第23話 今、起きている事

 では、魔王カルスを討伐して、謎の石を封印して幾星霜。

 世界の時間は約100年が過ぎて、平穏で平和な日常が過ぎている様に見える。

 所が今、新たなる脅威がこの世界を蝕んでいるのだ。知らなかっただろう?その蝕んでいる原因が、実は時の神殿にある。

(ルキヤ達は、ええ?!と言う表情)

 俺が、カルスの身体から出て来た白い玉を、神殿の洞窟に剣で封印した話は記憶に新しいと思うが、その白い玉は今あの神殿には無く、別の者を支配して悪事を働いているのだよ。

(それってまさか!)

 その悪事を働いている者は、時の神カリクルサス・リサルヘスだ。

 俺も、最初は目を疑ったが、本当の事だった。

 今、カリクルサス・リサルヘスは暴走していて、正しい時間空間を設定出来ない。本来は来なかった筈の別の世界に移動してしまったり、本来は起こらなかった筈の事件が起きたり、一日しか移動していないのに103日も過ぎてた!とか。

 そう、被害者は君達なのだよ!

 ただ最近、君達以外の被害者も続々出てきていてね、ヴァイラーナムの東側の街スルフォスでは、いつもの様に仕事に出かけたのに帰って来たら家族が全員老人になっていた!とか、さっき作ったばかりの料理を見たら、もう一週間位放置してたかの様にカビが生えてた!とか、まだまだ小さな出来事ばかりだが、そのうちもっと範囲を広げて、ユリサルート王国以外の国や、ユークリイート大陸全体にその脅威は広がって行くかも知れないんだ。

 そこで、君達にお願いがある。

 時の神カリクルサス・リサルヘスを止めて、世界に平和と平穏をもたらす方法を考えて欲しい。


 勇者は、そう言って深々と頭を下げた。

 勇者の長い長い話は、今ここに終わりを迎えた。


「と、言われましてもね・・・」

 ルキヤ達は、勇者アルサスの長い長~い話を聞き終わると、しばらくうなだれていたが。

「はいは~い!オイラひとつ思い出したことが!」

 急に何かを思い出したアキラが、手を上げる。

「どうした?アキラ君、何か良い案が思いついたのかな?」

 勇者が問いかけると、

「オイラ達、何日も風呂に入って無くてクサいです!!」

「!!!」

 そうだった、思い出した!と言う顔を、セイルとルキヤとヨルは、アキラに物凄い気迫の目を向けた。

「そ~なんです!!アタシらちょっと匂う筈なんです!!」

 セイルは特に、髪がボサついている状態を気にしていたし、

「ボクも久しぶりに自分のニオイが微妙で、今すぐ服を脱ぎ散らかしたい心理に駆られています。」

 と、それぞれが今風呂に入った方がイイ論をブチまけた。

「そうですね。確かに貴方達はちょっと・・・匂いますね。今からでもそこの公衆浴場に行って来たらどうですか?」

 メレルがそう提案して来たが、

「オレ達、ここん所の移動でお金が無いんですぅ~!」

 ルキヤが、悲しみの叫びをした。

 そんな状況を目の当たりにした勇者は、

「ヨシ!分かった!男子の面々は俺と公衆浴場に!セイルさんはメレルに案内してもらって、ウチの風呂場でくつろいで!」」

 そう提案すると勇者は、ちょっと匂う男子3人を引き連れて、近くの公衆浴場に向かってしまった。

「あれ?アタシも公衆浴場良かったのでは?女湯は無いの?」

 セイルが疑問をぶつけると、

「あそこのお風呂は男子のみしか入れないのです。元々戦に行っていた戦士が王城に参上する前に、この街で戦場の垢を洗い流すとか・・・ナントカで建てられたのですから。」

「へぇぇ~。」

 理由はともかく、セイルは納得した。

「じゃあ、アタシもお風呂に!」

「ですね、セイルさんの髪、本当はアルに似た金髪の筈なのに、今汚れでくすんでいて勿体無いです。」」

 メレルはそう言うと、セイルを風呂場に案内した。


「ふぃぃいい~~!!イイお湯だった!!」

 首からタオルをかけて、アキラは部屋に入って来るなり第一声を発した。

 どうやら、件の公衆浴場は予想外に良いお風呂だった様で。

 後からやって来るルキヤもヨルも、ここん所では一番良い笑顔になっていた。

 一方、引率の先生状態でルキヤ達を公衆浴場に連れて行った勇者アルサスは、アキラの様に清々しい表情ではなく、せっかく大きなお風呂に入ったにも関わらず、かなり疲弊していた。

