第12話 勇者の話

 セイルの問いかけに老人は、

「なるほど、確かに歯に衣着せぬ物言いじゃな。まぁ良かろうワシもお前達に色々聞きたい事もあるのでな。」

 少々苦笑いをしながら、老人は更に続けた。

「あの子はワシの孫じゃ。ただ両親は既に他界したがの。孫は小さい頃からあの調子でな、多分今回が初めての人生では無いのだろう。どこかでワシらが出会った誰かの転生した姿・・・なのかも知れぬ。」

 老人の言葉に、セイルはかなり驚いていた。滅多な事では聞くことが無い、『転生』と言う言葉を聞いたのだ。

「ふむ、それが本当なら、あの孫娘さんは前世の記憶を持っているのかも知れませんね。」

 ヨルは、誰かの生まれ変わりかも知れない少女の、過去の身の上がどんな人物だったのか知りたいと思ったが、

「な~に、転生と言っても本人は過去の記憶を覚えておらぬよ。」

 老人は、再び応接室に戻ってきた少女を見ながら、ケタケタと笑った。

 老人の妙な笑い声に少女は、

「お祖父様、今私の話をしていましたね?」

 と、少しいぶかし気に反応したが、

「な~に、少しばかりお主の話をしていたまでよ。」

 老人は、特に変な事は言っていないぞ?とも言いながら答えた。そして、目の前の小テーブルに置かれたお茶を一口すすった。

「とりあえず、オレ達はさ、ジイさん・・・いや勇者に聞きたい事がてんこ盛りなんだ!ちょっと前までのオレ達に起きた出来事の原因とか、それとあと、何でオレ達の名前を知ってたのかも!」

 ルキヤが、老人と孫の会話が終わるのを見計らって口を開いた。

「そうじゃの、悪かったルキヤよ。まずは、皆の話を聞こうではないか。」

 老人=勇者は、切り株の浮遊する椅子をルキヤ達の座るソファーの近く撫で移動させると、訪れた客人4人の顔を見直した。


「じゃ、まずオレ達が住む村で起きた事件の話から・・・・」

 ルキヤ達が、それぞれ順番と言うか補足説明をしあいながらあの、事件の話から順を追ってしていく。

 成人の儀の次の朝、火櫓の焼け残りの中で見つかった神父の遺体の事。

 その後行った時の神殿が崩れ去っていて、しかもかなり昔からその状態になっていた事。

 キルキス村を経てアルル村に帰ると、亡くなった筈の神父が生きていて戸惑った事と、ほんの一日しか出かけていなかったにも関わらず、アルル村では既に103日が経過していた事。

 この街に来る途中で近道をしてエルフの森を通って出てみたら、街の名前がヴァイラーナムからシストラに変わっていた事・・・

 何もかもが普通じゃない。どこかで時間がねじ曲がったし、事象も変化している。特にアルル村の神父の死が無かったことになっていたのは、ルキヤ達にとってはかなり大きな事象変化だったと言っても過言では無かった。

「これって、一体どう言う状況なんでしょう。何がどうすると、こんな状態になってしまったのか、その理由か原因を知りたいのです。」

 ヨルは、今までに起きた事をこうやってまとめて並べてみると、本当にオカシな事になっているのを実感していた。

 アキラは?と言うと、少女が目の前に置いたお茶を飲み、クッキーを食べまくっている。

 セイルは、ルキヤ達が経験してきた事の話を初めて聞いて、驚き過ぎて開いた口が塞がらない!と言った状態になっていた。

「お前ら・・・・結構大変な目に遭ってたんだな!」

 クッキーに手を伸ばし口に運びながら、セイルはルキヤに言う。すると勇者が、

「なるほど・・・皆の話から察するに、何となくじゃがワシの若い頃、つまり勇者になりたての頃の事象をなぞって追体験している様な、そんな状況の様な気がするんじゃが。」

 追体験?

