つ。


 国外追放、降嫁、労役、暗殺、そして公開処刑。


 どのルートにも幸せな結末はないのだ。


 降嫁が最もマシに見えるが、降嫁先の成金貴族は超絶変態のサド野郎で有名で、その男に買われた女はロクな事にならないと巷で噂になるほどのクソ野郎だ。


 そんなの心が男のままの俺が耐えられる訳がない。


 故にもっともマシなのは労役だろうが、中世的な価値観が色濃いこの世界観で、労役を務める人間に、人権などあるわけもなく、ボロボロになるまで働かされるのがオチだ。


 そうなると、国外追放だが……これも論外だ。


 この世界には魔物が存在する。


 文字通りに魔の存在であり、人類の天敵だ。


 聖樹の加護のある国内ならば魔物に襲われることは滅多にないが、一度ひとたび国外へと一歩でも足を踏み入れれば、化け物どもの跳梁跋扈する死の世界へ真っ逆さま。


 平和な日本で生まれ育った俺がそんな魔境で生きれるはずもなく。


 「他の二つはくそ論外だ。死だぞ、暗殺だぞ、公開処刑だぞっ」


 死んでたまるか。


 変態に捕まるのも、馬車馬のように働かされるのも、魔物の餌食になるのもくそ喰らえだ!


 「俺は悪役令嬢なんかにはならないぞ!善良な淑女として生きるんだ!」


 そう、ロゼの父が言ったように誰にも優しい聖女のような女に!


 俺は心に強く決め、ガッツポーズを取った。


 どうしてこんなことになっているのかはとりあえず後!


 自分が真っ当な人生を送れるような目途を立てないと!


 「ととと、気合入れたら急に尿意が……あ、あ、あ」


 俺は急いでトイレへと駆け込んだ。


 「ウケる。なんで立ってする近代的なトイレがあるんだよ。流石はゲーム。都合が良い」


 俺は使い慣れたトイレの存在に少し安心感を覚え、小便器の前に立った。


 「ちょちょちょ、漏れる漏れる」


 女のスカートは小便するのに不便だなぁ、と俺は思いながらスカートをたくし上げ、これまた近代的な女性のパンツを下ろして、慣れた手つきでホースを摘む。


 「ふぅ……たまったおしっこを出す時が一番気持ちいい……異論は認める……ふぅー…………………………?」


 ………………


 あれ?


 なにかがおかしい事に気付く。


 にぎにぎ。


 どこか触り慣れたぷにぷに感。


 ………………


 ちらっ


 ………………


 やぁ(´・ω・`)/


 「って……ついとるやんけぇぇぇぇぇえぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 悪役令嬢ロゼ・フローレル。


 その正体は──────男の娘であった。

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