第21話 勇者の始まり

 何やら、新しい情報がてんこ盛りになって来たので一旦整理したいルキヤだったが、ただこれからまだまだ勇者から凄い話が出て来そうな様相だったので、頭の中で考えるのはもう少し先になりそうな状況だった。

 それに、これまでの話を勇者にしなければ、先には進めそうに無かったし。

「あの、勇者アルサス。オレ達の周辺で起きた不思議な事件や出来事の話を聞いてくれませんか!ここ数日・・・だと思う、に起きた事なんですが、オレ達にはもう、何が何だか分からなくて・・・」

 ルキヤは、ここ数日の(103日経過した事は保留で)、自分達の周囲で起きた事を、つつみ隠さずに勇者に話した。

 成人の儀の次の日に起きた事件、神殿が崩れていた事。アルル村に戻ったら103日も過ぎていた事。最初に会った勇者が老人だった事など・・・

 思い当たるオカシイと感じた事を全て話した。

 勇者は、ふむふむとか、へぇぇ~とか呟きながら興味津々と言った具合でずっと話を聞いてくれていて、時々質問までしてくれていた。特に老人の勇者に会った時の話では、

「なるほど・・・その時のメレルは確かに、勇者の孫っていう存在だったんだ?」

「そうですね。物腰も普通の10歳位の少女でしたし、あの時の勇者は本当に少女のお祖父さんって感じの対応してました。」

 ヨルがその時の事を思い出しながら話す。

「ただな~あのジイさん、スゲー胡散臭かったんだよな~。結局オイラ達の事は半分追い出す感じでさ。でもそのお陰で、崩れていない時の神殿に戻れたけど。」

 アキラが、あの時の本音を勇者に漏らした。

「アタシも!あのジイさん、何だったんだろ?本当に勇者だったのかな?」

 セイルも、今あの時の愚痴をこぼした。

 その後も、キルキス村の200年史で、勇者の戦いの話を聞いた所を話したが、

「そーいやメレルさん、勇者一行のメンバーだったんですよね?とすると、キルキス村の200年史には記述が無かったんですが。」

 ルキヤが、思い出した様にメレルに問いかける。すると、

「私は、あのキルキス村の記録員に見つからない様な隠密行動をしていましたもの!最初から勇者一行の中には存在していない事になっていた筈ですわ!」

 メレルは、当時の事を思い出しながら、かなり得意げに真実を話すも、

「駄目だよ、メレル。本気で10歳の少女で居たかったら、普段の話し方から直さねばね。ああ、メレルは高度な魔導士だったんだけど、極度の人見知りでもあってね、気心を許した相手にしか姿を見せなかったんだよ。例えば、俺とカルスとか・・・・。ザルツには結局懐かなかったな?エルミナとは少し打ち解けてたみたいだけど、エルミナが重傷を負って戦線を離脱してしまってからは、かなり意気消沈してたよな~。それが原因かな?メレルも瀕死の重傷を負って倒れて。でも死の間際にコイツ、自分に転生魔法をかけて転生するんだぜ!あの時は本当に、驚いたぜ。」

 勇者はメレルの普段の生活態度を改めるように指示した後は、昔の仲間の話を少し話し始めた。メレルが200年史に載っていなかった事実を知ると、セイルが声を抑えながら大笑いしていたけれども。

「くっ!くくく・・・・ひ、人見知り!?」

 同じ?見た目より高齢仲間?のセイル的には、ちょっとあり得ない!と言う意見だったが、

「よ、陽キャな貴方あなたには分かりませんわ!」

 メレルはセイルの言葉に反論して、プイっと別の方に視線を移した。

「なる程なる程・・・勇者様の仲間達も、かなりアクの強い皆様で、本当に面白いです!」

 ヨルがまた、首を縦に振りながら何かに納得していた。

「それはそうと、ヨル君はウチの・・・シストラ家の子だそうだけど、この家ってもしかして元々ヨル君が住んでた所?」

 不意に勇者に話を振られたヨルは一瞬戸惑ったが、

「あ、そうです。ボクが5歳まで住んでた所で、その後アルル村に引っ越しました。そう言えば勇者様はアルル村のご出身でしたよね?」

 話を振られたお返しに?と、ヨルは勇者にアルル村の話を振る。

「そうだな~、まぁそうなんだけど。さっきルキヤ君が話してくれた成人の儀の事件、あれって俺が成人の儀をした時と同じ状況だったんだ。あと、神殿が崩れた話、あの話は200年史に乗っている事に間違いは無いんだけど、ただ崩した相手が違うかな・・・。」

