第9話、普段の生活

 王都に帰って来てから数日経ち、普段通りの日常が帰って来た。

 大仕事を終えた後なので一日はゆっくりと休んだが、二日後には何時も通り仕事を始めている。何時もと違う点が在るとすれば、ルルが一緒に仕事をする様になった事だろうか。


『ねぇねぇ、これ持ってって良いのー?』

「ん、頼む。俺はこっち持ってくから」


 今日は引っ越しの荷運びだ。同じ荷運びでもこんなに気楽な仕事は無い。

 危険な場所に行かずに済むし、荷物の移動も王都内で終わりだ。やっぱり雑用仕事は良い。

 思わず鼻歌を歌いながら荷物を運び、ルルも楽し気に歌いながら魔法で運ぶ。


「アンタの評判は前から聞いていたけど、こんな安い報酬でやって貰って良いのかってぐらい手際が良いねぇ。これならあっという間に終わりそうだ。荷物の扱いも丁寧で助かる」


 俺が雑用仕事中心で生活している事は、王都内ではそれなりに知られている。

 おかげで俺に直接頼みたいと、そう言ってくれる依頼人まで居る程だ。

 まあ雑な奴にやらせると、荷運びの際に荷物壊したり、何て事もザラだからな。


 なので相対的に俺の評判が上がっているだけで、かつ今は更に評判が上がる理由が有る。


「相棒が有能なんで」

『えっへん! まかせて!』


 喜ぶ依頼人に胸を張るルル。実際本当に有能だ。

 大きな荷物は無理だろうと思っていたんだが、魔法を使える妖精には荷物の大小など関係が無かった。大体魔法で何とかなる。魔法凄い。今も荷物が魔法で浮いている。


 一番助かったのは木の植え替えだろうか。

 でかい木の根が生き物みたいに動き出して、荷台の上に自分で乗るのは思わず笑いが出た。

 植える時も自分で地面に埋まって行ったし。


 そうして一つ仕事を終えたら次の仕事だ。今度は清掃だ。街の大通りの掃除。

 普段やってる人が怪我したとかで、応援を頼まれた感じだな。

 清掃系は個人的にはとても好きな仕事だ。


 住んでいる街が汚いのは嫌だが、それが綺麗になる様子は気分が良い。

 それに街の清掃なんかだと、近所の人が労いの声をかけてくれる事も有るし、差し入れなんかを貰う事も有る。目の前でごみを捨てる奴も居たりはするが、概ね気分良く出来る仕事だ。


