みだれ追いし髪、かんざし
えそら琴
「なんや欲しいんかいな」
「え!? ううん、たまたま見てただけ」
「うそつけ。欲しそうにしとったやろ」
「してないよ」
「
「だから違うってば! そもそも、私のこの短い髪じゃ…」
「なんて?」
「もう行くよ」
「ちょ、おい待てや」
ホンマは聞こえとった。そう言うやろうことも分かっとった。
でも、多感な頃に母親を亡くして以来、どこか諦め避けていたものを
あいつは確かに欲しがった。
それだけでも今日、町に連れ出したかいがあったもんや。
「なあ、ちょっと鏡の前 立ってみ」
「帰ってきて早々、何よ」
「ええから」
「目つぶれ」
「今日はやけに注文が多いのね」
「ええでって言うまで開けるなや」
「はいはい」
「ちょっ、何!?」
「まだやで」
「開けてええで」
「これ…」
「髪
「…へたくそ」
「なんやて!」
「うそ。ありがとう」
「どういたしまして。この貸しは、お前の髪を伸ばすことで返してくれ」
「はい!?」
「安いもんやろ」
「…考えとく」
「おう」
手で触れ、鏡を見つめ続ける姿を眺める。
今は、これで十分や。たとえ時間かかったとしても、俺がいつか必ず
お前の失くし置いてきたもんを取り戻させたる。
みだれ追いし髪、かんざし えそら琴 @esora_510
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