第17話
「ごめん…」
「まぁライブ終わりまで楽しめたんだからいいんじゃねーの?」
涼介はお腹に大きなリュックに後ろに静を背負って歩いている。
歩きにくいことこの上ないが、この重みも悪くない。
「静、私こっちだから」
新庄は心配そうな顔をしつつ、自分の家の方へ帰って行った。
もう夜なので辺りは暗い。
住宅街まで戻ってきたので人もまばらだ。
「楽しかったか?」
「うん。
「あーあのチャラチャラした奴な」
「チャラチャラして見えるかもしれないけど、法学部に首席で入ってるんだから」
「ふーん」
「ねぇ、涼介…もしかして嫉妬してるの?」
「し、嫉妬なんてするわけねーだろ‼︎そんなこと言うなら下ろすぞ」
涼介が降ろすふりをするとギュッと静が服を握ってくる。
「ここで降ろされたら困る」
「なら、いらん事いってんじゃねーよ」
「はいはい」
しばらく歩くと、後ろから寝息が聞こえる。
静にとっては久しぶりの外出で疲れたに違いない。
ふぅっと耳に息がかかる。
なんだか熱い気がする。
心臓もドキドキしてくる。
「こいつが重すぎるせいだ」
涼介は誰に言うでもなく呟くと、家路に着いた。
□■□
「おはよ」
「おはようって…お、お前その格好…!」
翌日朝ご飯を用意している涼介の元に、静が高校の制服姿で2階から降りてきた。
「お前、その格好!?」
「制服だけど?」
何かおかしい?と言う顔をして、自分の制服姿をくるくる振り返りながら確認している。
「いや、そうじゃなくて。お前、もしかして学校行くつもりなのか?」
「そうだよ」
当たり前のように返事をする。
「だって、お前突然そんな」
「なんかライブ行ってから行ける気がしてさ」
「行けるならそれでいいんだけどよ、大丈夫なのかよ」
「なるようになるでしょ。それにしんどくなったら涼介が助けてくれるでしょ?」
「なんで俺が!?」
「それよりトーストまだ?遅刻しちゃうや」
涼介は頭の中を整理しながら、急いでトーストを準備した。
ご飯を食べ終わり、静と一緒に戸締まりを確認すると、家を出る。
「マジで学校にいくんか?」
「マジだけど?」
「どうやって?」
涼介がそう尋ねると、?という顔をしている。
「気持ちいいー!」
静は涼介の自転車の後ろで声を上げた。
「ちゃんと捕まっとけよ」
「引っ越してから登校してなかったから自転車通学ってこと気づいてなかった」
「ったく、色々言われたら面倒だから近くまで来たら降ろすからな」
「わかったー」
そう言いながら、涼介の肩を掴んだ。
触れられた肩が熱くなってきた気がする。
「帰りもよろしくね」
「…やなこった」
涼介はそう言うと自転車のペダルを思っ切り踏み込んだ。
□■□
高校へ行くと、噂は瞬く間に広がった。
「おい、あんなキレイな子いたか」という声そこらかしこから聞こえてくる。
静は気にする様子もなく、廊下を歩いている。
「おはよう。
「おはよう」
「あれが
「塩田くんも興味あるの?」
「いや、やっと本当に争えると思ってさ」
「争う?」
「彼女がいる間はずっと彼女が学年トップだったからね」
塩田は嬉しそうに「楽しみだ」と言って不敵に笑った。
移動教室で静のクラスの前を通ると、色んなクラスの学生が静を見に来ている。
大丈夫なのかと心配する涼介をよそに問題なく静は過ごしているようだ。
男子の方など見向きもしていない。
何より新庄がSPのように静を守っている。
「ねぇ、野々原さん。連絡先交換しようよ」
クラスの男子が気軽に声をかけているのが見えた。
「なんで?」
「いや、仲良くなりたいなーと思って」
「…私は仲良くなった人と交換したいから」
そう言って静はパシッと断った。
(相変わらずキツイなー)
そう思いつつ、少し爽快な気持ちになった。
「はぁ」
イライラする。
あの後も色んな男子がアプローチしていると噂が聞こえてくる。
その度になんだかイライラするのだ。
「どうしたんだい?」
「いや、別に」
「もしかして君も野々原さんに興味があるのか?」
「静に興味なんてねぇよ!」
塩田が驚いた顔でこちらを見ている。
やってしまった。
ついヤンキー口調で話してしまった。
「いや、あのその、野々原さんに興味はないよ。ハハハ」
笑って誤魔化そうとするが、絶対誤魔化せていない。
どうしたものかと考えていると、チャイムが鳴った。
(助かった…)
静が学校に来るだけでこんなに振り回されるとは、この先を考えると頭が痛い。
ため息をつきながら、数学の教科書を開いた。
「帰るぞ」
近くの公園で待ち合わせすると、静を自転車の後ろに乗せた。
「お願いしまーす」
「ったく、めんどくせー」
そう言って涼介が自転車を漕ごうとしたところに、「有岡くん?」と声が聞こえた。
振り返ると、塩田が立っている。
「君たちは一体?」
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