第二章

第14話 時の神殿

 あの、勇者のジイさんが言った通り、アルル村から急勾配の山道かまたは街道を通って行ける時の神殿には、ほんの数歩で着いていた。

 と言うか、時の神殿の中にあるお手洗いの男性用の入り口の扉から、ルキヤ達は飛び出してきた!と言った方が正しいだろうか。

 セイル以外は男子なので、出てきた場所の意外性以外は特に問題なさそうだったが、セイルは何で男子の所から!?と、ちょっと焦りまくっていたけれど。

「まぁでも、あのジイさんペテンかと思ってたけど、ちゃんと着いたね神殿!しかも崩れてない!やった~!!」

 アキラが失礼な?事を言いながら、神殿のお土産コーナーの方に歩いていく。

 昨日?一昨日?とにかく、あんなに崩れ去って以前の様な荘厳そうごんな雰囲気が微塵も残っていなかったあの光景を目の当たりにしてからと言うモノ、ルキヤの心の中にはポッカリと穴が開いてしまった様な、そんな感覚をずっと感じていた。

 この場所は、ただの神殿と洞窟って訳では無いのだ。ルキヤ達3人にとっては、生涯の友情を誓い合ったあの日の思い出が詰まった、大切な場所なのだ。

「い、いや~~凄いわ!本当に、凄い!初めて見たわ~!いや、本当多分104年ぶり位で来たけど、あの頃割と子供だったから覚えてないんだわ~!え?こんなに純度の高い星の石売っててイイの?しかも、やっす!!こんな値段でイイの?アタシ買っちゃうよ?爆買いしちゃうよ?!」

 ルキヤが感慨深げに思い出に浸っている横で、星の石のファン?過ぎるセイルが、まるでちょっと買い物に来たオバちゃんの様な口調で、お土産コーナーを激しく物色し始めている。

 そんなセイルを見ながらヨルが、

「多分これが、普段からこの青い石を見慣れていない人(エルフ)の反応なのかも知れないね。ボク達はあの時からこの腕輪と共に生活してきたから全然珍しくないけど、セイルの反応が普通なんだと思う・・・よ?」

 セイルの、ほぼオバちゃんの爆買いの様子を目の当たりにしてドン引きしていたルキヤに説明するも、ルキヤはその光景を前にして目が点になったまま固まっている。

 そんなルキヤの反応を見たヨルは、セイルの買い物風景を見ているウチに、本当にあれが普通なのか?と疑問に思ってきていた。

 そんな中、本来の目的である勇者の剣だが、さっそく見つけて喜んでいるのはアキラだった。

「うっひょ~~!!あった!勇者の剣!これが魔王を倒した剣なのか~!

 おや?このセリフ5年前にも聞いたような?と言った顔をして現れたのは、この時の神殿の神官であり、お土産コーナーの店長であった。

「おやおや、君達!大きくなりましたな~!その様子だと、かなり元気にしておられた様子。おや!そこのお嬢さんはエルフですね!これはまた珍しい!ようこそお越しくださいました!」

 神官の、この言葉に反応したのはルキヤで、

「オレ達去年も来てたんだけど、覚えてないの?」

と問うと、

「そうだったんですねー!スミマセン!多分その頃の私は、ユリサルート王国の時の神殿の神官組合の集会で、王都に出向いていた頃だったので、お会いしていなかったと思います。」

 そう言いながら神官は、ルキヤに何度もペコペコしながら謝った。

 それを見たルキヤは、何か神官の威厳とは?と思わずにいられなかったが。

 ルキヤへの謝罪をした後神官は、買いたいモノを選び終わってお会計に臨もうとしているセイルを確認すると、とても嬉しそうな顔をした。そしてセイルが買った買い物袋の中に、

「これはオマケです!家族とか友達に渡すのが良いですよ!」

 と言いながら、小さな青い石のハマった指輪を入れた。

 その指輪には、見覚えがあった。セイルは渡された袋をゴソゴソと探ると、指輪を手に取った。

「あ!これ!長老様に貰った後、アルファにあげた指輪と同じ!」

 セイルは、ずっとあの指輪を渡してしまった事を後悔していたが、星の石の導きの果てにこんなにも嬉しい事が起こった事に、非常に感謝した。

「本当に!星の石の導きがあった!嬉しい!!ありがとうございます!!」

 セイルは、感極まって涙ながらに神官にお礼を言った。

「す、すげーぇ!マジか!本当に星の石の導きってあるんだな!」

 今までアキラはどう思ってたんだ?と質問したくなったが、目の前でリアルに星の石の導きを目の当たりにすると、自分達がずっと身に着けているこの腕輪も、実は色んな所でルキヤ達を導いてきたのだろうと思うと、かなり感慨深い気持ちになった。