 勇者は、あごに手を置きながら話す。

「あの時は、カルスが放った魔法が神殿の建物に当たったんだ。200年史だと魔物の討伐の最中って感じだったと思うけど、本当は違うんだ。」

 そ言って、少しうつむいた。

「アル!無理してカルスの事を話さなくても良いんじゃなくて?!」

 メレルが、勇者の事を心配して話を止めさせようとするが、

「いや、これから話す事は、ココに居るルキヤ君達に必要な事だと思うから、俺は真実を包み隠さず話すよ。あと、今起こっている事もね。」

 勇者は、ルキヤ達に向き直ると、まっすぐに皆の目を見た。

「これから、俺とカルスの旅の話をしようと思う。でもその前に、今思っている疑問を全部俺に話し切って欲しい。

 真剣な眼差しの前に、ルキヤもアキラもヨルも、そしてセイルも、今まで起きた事の詳細を語る。

 特に今最も疑問が募るのが、時間の超越?と言った方が正しいのか、急に103日も経っていたり、亡くなった筈の人が実は生きていたり、神殿が本当は崩れていなかった辺りが主に分からない事だった。

「と言うか、まとめてみるとほぼ全部ですね。分からない事は。一体何が?もしくは誰が?こんな事をしているのか?を知りたいです。」

 ルキヤは、勇者には全部話し切った・・・と思った。

 勇者は、うん。と一言言うと、

「分かった。よし!その解答を言う前に、まず俺の話を聞いてくれないか?でないと多分正しい解答が出せないと思うから。」

 と言って、ルキヤ達一人ひとりの頭をポン!と軽く叩いた。

「あ!」

「何だかくすぐったいね!」

 ルキヤ達は、勇者が今話したがっている話を聞いてから、それらの真実を聞くのを承諾した。

「うん、ありがとう皆。ではまず、俺とカルスが旅立った日から・・・・」

 勇者は、今から約110年前の話からし始めた。


 俺達が、何故魔物の討伐の旅に出かけたのか?と言うと、成人の儀の日の次の日の朝に、村の教会の神父が何者かによって殺されていたのを見たからかな。

 神父の死因を探って行くうちに、村の近くに魔物の巣があって、そこに居た魔物が神父を襲ったと言うのが死因だったらしい。

 その体験以降俺は、村の人や他の人、誰か困っている人が居たらなるべく助ける様な暮らしをして行った。

 ある時、ユリサルート王国の国王から、魔物の討伐遠征に行く人員の募集がかかった。当時は、ユリサルート王国の北部の街エリスファスと、北部の隣国ウェルツェネル王国との国境付近に魔物の大きな巣の様なモノがあり、そこからまるで無尽蔵とも取れる数の魔物が発生していた。それを数多く討伐した者に報奨金が出ると言う話を聞いた俺達は、装備を整えてエリスファスに向かった。

 この討伐体には、ユリサルートの直属部隊の中規模隊が2つ。エリスファスの部隊が1つ。隣国ウェルツェネルの部隊が2つとあと、俺達の様な個人の傭兵が約300人集まった。

 全部隊と俺達傭兵を全員合わせると、多分5000人はくだらなかっただろう。それ位の人数で魔物の討伐に向かったが、完全に魔物の戦力の方が上だった。

 戦闘は熾烈を極めたが、何とか俺達は生き延びて、ユリサルート国王から報奨金や褒美を得た。俺達は勝利の美酒に酔っていて、その時カルスが一人で何かに悩んでいるのに気付けなかった。

 あの時、もっとカルスと話していれば、あんな事にはならなかったかも知れないのに。





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