第20話 シストラの家系
前に来た時に勇者の銅像があった広場に着いたが、あの
以前置いてあって撤去したのかな?と思って周囲を見渡してみたものの、そう言った痕跡は見られなかったので、元々この広場にはそう言った銅像などの類は置かれてなかったのだろう。
そして街の名前だが、周辺の店やさっき出てきた公衆お手洗いに『ヴァイラーナム』の文言が記載されていたので、この街は今確実にヴァイラーナムの街の認識で合っている様だった。
あの日、シストラの街と呼ばれた光景は一体何だったのだろう。そして、勇者も。
勇者は時の神の恩恵により、100年間は年を取らずに生きて行けるはずだったのに、あの時の勇者は老人だった。
色々思い起こしてみると、あの時のこの街はどこか変だった。しかし、今はもうそれを確かめるすべは無い。今訪れているこの街は、あの時の街とは違うのだ。
広場での散策に疲れたルキヤ達は、しばらく広場に置かれているベンチでまったりと休んでいたが、休んでいても何も状況の変化が見られないので、そろそろ行動に移さなければと、ルキヤが最初にベンチから立ち上がった。
「とりあえず、オレ達から勇者の家に行ってみる?ココで待っていても誰も声をかけてくれそうにないし。」
ルキヤは、勇者にまつわるモノが何も無い広場にこれ以上居続けても、何の成果も得られないと悟って、皆に声をかける。
「そうだな、このままだと浮浪者?に思われる可能性があるかも知れない。」
ヨルは、座っていたベンチから立ち上がり、ルキヤの方に向き直った。
アキラは、すっかりベンチからお尻が離れづらい程に眠かったようで、ルキヤに両腕を引っ張り上げてもらいながら立ち上がっている。
ヴァイラーナムの街に着いたのはまだ朝の時間帯だったのに、そろそろお昼になろうとしていた。
前回、街に来た時に連れてこられた勇者の家の前に来たが、どうも今この家に住んでいるのは別人の様だった。
中から、子供の様な声とお母さんらしき人が喋っている音がする。
「やられた~!何だ?これじゃあ、オイラ達から勇者に接触しようとか、そう言うの無理じゃね?」
アキラが残念そうな悔しそうな風に言ってきた。
「困ったねぇ。あ、でももしかしたら、あの家に行けば何か分かるかな?」
ヨルが何かを思い出した様にルキヤ達に話す。
「何だ?ヨル、一体何を思い出したんだ?」
「皆、ボクの素性の事忘れてない?ボクは、勇者のシストラ家の血筋の者だって。」
「あ、ああ~!!」
セイルは、ヨルを指さしで思い出した。
「で、この近くにシストラ家の分家の家があるんだよ。ボクがまだ小さい頃に住んでた家なんだ。」
そう言うとヨルは、ルキヤ達に付いて来るように言った。
もう、ヨルの言っている家に勇者が居なかったら、ルキヤ達はほぼお手上げ状態になるかも知れなかった。
ヨルの言っていた家は、さっきまで居た広場からはそれほど離れてはいなかったので、予想していたよりも早く着いた。
ただ、今回初めて
「さて・・・どんな理由を付けて訪問してみるかな・・・」
ルキヤ達が家の前で思い悩んでいると、一番後方に居たセイルの背後から何者かが声をかけて来た。
「こんにちは。ウチに何か御用ですか?もしかして勇者様のお知り合いの方ですか?」
セイルが振り向くと、そこにはあの、前回老人の勇者に会った時に出会った、勇者の孫の少女が立っていた。
「え!あ!はい!」
セイルは、急に声をかけられた驚きと、勇者の孫の少女に再開?できたことに驚いて、言葉が上手く出せなかったようだ。
一方、それを見たルキヤは、
「え!そうです。実はオレ達勇者に会いに来たんです!」
と言うと、
「やはり、あなた方だったのですね。実は
少女はそう言って、ルキヤ達の間を通って家の玄関先に向かうと、
「それではどうぞ、皆様。勇者様がお待ちです。」
少女は玄関の扉を開いて、ルキヤ達に中に入る様に促した。
ルキヤ達は、少女の言う通りに家の中に入り、明るくて煌びやかな応接間に通された。
前回のあの老人の勇者の家の応接間は、今思うとかなり暗く、陰湿な雰囲気さえ感じられた気がしたが、今訪れているこの応接間は、そんな雰囲気は微塵も感じられない所だった。
少女に案内されて座ったソファーも、前回はくすんだ緑色をしていたが、今回は明るいオレンジ色をしている。
と、こんな風に比べるのはちょっとオカシイな?と、ルキヤは普通に何も考えずに待っている事にした。
椅子に座って間もなく、待っていた時間はほんの少しで勇者が現れた。
この、ヴァイラーナムの街での勇者は、ハッキリ言ってあの日の勇者とは全く別人だった。
見た目は30歳台前半位で、髪は金髪でサラサラの好青年。目は、時の神殿の星の石の様に青く輝いていた。
「こんにちは、皆。良く来てくれたね!」
勇者はそう声をかけると、ルキヤの座る応接テーブルの端に置かれた小さな椅子に座った。
「こ、こここここ、んにちは!」
勇者が座ったすぐ隣の椅子に座っていたルキヤは、突然隣にやってきた勇者に緊張しすぎて、声が上ずってしまった。
「あっはははははっ!!何やってんだよルキヤ!声がオカシイぞ!!」
アキラが大ウケして大笑いする。
「仕方が無いよ、アキラ。ルキヤはずっと勇者に会いたかった勇者信仰者なんだ。だから、こんな近くに勇者が来たら声が上ずっても仕方が無い。」
ヨルが、あんまりフォローになって居ない様な事をアキラに言った。
このやりとりを聞いていた勇者は、
「ははははっ!君達、面白いね~。本当に仲が良いんだね。」
と、まるでアキラの様に大ウケした後、改めて向き直って自己紹介をした。
「俺の名は、アルサス・シストラ。かの103年前に魔王を倒したと
「メレル・アドレネスです。」
勇者の後ろの扉から、お茶とお菓子のセットの乗ったワゴンを押してきた少女が、そう名乗った。
ルキヤ達は、驚いた。
今回の勇者、この間会った老人の勇者とは全く別人だと。
しかも、前回勇者の孫と紹介された少女の顔はあの時と同じだったが、孫ではなく、かつての仲間の転生体だと言うのだ。
これまでは、色々時空がねじ曲がっていた所から正しい?所に行っても、特にキルキス村の方では初対面風ではなく「また来たね!」と言った感じで話していられたが、今回のこの勇者とのやりとりは、どう見ても完全に初対面同士でかつ、同じ人物の筈なのに全く別人にすげ変わっている様な、そんな状態になっていた。
「メレルさん、初めまして。お茶、ありがとうございます。」
ルキヤやヨルが、思考を巡らせてボンヤリしていた合間に、メレルと名乗った少女は、テキパキとテーブルにお茶とお菓子を配置して行った。
「皆はメレルが普通の10歳位の少女に見えるかも知れないけど、そこのエルフのお嬢さんと一緒で、見た目よりも年齢老けてるから!気にしないでどんんどん話しかけて大丈夫だよ!」
勇者が突然、メレルの実年齢が実は結構年上だと言う事を暴露すると、
「ちょ!なっ!何言ってんのよアル!
先程までの可憐な少女?の面影を完全にブチ壊した、一人の年齢不詳の少女にメレルは成っていた。
「・・・・・」
メレルはハっ!としてルキヤ達の方に向き直ると、目が点になったルキヤとアキラと目が合って、焦りを通り越して恥ずかしくなっていた。
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