「本当、この神殿があって良かった。オレ達の心の拠り所だよ。」

 ルキヤがそう言うと、その場にいた仲間達は、首を何度も縦に振った。

「はい!さて!本題です!!」

 ゆったりとした時間を過ごして行きたいルキヤだったが、アキラの切り替えの早さにちょっと辟易へきえきしつつも、本来の目的を思い出し実行に移すことにする。

 あのジイさんが言っていた事は、この勇者の剣に腕輪をかざす事だったのだが。

 いよいよ腕輪をかざそうか?と言う所で、神官がルキヤ達を止めに入った。

「き、君達!!馬鹿な事は止めなさい!!」

 血相を変えて、ルキヤ達をお土産コーナーのあるロビーの方に引きずって行く。一体どんな事情があって自分達の行動を阻んだのか、ルキヤ達には想像が及ばなかった。

「ちょ!神官さん!一体全体何なんですか?オレ達はちょっと勇者の剣に用事があって・・・」

 これ以上何か剣にしようとするならば、神官に事の経緯を説明しなければならないとルキヤは観念した。


「・・・・と言う訳なんです。」

 今まで、ルキヤ達が経験したすべてを、この時の神殿の神官に話した。

 成人の儀の後にアルル村の神父が不慮の死を遂げたのが見つかり、その原因を探るためにこの神殿に向かった事。

 神殿に着いたら何故か神殿が崩れ去っており、この事実を確かめるために勇者に会いに行った事。

 勇者会うと、この神殿は崩れていないと言う話を聞かされて、街にある長距離移動出来る扉からこの神殿に来た事。

 全部を話した。

 神官は、時々驚いたり悲しそうな顔をしたり、何かに悩んだりしながらも、ルキヤの話を真剣に聞いてくれていた。特にこの神殿が崩れていたと言う話には、かなり関心しながら聞いて何かを思い出そうとしていた。

「そうです!思い出しました。この神殿は昔一度崩れたことがありました!」

 やっとその、思い出したかった事を思い出した神官はそう言った。

「崩れていたのは・・・時期は思い出せないのですが、確か今から約102年位前です。勇者が魔王とそれに追随する魔物と戦っていた頃でした。私は当然あの頃は生まれていませんでしたが、キルキス村にある200年史を読んだ時は、かなりハラハラした気分になりましたね。今の君達が読んだら、ちょっと心躍る冒険活劇の様な感覚で読めるのかも知れません。」

 キルキス村の200年史・・・のくだりで、ルキヤ達は「ああ!」と声を上げる。

 あの分厚い記録を確かめに行ったのは、この神殿が崩れていた事実を確認する為だった。確かに、あの時は何かの魔法による攻撃の様なモノを受けて崩れた・・・んだったかで、ルキヤ達は渋々納得するしかなかったのだったが。

「今は修復が済んだって事なのか?一昨日オレ達が見たあの神殿は、過去の風景だった可能性があるってことなのか?」

「でも、キルキス村で確認したら、崩れてから約100年は経過しているって話だったね。なので、もしかするとボク達が見た崩れた神殿は、別の世界の神殿だった可能性があったりしない?」

「うーーーん!何が本当で、何がまばろしだったのか!オイラにはサッパリだぜ!」

 3人は、それぞれ頭を抱えて悩んだ。

 この光景を見ていた神官は、また別のある事を思い出してルキヤ達に語り掛ける。

「もしかすると、この時の神殿で祭っている神である『カリクルサス・リサルヘス』が、何らかの原因かそれとも思惑で関わっている可能性があると考えてみませんか?あと言い忘れてましたが、そこの勇者の剣はただ突き立てられているのではありません。そこには、勇者が倒しそこなった『魔王カルス』の一部が封印されているのです。それでさっき私は、何かをしでかそうとしている君達を強制的に止めたのですよ。ご理解いただけましたかな?」

 神官の言葉の中に、ルキヤ達が生まれて初めて聞く名前があった。

「魔王カルス?」

 そう、魔王には名前があったのだ。


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