46.見せたくないものとこれからの計画

 セレスの温もりは、まるで麻薬のように心地良すぎてソルは離れたくなかなった。


「あはは、ヤバイな。こんな風に言ってもらったこと今まで無くて、セレスから離れたく無くなっちゃう」


 そうソルが言えば、セレスの動きはピタリと止まった。流石に気持ち悪過ぎたかと、ソルは慌ててセレスから離れてセレスを見る。

 けれどもセレスは、どうしてか笑っていた。


「大丈夫よ。私が離さないわ」


 きっとこの言葉も、セレスが自分を安心させてくれようとしているのだろうとソルは思った。それだけセレスは優しくて、こんな自分にも沢山心が温かくなる言葉をくれるのだ。


「ありがとな。そう言ってくれて」

「私は本気よ? お互い支え合うのでしょう? だから、私から離れたら許さないわ。それに、ソルも私を守ってくれるのでしょう?」


 ああ、セレスは真面目だ。ソルは思う。先程言った言葉を、セレスは本当に叶えてくれようとしているのだろう。気休めのための言葉じゃない。それが心地良くて、本当に離れられなくなってしまう。


「うん、わかった。俺もセレスを守れるように頑張るし、セレスから離れない」

「……頑張らなくてもいいのだけれど」


 ポツリ、と、セレスが言った言葉に、ソルは首を傾げた。そんなソルに、セレスはニコリと笑う。


「ソルはもう十分頑張ってるわ。だから無理しないで。って言っても、きっとソルは頑張っちゃうのよね」

「いや、そんな、流石に甘え過ぎは……」

「そうよね。ソルはそういう人だもの。でもいいわ。やっと、やっと私に相談して来てくれたもの」

「セレス……?」


 一人で納得するセレスの顔を、ソルは覗き込む。その瞬間、セレスは何事もなかったかのようにニコリと笑った。


「何でもないわ。それより、ソルの笑顔が戻って良かった。やっぱりソルは、笑顔がいいわ」


 その言葉に、もしかして買い物に連れ出してくれたもの、自分に元気が無かったからではないかとソルは思う。そんなセレスの気遣いに、胸がじんわりと温かくなる。

 まだ少し、全てを見せる恐怖はあった。けれども今は、どんな自分でもセレスだけは受け入れてくれる気がした。


 ああ、もし、ゲームとしてのこの物語が終わったら。そうしたら、伝えてみよう。前世の事も、本当の自分の事も。


 そんな事を、ソルはぼんやりと思った。







 そうしてレピオスの家に戻ると、レピオスも丁度どこかから戻って来ていた所だった。どこに行っていたのだろうと思っていると、レピオスはソルに向かって口を開く。


「……丁度今、トルサさんを彼の家まで送って来た所ですよ。彼は転移魔法を使い慣れていないとのことでしたので、念の為」


 確かに普通に生活していたら、あまり使わないだろうとソルは思う。転移魔法は誰でも使える生活魔法たが、魔力の少ない一般の人が使うと疲れやすく、近距離では使わない人も多い。

 だから慣れていない人に対しては、慣れている人が魔力を流し、一緒に転移する事もある。勿論この転移は意識の無い相手にも有効で、ソルやトルサが気を失っている間にセレニテに運ばれたのも、この方法を使ったからだ。


「……そっか。トルサは……」


 何か言ってたか? そう聞こうとして、ソルはやめた。レピオスが送ったということは、きっと事情を知っているのだろう。それに、もう関わらないと決めたのだから、聞いても仕方のない事だ。


「ごめん。なんでもない」

「……大丈夫ですか?」


 レピオスは、心配そうにソルを見る。ああ、セレスだけじゃなくて、皆優しいな。そんな事を思いながら、ソルは笑顔を作った。


「大丈夫。……セレスに話を聞いてもらったんだ。だから今は平気」

「そう……、ですか……」


 レピオスは、どうしてか眉間にシワを寄せたままだった。そんなレピオスにソルが首を傾げていると、後ろにいたセレスが口を開いた。


「それより、これからの事を話し合いましょう。何か国から連絡は来たかしら?」

「……ええ、まあ。カーラもそろそろお腹をすかせて戻ってくる時でしょうし、食後にでも話します」


 そう言って、レピオスは家の中に入った。


 そうして食事を終え、客間に四人は集まった。


「……とりあえず、ソルが狙われた事に関してだけは国に伏せて報告をしています。勘違いの可能性があるとはいえ、原因が原因ですから、ソルの周りが疑われても、あまり気分の良いものではないでしょう」


 その言葉に、ソルは確かにと思った。色んな事がありすっかり忘れていたが、禁術の本の交渉材料にするために狙われたのだ。それも勘違いの可能性があるとのことだが、可能性レベルであれば疑いは晴れないだろう。


「そして、これからですが。……。ディーネンの近くにある塔を、……念のため調査して欲しいとのことでした」


 ディーネンとは、セレスの故郷だ。そして、その塔はソルが瓦礫に飲み込まれた塔でもあった。

 きっと次の目的地はそこだろうとソルは思っていた。ゲーム本編でも、念のためとディーネンに立ち寄るのだ。そして調査をしているうちに、魔王が復活する。


「……そこは、一先ずコアだけは取り出されて仮の場所に設置をされましたが、塔はそのままです。……そこは、私とカーラだけで調査をしたいと思っています」


 レピオスが言いにくそうに話す理由を、ソルはようやく理解した。確か、エフォールの近くの塔に行った時に、思い出したとか言ってしまって心配をかけたのだっけ。

 そうでなくても、確かに瀕死になった場所に、その本人を行かせたくないというレピオスの気持ちは理解できた。


「……わかった。でも、セレスは? 別に俺一人でも……」

「……あくまであなたが狙われた件が勘違いであったことも仮定の話ですから。何があるかわかりませんから、少なくとも二人一組で行動した方が良いでしょう」

「確かにそうか」


 確かに、今はゲーム本編とはかなり状況がズレている。べへも禁術の本を持っていない状況で、何があるかわからない。そしてレヴィアも生きている中、一人でいるときにまた襲われたら、勝てる保証はない。


「何かあればこちらも連絡します。そちらも、何かあれば連絡を頂ければ、と」

「わかった」


 レピオスの言葉に、ソルもコクリと頷いた。と、隣で聞いていたセレスが口を開いた。


「ねえ、レピオス。ディーネンとなると、私の家に泊まるのかしら」

「えっ、いや……。可能ならばというレベルですが……」


 レピオスの言葉に、セレスは俯いた。


「もしかしたら無理かも……、ってことだけは伝えておくわ」


 セレスは、いつもより低い声でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る