『もえろー!』

「おお、一瞬で燃え尽きた」


 集めたゴミの処分なんかは、街から離れた所で燃やしたりする。

 ただルルが一瞬で燃やしきってしまった。やっぱり魔法は凄いな。

 何故俺は魔法が使えないんだろうか。残念でならない。


 もし俺が魔法を使えたら、雑用がもっと手早く済むのに。少ない魔力が恨めしい。


 他にも家屋の修繕や、家具の細かい修繕、買い物の手伝いなんかも。

 基本的に一日に幾つも仕事をして、それでそこそこの稼ぎを得る。

 当然それは先日の依頼の十分の一にも満たない。


 でもそれで良い。最近は戦争も無く平和な訳で、荒事の仕事は多くは無い。

 勿論全く無い訳じゃないが。街から街の道中は獣も魔獣も居るし、盗賊だって居る。

 国を超える行商人なんかは、尚の事その危険に見舞われる。なら当然護衛が必要だ。


 だが戦争が多い時期に比べれば仕事は少なく、必然的に荒事の仕事は取り合いになる。

 そうなると本当に『傭兵』だった人間が仕事にあぶれた場合、野盗に身を持ち崩す事もある訳だ。仕事が無く、人を襲う方が容易く稼げると、戦時の略奪の様な事を始める。


 そういう人間を出さない為の傭兵組合なのにな。

 なら俺の様に、やる気の無い人間は彼等の仕事を奪わない方が平和だ。

 荒事の仕事の取り合いに参加しない事で、少なくとも一人は野盗に身を持ち崩す人間が減る。


 一番は、彼らも雑用で暮らす事に満足する事だが、それは何故か出来ないらしい。


『そんな下らねえ仕事を出来るかよ! ガキお遊びの駄賃じゃねえか!』


 過去野盗に身を持ち崩した人間は、討伐に来た俺にそう叫んだ。

 仕事なら在る。平和に暮らせばこうはならなかった。何故こんな事を。

 俺のそんな主張は、彼らには受け入れられない事らしい。


 それは一度や二度ではなく、何度もあった。

 恐らく俺は世間では少数派の人間なのだろう。


『楽しいなー! 色んな事やるんだねー!』

「ふふっ、そうだな」


 だから、多分俺は凄く嬉しいんだと思う。

 俺の生き方を見て、隣で楽しく手伝ってくれるルルの存在が。

 俺の仕事を『ただの雑用』と見下げず、笑顔を見せて来る相棒が。


 勿論俺だって、一攫千金を狙う人の気持ちは解る。でなきゃ危険な依頼は受けない。

 でもそれは受けざるを得ない理由が在る場合であって、普段はやっぱりこんな仕事が良い。

 特に今は懐も温かいし、態々危険な仕事を受ける理由も無いしな。


『次は? 次は何するのー?』

「次は……」


 それに最初は少し心配だったルルも、随分と街に馴染んでいる。

 元々の陽気な性格が幸いしてか、すぐにご近所さんとも仲良くなった。

 そして今の生活に不満は無いらしい。


 呪いを探しに行こうと言われるかと思ったが、楽しんでるなら取りあえずこのままで良いだろう。そうして一日の仕事を終え、その報告を組合にして、のんびりと家路に就く。


『今日も働いたねー!』

「そうだなぁ」


 ルルが周囲を楽しそうに飛び回り、それに笑顔で答えながら歩を進める。

 途中で食材を買いつつ、今日の仕事に関して色々と話しながら。


「おい、マジだぜ。ちょっと変だが、妖精を連れてやがる」

「何でお前みたいなヘタレが妖精なんかと一緒に居るんだよ、もったいねぇ」


 ただその途中で、俺の事を嫌っている連中に絡まれた。

 俺と同じく組合で仕事を貰っている身で、けれど俺が組合でそれなりに目をかけて貰っている、という事が気に食わないらしい。


 実際は他の連中が嫌がる雑用も受けるから、組合としても助かっているという話な訳だが。

 因みに絡んで来る時は組合の中じゃなく、今みたいに人目の少ない路地とかだ。

 俺に絡んで職員の心証を悪くしたくないんだろう。絡んでる事を伝えたら結局一緒なんだが。


『……ねえジェイル、何コイツ等』

「俺の事が嫌いな連中だな。雑用しかしない奴が重宝されてる、ってのが腹立つんだそうだ」


 ルルの問いに端的に答える。実際は雑用をするから重宝されている訳なんだが。


 偶に組合の職員の仕事も手伝うぐらいだしな。

 職員にならないかと誘われた事も有るが、それは断った。

 職員になると自由に動けない時がある。どうしても困る時が起きる。


 少なくとも両親が生きている間は、俺が定職に就く事は多分無いだろう。

 時間に自由のある今の働き方が、色々と都合が良い。

 これを両親に言ってしまうと、機嫌を損ねられるんだが。


『お前にはお前の人生を生きて欲しいんだよ』


 父にも母にもそう言われた。

 二人としては嫁でも貰って欲しいんだろうが、落ち目中年に寄って来る女は居ないだろう。

 なのでまあ、最低限親が死ぬまでの面倒ぐらいは見てやりたい。


「おい、妖精ちゃんよ。何でそんなヘタレと居るんだ?」

「そうだぜ、護衛依頼も討伐依頼も受けねえ、万年雑用係だぞソイツ」

「稼ぎも少ねえし、一緒に居ても良い事なんてねえぞ」


 言いたい放題だなコイツ等。間違ってないけど。

 俺はヘタレだし、荒事仕事は受けないし、雑用ばっかりやってるし、一緒に居ても稼ぎは無い。実に平凡できっとつまらない。

 けどそんなつまらない日々が好きな俺は、一生こういう人間と解り合えないんだろうな。


『……ねえねえ、コイツ等ぶっとばして良い?』


 だがルルはそんな連中への対処を、表情を消して静かに問いかけて来た。


「待て待て。流石にこの辺りで騒動は不味い」


 最近解った事だが、ルルは普段が陽気なせいなのか、最初は静かに怒り、そこから一気にプチッと切れる。とはいえ普段は拗ねてふくれっ面になる程度なんだが……。


「ああ? んだてめえ下手に出てればよ、やんのかごるぁ!」

「っすぞコラァ! っだおらぁ!」


 お前らも受けて立つな。妖精の恐ろしさを知らないのか。

 そもそもどこが下手に出てたんだよ。

 思わず心の中で突っ込むが、そんな事を言っている場合じゃない。


『むー! わたしお前達嫌い! 粉々になっちゃえ!』

「ああ⁉ チビが舐めてんのか⁉」


 案の定と言うべきか、本格的に切れたルルが魔法を放つ準備をし始めたからだ。

 なのにチンピラ共は脅威を理解していないのか、更に挑発する様に叫ぶ。おい本当に止めろ。


「っ、落ち着け! 粉々は本気で不味いから! ソッチも頼むからルルを挑発するな!」


 俺もこいつらに多少腹は立つが、だからと言って殺す程の相手じゃない。頼むから落ち着け。

 そう思い必死に頼むも、ルルも相手も頭に血が上って声が届ていない。


「腰抜けは引っ込んでろ!」

『またジェイルの事馬鹿にしたな!』


 むしろ俺が口を挟んだ事で更に熱くなっている。これはもう駄目だな。


「ああもう! 逃げるぞ!」


 説得を諦めてルルを抱きかかえ、その場から走って逃げだす。


『あっ、何するの! 放してー! アイツ等許さないのー!』

「ああ⁉ 逃げてんじゃねえぞコラァ!」


 全員が色々好き勝手言ってるけど知った事か。

 流石に王都で殺しをやって指名手配、何て事態は勘弁だ。

 連中は暫く追いかけて来ていたが、その内追いつけなくて諦めた。


 逃げ足だけ速い弱虫野郎とか何とか叫んでいたが、単にお前らの体力が無いだけだぞ。


『むぅ、ぶっ飛ばしてやればよかったのに……』

「お前粉々にするって言ってたじゃん……頼むから殺すのは止めてくれ。な?」

『……解ったー。むー。むーむー』


 ぶーッと膨れるルルだが、加減を約束してくれて良かった。

 正直俺は、ぶっ飛ばす事そのものは構わないしな。

 連中も軽くぶっ飛ばされた方が、妖精に喧嘩を売るのは不味いと解るだろうし。


 そうして後日、宣言通りルルは連中をぶちのめした。まあ尾行されていたし仕方ない。

 因みに騒ぎにならない様に、少々治安悪めの裏路地に誘導してからやった。

 性格が悪いと言わば言え。喧嘩を売って来たのはお前らだからな。


『次相棒を悪く言ったら許さないからね!』


 そう宣言する妖精に、連中は『解りました姐御!』と舎弟になった。それは意味が解らん。

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