第7話、帰り道の不安
隠れ里に荷物を渡して数日経ち、まだ山の中の道なき道を歩いている。
当たり前と言えば当たり前だが、来た以上帰り道も同じだけかかる。
いや、道を覚えたから少しだけ早いか。
『ねえねえ、ジェイル』
「ん、どうしたルル」
『ジェイルって、もしかして、とってもつよい?』
「ないない。魔法は使えないし、基本不意打ちだし、強い魔獣には勝てないぞ」
ルルに答えながら、先程仕留めた魔獣の血抜きをする。
確かに一撃で一瞬で仕留めはしたが、この魔獣の知識が有るし、不意打ちで終わらせたから即座に終わっただけだ。正面から真面に戦っていたら、魔法を打たれて万が一も有り得る。
それに俺のやり方は安全第一なので、強い奴とはそもそも戦いたくない。
『むー。そっかなー?』
「そうそう。それに俺は正面から強い奴を倒す、何てのは余り好きじゃないしな」
ルルは俺の答えに不満そうだが、実際言った通り荒事は余り好きじゃない。
強い魔獣が現れた時の退治だって、基本は罠を仕掛けて地味な対処をする。
正面戦闘なんてごめんだ。
勿論どうしようもない時はやるが、基本的には被害を抑えて地味に確実に終わらせる。
「地味で、雑務好きで、派手な事はあんまり好きじゃないんだよ、俺は」
『ふーん。人間って皆そうなのー?』
「いや、どちらかと言えば俺が珍しい部類だ。世の中の人間は派手な事の方が好きだし、解り易い強さを褒め称えるものだ。ルルの魔法みたいに、ドーンと強いのとかな」
『わたし、好かれる⁉』
「好かれる好かれる。妖精は強いし、お前は可愛いしな」
『わたし、強いし可愛い。むふー!』
ルルは今まで褒められた事が少ないのか、俺の誉め言葉を聞いて嬉しそうに鼻息を漏らす。
実際見た目は幼児で結構愛らしいので、普通に好かれるとは思う。
一般常識の妖精とは程遠いけど。
『ねえねえ、今やってる事って、何か意味有るのー?』
「ん、これか? こうしないと血生臭くなる。肉が悪くなり易くなったりもするな」
『ほえー?』
ルルは兎に角色々と聞くのが楽しいらしく、俺も出来る限り丁寧に答えている。
こうしておけば村なんかに入る際、色々注意しなくても問題無くなるかも、という打算もある。妖精が暴れた時って、妖精と一緒に居る人間も怒られるんだよ。だから結構切実。
ただまあ、大体はルルが楽しそうだから答えている感じだが。
「血抜きが終わったら毛皮を剝いで、適当に肉も切り分けて、今日はこれで何か作ろうか」
『おー! わたしあれがいいー! 辛い葉っぱがいっぱい入ってるやつー!』
「はいはい、アレならまだ有るから作れるよ」
『やったー!』
ルルは初対面時に『呪い』を食うと言っていたが、別に他が食えない訳じゃない。
むしろかなり食い物が好きな事が最近解った。
とはいえ別にグルメという訳ではなく、珍しい物が好きなんだろう。
何せ今まで山奥に居たからな。
なので呪いを食いたいのは食いたいが、それは兎も角人間の料理も好きになった様だ。
勿論これも人間社会を気に入らせる為の一環だ。料理は人間が誇って良い文化だから。
まあ俺は誇れる程の料理は作れないし、街に行けばもっと美味しい物が溢れているけどな。
ただ討伐部隊の補助役で雑務なんかもやったし、野草を使った野営の料理なら手慣れたものだ。
『楽しいなー。楽しいなー。やっぱり山を出て良かったー!』
「……そっか」
ルルはとてもご機嫌だが、どうしても俺はこの話題になると上手く返せない。
きっと本人は気にしてないとは思う。だから俺の気にし過ぎなんだろう。
それでもどうしても気になる。
もうルルに同族は居ない。もしかしたら別の国に、同系列の妖精は居るのかもしれない。
けど、それは別の一族だ。ルルの一族はもう居ない。
今は楽しいかもしれない。我慢して来た事を我慢せず、やりたい事をやって楽しんで、悲しい事など何も無い。今はそう思えるとしても、何時かの未来で同じ風に思えるのだろうか。
家族が居ない。皆死んだ。その寂しさを振り返らないものだろうか。
『どしたのー? 変な顔して、お腹壊したー?』
「……帰り道はどう帰ろうかと、少し悩んでいただけだ。ほら、行きと違って一人じゃないしな。人の多い所に行くなら色々見たいだろ?」
内心でそんな事を考えていたが、素直に言わずに誤魔化した。
こんな心配など、言われても困るだけだろうしな。
ルル本人は見ての通り、今は全く気にしていない訳だし。
なら変な事を言うよりも、楽しい話の方が良いだろう。
『人いっぱい……前に行った所より沢山なの?』
「比べ物にならないぐらい居るよ。きっと驚くぞ」
『おおー! 楽しみ! 人があれよりがいっぱい居るの、面白そう!』
飛び跳ねる程楽しみにしてくれるのは良いが、人が多い所に行くのは問題も有る。
世の中には結構荒っぽい奴や、面倒臭い奴が沢山居る。関わらない方が良い人間は多い。
人の多い所に行った時、ルルがその手の人間に出会った場合が怖い。
出来れば騒動が起きない事を祈りたいけど、希望的な考えは措いてしっかり見ておかないとな。
一人なら普段通り、腰を低くして適当に避けて流すだけなんだが。荒事めんどい。
……子供なんて持った事無いのに、完全に保護者気分だな。
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