第4話、不穏な目的

『道だー! 初めて見たー!』

「やっと出れたか……」


 目の前に道が現れた。

 街道と呼ぶにはお粗末な道だが、獣道とは全く違う、車が通れる大きさの道が在る。


 つまり人が通る道だ。

 この道を行けば人里に辿り着く。やっと山から出られた。

 妖精は初めて見る『道』が嬉しい様だが、俺は大分ぐったりしている。


「これでやっと人間的な食事が出来る……」

『そなの? じゃあ今まで食べてたのは?』

「アレは、緊急事態の致し方ない食事なんだ……」


 手持ちの食料はあの短剣のせいで腐り、その辺の野草で食い繋いでいた。

 キノコに手を出そうかと思ったが、流石に怖いので止めた。

 知らない種類しか無かったからな。毒キノコは怖い。


 幸い食べられる草花は多く、季節的に青々と茂っていたので餓死の心配は無かった。

 水に関しても小さな川を見つけて何とかなり、けれどそんな生活は、自分が人間なのか野の獣なのか解らなくなる気分だ。妖精という話し相手が居なかったら、苦しい日々だったと思う。


「さて、道を見つけた訳だが……食糧調達の為に人里に向かう。なので出来るだけ大人しく頼む」

『はーい!』


 とても良い返事だ。良い返事過ぎて物凄く不安になるのは何故だろうか。

 例えるならアレだ。子供が良く解らずに大人の言葉に頷く様な感じだ。

 解ってないけど解ったと答えるアレに聞こえる。


 とはいえこの妖精は、それなりに頭は良いと思うが。

 喋り方こそ子供っぽいが、会話が通じない事は無い。それは話を理解している証拠だ。

 そう自分に言い聞かせ、取りあえず人里……村を目指して歩を進める。


「目的地への到着は遅くなるが……仕方ない」


 人里に向かうという事は、当然ながら目的地からは遠ざかる。

 何せ目的地は、人里離れた遠くの秘境だ。

 道なき道を進んで行き、その果てに辿り着く様な場所だ。


 そんな所に人が居るのかという疑問は未だに有るが、そこに荷物を運ばなきゃならない。

 だが道中一度迷ってしまい、更に食料も尽きていて、やっと道を見つけた状況から再度山へ突撃、等というのは流石に辛過ぎるだろう。せめて一日はゆっくり休みたい。


「出来れば今日は室内で、ぐっすり熟睡したいな……」


 一番の理由はこれだ。毎日の野宿で神経が擦り減っている。

 何時襲われるか解らない山の中で、当然ながら熟睡出来る日なんて無い。

 毎日毎日少しずつ疲弊し、今日はもう大分キテいる。


『寝てて良いよって、言ったのにー』

「それでも怖いんだよ……」


 妖精は寝ない俺に対し、自分が居るから寝ていれば良いと言った。

 この辺の獣なんて自分の敵じゃないと。

 随分と俺に優しい発言だと思ったが、それでも俺に熟睡は無理だった。


 これはもう単純に仕事の慣れだな。危険が在ると思っていると、どうしても熟睡は無理だ。


『あ、ねーねー、あれ? 村ってあれー?』

「ん? ああ、村が見えて来たな。良かった」


 こっちは俺が通って来た道では無かったので、村までどのぐらいかかるか不安だった。

 だが道に出てから一日かからずに辿り着き、思わず安堵の息を吐く。


『ふああああ、ひと、人いっぱい居る!』


 見る限り小さな村で、沢山と言うには少ない。

 けれど人間を見た事が無く、更には妖精としても最後の一体だった身としては、沢山の人が居る様に見えるんだろう。

 楽しげに叫ぶ妖精に水を差す必要も無いと、苦笑で肯定して村へと歩を進める。


「こんにちは、すみません、食料を分けて頂きたいのですが……」

『わーけてー!』


 村に近付いたら害獣警備なのであろう人物に声をかけ、自分の状況と要望を告げる。

 相手を不快にさせない様に、なるべく丁寧に下手に出て。妖精は能天気に陽気な感じで。

 ただ村人も妖精に手を出すのは不味い認識がある様で、そっちは余り気にしていなかった。


「……妖精?」

『妖精です!』

「……そっか妖精なのか……妖精?」


 まあ、見た目が人間の幼児に羽が生えてる姿なので、二度見して驚いてはいたが。


「ちょっと待ってな、村長に聞いて来るから」


 幸いにも村人は友好的で、俺の要望はあっさりと通った。

 食料は手持ちの金で分けて貰えたし、一晩泊る場所も提供して貰えた。本当にありがたい。


『おー! 凄い! 何か凄い! 良く解らないけど凄いね!』

「ああ。ベッドが在るのは贅沢だな」


 俺としては家畜小屋か、使ってない廃屋でも有ればと思っていた。

 だが村に来る商人が泊まる為の小屋が在り、今は居ないから泊まると良いとの事だ。

 おかげでベッドで寝られる。実にありがたい。


 妖精は初めて見る家屋にもう訳が分からなくなっている。凄く楽しそうだ


「お食事も、少ないですけど如何ですか?」

「ありがとうございます!」

『ありがとー!』


 更に食事までごちそうになり、本気で感謝しかない。

 辺鄙な所にある村の場合、結構よそ者への警戒心が強いからな。

 それはそれで、危険から身を守る為なので仕方ないんだが。


 妖精も人の食事が珍しいのか、とても楽し気に食べていた。ただその後が問題だったが。


『ねえねえ、呪いは? 無いの? 人いっぱい居る所なら有るって長が言ってたよ?』

「小さな村だから無いと思う、って事前に言っておいただろ?」

『ふえ? ……食べられると思って、楽しみにしてたのに……ぐすっ』

「な、泣くなよ……ほら、これ食べなって。別に呪い以外食えない訳じゃないんだし。な?」


 大暴れこそしなかったが、スンスンと泣きだしてしまった。

 まるで俺が悪い事をした気分になる。

 癇癪を起されるよりも、静かに泣かれる方が結構キツイ。


 だが無い物は仕方ないし、普通は無い物なのだと説明し、渋々ながら納得してくれたが。

 後初めてのベッドの存在も大きかったんだろう。転がると一気に機嫌が直った。


『もっと大きな村に行ったら在るよね!』

「……どう、かなぁ」


 ただ諦めた訳では無く、更なる無理な希望を抱いただけっぽいが。

 見つからなかったらまた泣くのかなぁ。子供に泣かれるのは苦手なんだが。

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