 ルキヤ達は顔を見合わせる。

「ワシも、当時猛威を振るっていた魔王の討伐に出かける前、まだ成人の儀を行った頃に、アルル村の教会の神父が謎の死を遂げているのじゃよ。」

「ええっ?!マジすか?」

 急にアキラが食いついて来たが、勇者はそれには返答せずに話を続ける。

「時の神殿が崩れた話は、ワシは初耳じゃな。多分今も変わらずあの、急勾配の先で鎮座しいていると思っているがの。ただルキヤ達の周辺だけではなく、かなり広範囲にわたってオカシな現象が起きている事をかんがみると、別の何かが働いているかまたは、時空そのものが歪んでいるかも知れん。」

 神殿が崩れ去っている状況については、勇者自身が知らないと言うのなら、多分神殿の周辺に何らかの事象が絡んでいる可能性はあった。ただしそれが何なのか?の原因はつかめないのだが。

「そうですか・・・って事は、オレ達があの時見た崩れ去った神殿は今、元の崩れていない状態に戻っていると言うか、そもそも崩れてない状態のままって事なんだな?勇者!?」

 神殿が崩れていないと言う言葉を勇者の口からきいたルキヤは、5年前に訪れた時の記憶を引っ張り出して思い出していた。

「って事は、勇者が魔王討伐の後に神殿の奥に突き立てた剣も、未だ健在って事になるのかな?」

 ヨルも、当時のあの友情の証の腕輪を腕に付けた時の事や、当時の神殿内部の様子を思い出しながら、勇者に問いかけた。

「多分、あるじゃろう。ワシの魔王討伐の記念に突き立てた剣じゃ。もしかすると、お前さん達がその腕に付けている腕輪をかざすと、今まで起きて来た歪んだ事象が戻って、正常な世界になるやも知れぬな。試してみる価値はあると思うがの?」

 勇者は、ルキヤ達が経験した謎の事象の回復に付いて、自身の突き立てた剣に腕輪をかざしてみる事を提案した。

「時の神殿の奥の洞窟で採掘できるその石は、昔から星の石と呼ばれ、『真実に辿り着く道標』とうたわれておる。何らかの変化がお前さん達の周囲に現れるであろうぞ。」

 ふとルキヤは、ひとり微妙な違和感を感じた。これはちょっとまだ不確定な要素だったので他の皆に話せないな?と思考しながら、勇者の老人の言葉の中にある、ほんのひとかけらの不協和音の様なモノの正体を考える事にした。

 ルキヤが一人何かを考えていると、今度はセイルが質問する。

「ジィさん!これはアタシが初めて体験した不思議事件だけど、この街の名前ってアタシらさっきまでヴァイラーナムって認識してたんだけど、いつからシストラ?って呼んでるの?街の入り口の守衛が、勇者が魔王を倒して街に来た時から、シストラって呼ばれているって言うんだけど?」

 何か時間に追われているかの様な、かなり早口でセイルがついさっき起きた事象の変化?について勇者に語った。

 勇者は、

「うむ、うむ。そうじゃ。この街はヴァイラーナムと言う名の認識で合っておるぞ。つい最近までは、本当にヴァイラーナムであった。ただ。ワシも何らかの時空の変化に巻き込まれた様でな、いつの間にかこの街の住人の認識が変わっておった。ついぞ先日までヴァイラーナムと言う街の名じゃったが、いつの間にかシストラでもう100年以上過ぎてると言う事になっていたのじゃ。アルサス・シストラ・・・ワシの名字を取って街の名にしたのじゃろう。だから、セイルよ。お前さんの、この街の名の認識はヴァイラーナムのままでよろしかろう。」

 と、セイルはもちろんの事、ルキヤ達もびっくり!な事実を話した。

「へ、へぇぇ~。ヤバいっすね。この街も。」

 皿に乗っていたクッキーをほとんど食べてしまったアキラが、かなり動揺した様子で返す。ヨルも、

「と言う事は、こんな感じの事象の歪みは、他の村や町でも起きている可能性があるって事ですよね。コワイコワイ。」

 何かを考えながら、勇者の認識の変化について返答した。

「そんな訳じゃからの、お前さん達は早急に時の神殿に向かい、ワシの剣にその腕輪をかざすのじゃ!」

 勇者は、オカシな状況を打開するための方法はコレしか無い!とばかりに断言してルキヤ達を急かしたが、

「とは言ってもな~勇者のジィさん、オイラ達がこの街からアルル村を抜けて時の神殿まで辿り着くには、限界を超えた速度で走っても3日はかかるんだぜ、無理無理案件なんすよ。」

 最後の一滴?カップに残ったお茶を飲み干したアキラが、やれやれと言った風に勇者に答えた。

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