第三章
第33話 ユリサルート王城の城下町
それぞれが、色んな思いを巡らせながらエルフの森を通り抜けて行くと、目的地が近くなってきたのか先の方に出口の様な光が見えて来た。
外の道を歩いている時とは全く違う、過ごしやすそうな風が吹く中を進んできたので、出口が見えた時のルキヤの心情的には、もう少しこの森の中でまったり過ごしたいかな?と言ったものだったが。
「もう出口か~早いよな。」
アキラは、かなりガッカリしたような口調で言う。
「だね。ボクももう少しこの空気感と言うか、今の時間がどれ位なのか?とか全く考えなくても良さそうな空間?で過ごしてみたかったかな。」
ヨルは、頭の中のメモ帳?の様な記憶の中に、今通っているこの森の風景や感覚を落とし込む様に、感想を呟いた。
「でも、それでもセイルさんには森での暮らしは生きづらいと。」
勇者アルサスがセイルに問うと、
「そうね。アタシ、エルフに向いてなかったかもね。」
と、苦笑いしながら答えた。
談笑しているうちに、森の出口が迫って来ていた。
「私が最初の一歩を踏みますわよ!」
メレルが森の出口に駆け寄ろうとすると、
「ちょーーーっと待った!!」
慌ててセイルが制止する。
「ええっ?何ですの!?今イイ感じでしたのに!?」
「出る時が、一番肝心なんだ。行きたい場所の位置座標軸の固定が出来るのはエルフだけだからね。入る時に一応ユリサルート王城近くとは森に指定しあるけど、それだけだと不安定なんだよ。最後に出る時に確認しないとね、いつの時代のユリサルート王城近くに出るとも限らないし、ユリサルートではない王城の近くに放り出されるやも知れないんだよ。」
いつの時代か・・・と、別の王城かも知れないと言う言葉の下りで、メレルはちょっと恐怖して数歩後ずさった。
「そうそう。だからアタシが先頭に行くね。」
セイルが皆の先頭を歩きだすと、見えていた出口の先に街の様なモノが見え始めた。
「本当だ。さっきまでは一体どこに出るんだろう?って感じで、光しか見えて無かったけど、セイルが前に出た途端出口の風景が見えて来たよ。」
ルキヤが驚いて声を上げた。
「なるほど。エルフの森で長距離を短時間で移動する仕組みの一端が分かったかも知れない。」
ヨルは更に感心しながら、今目の前に広がる光景を頭の中に押し込んで行く。その傍らのアキラは、
「オイラ・・・何かめちゃくちゃ腹が減って来たぞ・・・」
「さっき、キルキス村で何か食べたんじゃなかったっけ?」
ルキヤがアキラに確かめると、
「あんな事が起きたし、何か色々疲れてヘトヘトなんだぜ・・・」
そう言いながら、疲れた~をイメージした謎の動きをした。
「あはは!フニャっとしてる!」
メレルにはツボった様で、かなり笑っていた。
「はいはい皆様~!着きましたよ!目的の、ユリサルート王城とその前に広がる城下町でございます~!」
セイルが、森の入り口を完全に開け放って、眼前に広がる風景を紹介した。
「ひえぇええ~!!」
ルキヤ達は、初めて見る自国の王城と城下町の大きさに、目を疑った。
ユリサルート王城は、建物の大きさもさることながら、ちょっと小高い丘の上に建っているので、その大きさが更に際立っているように感じられた。
城までの道に続く城下町も、あのヴァイラーナムの街がゆうに3~4個は入りそうな広さがあったし。
広さもそうだがやはり、街を行きかう人々が多いのにも驚いていた。
「やっぱりオレ達ド田舎モンだって実感したわ~。」
ルキヤ達が進む王城まで続く道の両側に建つ店を見ながら、ルキヤはため息交じりにそう言った。
「俺も昔はそう思いながら、最初の魔物討伐の召集でこの城に来たものだけど、やはり100年も経つと違うな、何て言うか、今流行っている店構え?と言うのかな。あと街の人の服装もかなり違うよ。」
勇者に至っては、約100年も恩賞で歳を取らずに過ごしてきた所為か、それともただ流行に疎いだけなのか分からないが、自分の過去の記憶とすり合わせてながら周囲を見渡していた。
一方、かの大魔導士メレルは?と言うと、
「ちょ!ちょっとちょっとアル!!この魔道ロッド凄くなくて?一度の詠唱で2発魔法が撃てましてよ!しかもその時の魔力消費は三分の一!!
