第13話
本人もなぜ外へ出られないのかわからないと言っているのだから仕方ない。
この前助けに来てくれた時も真っ青な顔をしていた。
あれは相当なものだ。
「静~!メシだ!」
朝2階に向かって声をかけると、だるそうに欠伸をしながら出てきた。
髪はぼさぼさで、目も半分開いていないが、美人だ。
勉強も運動も出来て、美人。
一体何が原因で外に出たくなくなるというのだろう。
「おはよ」
静は意識もなさそうでぼんやりとダイニングのいつもの席についた。
「起きろ!学校行かないにしても、朝型生活は維持した方がいいぞ」
「・・・わかってる」
眠そうに目をこすりながら、静はトーストをかじった。
それを見届けると、
「今日早くない?」
「あぁ。今日から希望者に朝の勉強会が始まったんだよ」
「そんなのあるんだ」
「来年は受験生だしな。将来のことを考えると、いい大学に行っておきたいから今から頑張るしかねぇんだよ」
「将来・・・か」
静がそう小さくつぶやくのが聞こえた。
「なんか悩んでんのか?」
「いや、別に。早く行かないと遅れるんじゃないの?」
静にせかされて、涼介は家を出た。
自転車に飛び乗って学校へ向かう。
数人の希望者と共に担任から与えられた課題をこなす。
もちろん、塩田も一緒だ。
1時間の勉強会が終わると、涼介は思いっきり背伸びをした。
「さすがに朝から勉強は疲れるね」
塩田にそういうと、「朝の方が集中しやすいからちょうどいいよ」と言って、まだ勉強をしている。
まさに秀才という感じだ。
「塩田くんは将来って何になりたいの?」
「僕は大学で研究をして、科学者として社会に役立ちたいと考えている」
「やっぱ塩田くんはすごいね。僕はそこまで考えられてないよ、社会に役立つとか」
「そんなことはない。どんな仕事も社会に必ず役立っている。むしろ、役立つからこそ仕事は成立するんだ。様々な仕事がある中で、僕は科学者という形で社会に貢献したいと思っているだけだ」
「そっか」
「君は君のやり方で大人になって社会に貢献していけばいい」
「そうだね」
“将来・・・か”
静がそうつぶやいていたのを思い出した。
このまま引きこもりでは、大学にいくのも困難であるし、将来やりたいこともできない。
折角の頭脳がもったいない。
まずはどうすればよいのだろうと考えていると、チャイムが鳴って1限目が始まった。
「ただいま~」
涼介は家に帰ると、カツオが「にゃーん」と出迎えにきてくれる。
「あれ?最近は静といつも一緒のくせにどうしたんだよ?」
カツオを抱き上げて家に入ると、庭に誰かがいる。
「静?」
静が真っ青な顔で外に出ている。
そして「あーもう無理」そう言いながら、リビング入ってきた。
「何してんの?」
「・・・別に」
「あっそ。まぁなんでもいいけどよ、今日は餃子にすっから包むの手伝え」
「え~・・・」
「え~じゃない!二人で作った方が早く食べられるだろ?」
そう言うと、渋々「わかったよ」と静は返事をした。
制服から着替えて、餃子のタネをつくると、静と一緒に餃子を包む。
「こうやんだよ」
餃子を包んでみせると、「すごーい!もう一回みたーい!」と静がわざとらしくはしゃいだ声をだす。
「・・・お前、包む個数減らすために言ってんだろ?」
「バレたか」
「いいから早く包め!」
2人で餃子を包んでいく。
「あのさ、静って将来何かしたいとかあんの?」
静は少し驚いた顔をして、すぐに「この状態じゃねぇ」と誤魔化すように言って笑った。
「もし外に出れるようになったとして、何かやりたいこととかないのかよ」
「そんなの・・・別に・・・」
「あるんだろ?」
「あったとしても、涼介には秘密」
「なんだよ、それ。ってか、お前その餃子なんだよ!」
上手く包めずに皮から肉がはみ出している。
「どうしてそうなる?」
「うるさい!文句言うなら包むのやめるから」
「もう少し量を減らして包め」
そう言うと、口をとがらせながら静は餃子を包んだ。
□■□
「あれ?新庄?」
学校帰りに校門で
「前はすまんな。脅すようなこと言って」
前にカフェでの態度を涼介が謝ると、新庄は「いや、こっちが悪いから」と頭を下げてきた。
「それで、俺に何か?」
涼介が尋ねると「静のことが気になって」と新庄は困ったような顔で言った。
「一緒に住んでるんでしょ?」
ハッキリとそう言われると、なんだか恥ずかしい気がしてくる。
他の人に聞かれるとまずいので、また近くのカフェで話を聞くことにした。
「で、静のことって、何が知りたいの?」
「元気なのかなって」
「あー元気だよ。もりもりメシ食べてるし」
「そっか・・・静、私のために引きこもってくれてるでしょう?もう片思いしてた彼のことはもう好きじゃないから、静に学校に来てほしいと話してるんだけど、わかったとだけ返事が来て、学校にきてくれないから・・・」
どうやら新庄には、外に出られなくなったことを話してはいないらしかった。
「なんか学校行くの面倒とか言ってたよ。別に元気ないとかじゃないから」
「それならいいんだけど・・・心配で」
「大丈夫。それに少なくとも君が原因ではないよ」
新庄はカフェラテの入ったコップを包み込み、ため息をついた。
「本当にバカなことをしたって思ってるの・・・」
「いいんだって、あいつがしたくてしたんだしな」
「でも・・・」
「それより俺も聞きたいことあるんだよ」
「聞きたいこと?」
「静が将来やりたいことって何かしらない?」
「将来の夢ってことですか?確か・・・」
その話を聞き終わると、涼介は絶対に静を外に出れるようにすると決意を固めた。
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