53.罪悪感と我儘の定義
それから、四人は執事に案内されるまま屋敷の外に出た。そして、屋敷が見えなくなった頃、セレスは一人立ち止まった。
「……ごめんなさい。私の家の事に、皆を巻き込んでしまって」
そう言ってセレスは、深く頭を下げる。そんなセレスの体は、まだ震えていた。
そんなセレスを見て、最初に口を開いたのはカーラだった。
「なんか酷いよねー。助け合いとか言ってて、頑張ってるのセレスばっかりじゃん」
「貴族出身なのに、寧ろ私達より何でもできると思っていましたが、納得です。相当苦労されてきたようで」
レピオスも、呆れた目をセレスの屋敷に向けた後、小さくため息をついた。そんな二人の言葉に、セレスは目を潤ませた。
そんなセレスを見て、ソルもセレスをもっと安心させたくて、セレスの手を握りながらセレスの顔を優しく見つめる
「だってさ。俺も二人と同じ考え。もしかしたら家族だからって気にしてんのかもしれないけど、セレスが一人背負うのは俺もおかしいと思う」
ソルがそう言えば、セレスは安心したように肩の力を抜き、そして目から涙をこぼした。
「家族を見捨てるなんて酷いって言われると思ってたわ……」
「もう十分、家族を助けてんじゃん。これ以上頑張らなくてもいいって」
ソルがそう言えば、セレスの涙は止まらなくなった。そんなセレスに、ソルはハンカチを差し出しながら、背中をさする。きっと真面目なセレスだから、自分の想像以上に罪悪感を覚えていたのだろうとソルは思う。傍から見ればもう少し我儘になってもいいと思うのに、セレスからしたら家族を裏切る最低な人間になったようで怖かったのだろう。
「セレスはさ、本当の自分が冷たい人だって気にしてたけど、俺からしたら、今回の件を聞いても何も変わんなかった。優しくて真面目で正義感が強くて、一人でなんでも抱え込んで頑張り過ぎちゃう。だから、セレスが抱えてる分をもっと俺が背負ってあげたくなるぐらい」
「そう……。ありがとう、ソル……。そんな風に言ってくれる人、いままでいなかった……。そんなあなただから私は……」
セレスは、ソルをギュッと抱きしめた。そして、涙をぬぐって背筋を伸ばした。そして、ソルだけじゃなく、レピオスやカーラの方も見る。
「皆、ありがあとう。どこか、二人が見に行く拠点になるような野宿の場所を見つけないとね。それとも、宿屋にする? お金は私が出すわ。皆の家には泊めてもらったのに、こんな事になってごめんなさい」
「気にしないでよ! 野宿でも宿屋でもなんでもおっけー! 四人だけっていうのも楽しいじゃん!」
セレスの言葉に、カーラが笑顔で言う。そんなカーラの笑顔に、セレスの表情にも笑顔が見えた。
そうして、四人はディーネンの宿屋へと向かった。途中、何度か街の人に声をかけられることもあった。きっとセレスの両親が、セレスが帰ってくれば生活は良くなると言っていたのだろう。街の人達は皆、セレスに対し期待に満ちた目をしていた。
そして、街の人に声をかけられるたびに、セレスはもう少しだけ耐えて欲しいと頭を下げていた。そんな姿を見るたびに、なんとかしてあげたくてソルの心も痛んだ。
「それにしても、お金は何かに使ったのですか? 見る限り、派手な使い方はしていませんよね?」
宿屋に着いたとき、レピオスはセレスに尋ねた。確かに、お金は領民を助けられるレベルの金額であるはずで、結構な金額になるはずだった。
「領の収支の管理をしてくれる、優秀な人を雇ったわ。確か来月から来るはずよ。一先ずは一年分の給料と、少し会計の足しになるようにいくらか家族が使ってしまわないように渡したの。最終的には自分の給料も含めて上手くやりくりしてくれるはずよ。本当は私がやろうと思っていたのだけれど……。ちょっと疲れちゃって……」
「……もしや、旅に出る前もあなたが?」
「ええ、ずっと。節約になると思って。でも、プロの人に頼んだ方がきっといいわ。国経由で探したから、信頼もあるし何かあれば権限もある。両親も妹も、私の意見よりも第三者の方が聞いてくれると思うの。私が管理していた時は、聞いてくれない時もあったから……」
「そう、ですか……」
セレスの言葉に、流石のレピオスも心配そうにセレスを見た。ソルもまた、原作でのディーネンを思い出す。原作でエンディング後に訪れたディーネン全体が活気を取り戻していたのは、セレスが必死に頑張った成果だったのだろうか。
どうして原作とセレスの行動が変わったのか、ソルにはわからなかった。けれども、その変化は、ソルにとっては嬉しい変化だった。
どうしてそんな変化があったのか聞いてみようか。ソルがそう思ったときだった。
「そういえば、セレスのお父さんはソルだけに怒ったんだろね?」
カーラが、そんな疑問を口に出した。
「えっ、あっ、それは……」
「そういえば、腰のポケットって……」
ソルが腰のポケットについた、セレスから貰ったお守りをチラリと見た時だった。
「ええっと……! もしかしたら私が刺繍したものをソルが付けていたから、何か勘違いをされたのかもしれないわ……!」
「えっ、これ、もしかしてこれって、セレスの手作りなのか!?」
セレスからの初めてのプレゼントで喜んだ記憶はあるが、まさか手作りだとは思わなかった。確かにセレスは料理だけでなく裁縫も得意という設定はあったし、先ほども家族の服を治しているとセレスの母親が言っていた。けれども、貰ったプレゼントの刺繍があまりにも綺麗すぎて、セレスの手作りだとは思っていなかった。
と、隣でそれを見ていたレピオスが少し引いたような顔で口を開く。
「そういえば、貴族の女性は自分の……」
「レピオス! 待って! それ以上は……!」
セレスは、顔を真っ赤にしながら慌ててレピオスの口を塞いだ。そして、ソルの方を不安そうに見る。
「ソル……! あ、後で必ず私から教えるから……! だから、今は何も知らないし聞いていないという事にしておいて……!」
「わ、わかった……! わかったから……!」
ソルは流石に、どういう意味なのかは全く見当もつかなかった。けれども、セレスにここまで必死に言われたら、頷くしかなかった。
改めてソルはセレスから貰ったお守りを見る。ソルはこれがセレスの手作りということが、セレスの想いがこもっているようで純粋に嬉しくて仕方なかった。
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