ちょっと先にある魔導士ご用達の専門店のショーケースにベッタリとくっ付いて、展示してあるロッドに釘付けになっていた。
「どれどれ・・・」
男性陣がピクリとも反応しない事に頭を抱えたセイルが、メレルの所に行ってその件のロッドを見てみると、
「あ、ああ~・・・これ、20年前に流行ったパチもんですよ。人間の間では結構噂になってたんですけどね~。ここ最近転生して目覚めた人にはちょっと魅力的なアイテムかも知れませんが、ただのお高いオモチャですよ!」
セイルは、ちょくちょくここ数十年の間に人里や町に下りてきて得ていた知識の中に、このロッドの事があったのを思い出して、メレルに真相を語った。
同じ魔法が3回は撃てる。これは合っているが、メレルの放つ超ド級の高度な魔法にロッドが耐えられないのだ。
構造としては、一度ロッドの中に最初に放った魔法の魔力を溜めておき、ロッドの中で魔法を分割し、分割した魔法それぞれに効果を強化する魔法を自動で付与して放つ・・・と言う寸法なのだが、メレルの魔法でそれをやったら、即ロッドが爆発する可能性が高かった。
その部分を話すのはロッドに期待しまくっているメレルには酷な事だと思ったセイルの、精いっぱいのウソと言うかフォローであった。
「へ、へぇ~。そうでしたの。なら仕方が無いですわ。」
セイルの、渾身の説明に納得した様子のメレルは、意外とあっさり店の前から離れた。そして、ちょっと名残惜しそうにロッドの方をちらりと一瞥すると、
「またどこかで、本物の凄い3回魔法を撃てるロッドを見つけてみせますの!」
と言って歩き出した。
道の両側の店はルキヤ達にも色々と誘惑が大きかったが、特にアキラには美味しそうなにおいを漂わせている店の前を通るたびに立ち止まるので、
「もうすぐお城だから、我慢しようぜ?」
とルキヤが声をかける事数回、とうとうある店の前で立ち止まって座り込んで動かなくなってしまった。
「おいら・・・もう限界・・・」
その店は普通のパン屋だったのだが、イイ匂いをさせている割にはそろそろ閉店と店からの客とのやり取りが聞こえて来ていた。
「そーいや、そろそろ店を閉める時間帯か。」
西の方の空が少し赤くなってきていたのを、ルキヤは遠目に見て確認している。
「アルサス、ここはもう妥協して、パンを買った方がボクは思うけどね。ボクも実際問題腹ペコだし。」
ヨルがお腹をさすると、ぐぅぅ~と少し低い音がした。
それを聞いた勇者は、
「た、確かに。俺も結構腹が減ったしな。それに、腹減りで王城に着くとか、ほぼ物乞いみたいな状態にも見えるし、良くないかもな。
「ですね~アタシも腹減り・・・」
セイルも、森の発言などで結構披露している筈だった!と、ルキヤ達は思いながら、
「そうそう、このパン屋で何か食べよう!」
「私も賛成ですわ。」
そんな感じで、皆の意見は一致して目の前のパン屋に入って行くのだった。
「あらぁ~!いらっしゃい!もうすぐ店じまいでパンも少ないけど、見てってね!」
パン屋に入ると、少なくなったパンを一つの大きなテーブルに集めながら、店員のオバサンが一行に声をかけた。
テーブルに乗せられたパンは、少ないと言っていた割には結構な量があったので、
「そこのパン、全部くださらない?」
メレルが一気に購入を決めた。
「これだけあれば、貴方達の腹の虫とやらも収まるのではなくて?」
ルキヤ達の思考はお見通しでしてよ!と言わんばかりのメレルに、皆は頭が上がらないのであった。
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