「き、君達・・・お風呂は定期的に入ろうな・・・・」

 どうやら、ルキヤ達の汚れを落とすのに、かなり体力を消耗した様だった。

「本当、面目無い・・・・」

 勇者の疲弊っぷりに、ルキヤはただただお礼を言っていた。

 一方、女子のお風呂の方は?と言うと、

「はい!出来上がり!!稀代の美貌のエルフが登場ですわよ!!」

 何やら普段の倍生き生きとしている?(と後にルキヤ達に耳打ちした)メレルと、メレルに面倒を見られまくりで徹底的に美貌を磨かれた、セイルが部屋に入って来た。

「も、もう~!メレル!このドレス本当後ですぐ脱ぐからね!!」

 セイルは、まるで一国の姫か?と言わんばかりのドレスを身にまとい、髪はサラふわの金髪になって、姫の様な小さな冠の髪飾りを付けている。

「おお~!セイルさん、見違えましたね~!」

 勇者は、手を叩いてセイルの変貌を喜んだ。

 だが、

「ああああああああ・・・・」

 当のセイルは?と言うと、今まで森の奥地でしか暮らしてこなかったツケなのか?それとも生来の体質なのかは分からないが、突如として肌に蕁麻疹が現れて、慌ててまた風呂場の方に戻って行った。

「ああ!わたくしとした事が・・・・ガガ・・・」

 メレルは、失敗した~!!と叫びながら、セイルを追いかけた。

 しかし、ほんの一瞬だけ、セイルの本来の美貌が垣間見れた男子3人は、

「やば!セイル凄い美人だった!」

 とか、

「やっぱりエルフは皆美人な人が多いんだね~」

「オレ、今まで母さんが一番美人だと思ってたけど、セイルの方が美人だと思った。」

 などと、のたまわっていた。

 多分今日は、このまま勇者宅にお泊りして、明日色々を考えることになりそうかな~と、ルキヤは考えていると、

「何か今日は俺も色々疲れたし、時の神討伐作戦は明日考えましょう!」

 と、何かかなりヤバイ名前を付けた作戦を言った勇者は、両手を上げて伸びをして、あくびをするとその部屋から去って行った。

 ルキヤがふとヨルとアキラに目をやると、2人はソファーに横たわり、スヤスヤと寝息を立てていた。

「通りで、戻って来てからの発言が少なくなったと思った。」

 ルキヤの方はあまり眠気が無い様で、一人、暴走する時の神の事を考えた。


 一方、セイルの方は?と言うと、メレルの回復魔法で蕁麻疹はナントカなったのだが、服は元の服を洗って乾かして(乾かす時は自分で風のまほうをかけた)、それえを着た所でようやく平常心になった。

「お風呂はとっても気持ち良かったんだけど!!」

 死んだ魚の様な目をメレルに向けながら、セイルは、

「服!その一点に尽きる!!」

 そう言って、ルキヤ達の居る部屋に歩いて行った。

 メレルは、エルフを怒らせるとドラゴンの咆哮並みに怖かった、と言う事実を知った。

 それと、

「この感じだと、良い案は明日にならないと浮かびそうにありませんわ・・・」

 メレルはそう言うと、台所の方に向かった。

 今日は、勇者アルサス以外に、超絶食べ盛りそうな男子が3人も居るから、夕食作りの腕が鳴るわよ~!!と、こっそり叫んでいた。


 いつの間にか、ルキヤもすっかり眠ってしまっていた様で、食欲魔人のアキラに揺さぶられて起こされるまでは、かなりの熟睡状態だったらしい。

 起き上がって周りを見ると、メレルが作って持ってきた夕食の匂いが部屋中に立ち込めていた。

「貴方達!よろしくて!この私が腕によりをかけて作った夕食よ!残さず食べなさい!」

 どこんちのお母さんだ?と思いながら、ルキヤ達はくだんの夕食を食べる。

 メレルが作って来たのは、薄いパンの様な皮に野菜と肉をたくさん挟んだ食べ物だった。

それと、具沢山のクリームシチュー。

 結構大きくて、両腕を肩幅でまっすぐ前に伸ばしたその肩幅位の長さがあった。

「ん~~!!美味しい!!メレル、アンタ良いお嫁さんになれるぞ!」

 機嫌と体調の戻ったセイルが絶賛している。

 ルキヤも、ちょっと寝ぼけ眼のまま、かぶりついた。

 シチューは、ミルクをたくさん使っている様で、口に含むと牧場の風景が頭に浮かんだ。

 懐かしい、アルル村の空気を感じた。



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