第11話
「それから勉強したよ。親父に頭下げて、家庭教師もつけてもらって」
今まで夜中に公園に出かけていたのを自室で机に向かう日々が続いた。
たまに
一度会いに行こうとしたら、健斗に結果を出してからだと追い返された。
それから数か月が経って、仲間から連絡が来た。
“健斗先輩が大けがをした”
あの時治療してくれたじいさんが病室の前に座っていた。
「おー、あの時の小僧か。あの時よりマシな顔になったな」
「お久しぶりです・・・」
涼介が頭を下げると、じいさんはうなだれたように下を向いた。
「命だけは助かったんじゃけど・・・」
病室の扉をがらりと開けると、ガラス張りの部屋にたくさんの管を繋がれている健斗が見えた。
「どうしてこんな…」
健斗はケンカも強いそう簡単にやられるはずもない。
「仲間に呼び出されたとかって家を出て…そこから先のことはわしもわからん
「仲間って誰ですか?」
「
「内添は大丈夫だったんですか?」
「いや…それがその場にいなかったらしい…相手方も全て捕まったと聞いたが」
「あいつ…!」
内添は最近涼介と入れ替わりで仲間に入ってきた。
見た目は優しげだが、狡猾で得体の知れない空気をまとっていた。
あいつが先輩を陥れたのかもしれない、涼介が病室から飛び出して行こうとすると、パシッとじいさんに腕を掴まれた。
「いかん」
「でも!」
じいさんの腕を掴む力が強い。
「あいつはお前さんが親父さんの会社を継ぐために頑張っているのを本当に応援していた。こんなことで無駄にしたらあいつが悲しむ」
「っ…」
健斗の笑顔が浮かぶ。
自分がどうすべきなのかはわかっていた。
そこから涼介はより一層勉強に励んだ。
□■□
「それでうちの高校に来たんだね」
「あぁ」
「あのさ、その…健斗さん?は今どうしてるの?」
「先輩は退院して、じいさんの診療所にいるよ。足に障害が残った上に、脳にもダメージを受けたらしくて…」
退院した健斗に会いに行ったが、窓辺の近くで車椅子に座りぼんやり外を眺めていた。
声をかけてもこちらを見ることすらなく、近くまで行って目を合わせてもどこか遠くを見ているようだった。
「辛いね…」
「だから俺は絶対に親父の会社を継ぐし、そのための努力は惜しまねぇ」
「その内添とかいう奴はどうなったの?」
「あいつは…あいつのことは知らねぇ」
涼介は吐き捨てるように言った。
翌日、涼介は学校へ向かった。
警戒しながら向かったが、特に何もなく過ごすことができた。
「じゃあまた明日」
「うん、また明日。風邪には気を付けたまえ」
塩田はそういうと、涼介に背を向けて歩き始めた。
涼介は顎で合図を送ると、男が出てきて涼介の方を見て頷くと塩田をつけていく。
昨日、後輩に頭を下げて塩田のボディーガードを依頼したのだ。
あまり昔のツテを使うのは気が引けたが、後輩は喜んで引き受けてくれた。
こんな時でも晩御飯は作らねばならない。
涼介はスーパーに寄って、買い出しを終えると家路に着いた。
「おかえりー」
「ただいま」
涼介はそういうと、キッチンに向かった。
今日はラクをしたくて焼きそばだ。
それでもキャベツやにんじんを切ったり、エビを用意したりとやることはある。
「美味しそう」
静は出来上がっていく焼きそばを見ながら、お腹を鳴らした。
「もうすぐ出来るから座ってろ」
涼介がそういうと、静は「はーい」とカツオを撫でながら素直に座った。
ダイニングテーブルに置かれたスマホが、ブブっと震える音がした。
嫌な予感だ。
涼介は焼きそばを作り終えると、皿に盛り付けてダイニングまで運んだ。
「美味しそう」
目玉焼きの乗ったボリュームのある焼きそばだ。
「いい匂い〜」
カツオも床で「にゃー」と食べたそうに鳴いている。
涼介はスマホを握ると、画面を見た。
嫌な予感は的中した。
“明日0時半にいつもの場所で。来なけりゃわかるよな”
□■□
涼介は翌日学校をサボった。
優等生を目指しているのに、2日もサボることになるとは最悪だ。
涼介は懐かしの診療所へ向かった。
「おー、小僧。元気か?」
あれから何年も経っているのに、じいさんの見た目は全くと言っていいほど変わってない。
「元気です」
「健斗はいつもの部屋だ」
そう言われて1番奥の部屋に行くと、健斗はぼんやり外を眺めている。
「健斗さん」
涼介の声に健斗は反応しない。
「健斗さんが応援してくれた夢は叶えたいんです。でもあいつをこのままにするのはやっぱり納得いかない…たとえ夢を捨てることになっても、あいつのことは…やっぱり許せない」
健斗の腕が少し動いた。
「…健斗さん?」
近づくと、小さな声が聞こえた。
(覚悟を決めるしかねぇな…)
涼介は深夜に家を抜け出した。
静は引きこもりだから気にする必要はない。
涼介の足音だけが響く。
公園には内添と仲間数人がたむろしている。
「よぅ、来てくれたか」
内添は「じゃあ行くぞ」とみんなを率いて歩き始めたが、涼介は足を止めた。
「俺は行けねぇ…」
「おいおい、今更何言ってんだよ」
「俺は真っ当に生きて会社を継ぐって決めてんだ。悪いが付き合えない」
「友達がどうなってもいいのか?」
涼介は、膝を降り、頭を下げた。
「おー土下座?そんなことで許されると思ってんの?」
「殴るなら殴って構わない。ただ友達には手を出さないで欲しい」
「そんなこと言われてもなぁ…」
そう言いながら、思いっきり涼介の腹を蹴り上げた。
腹に力を入れていたものの、痛みと衝撃で吐きそうになる。
「うっ…」
「あんなに強かったのになぁ〜」
涼介の髪を掴んで頭を持ち上げた。
内添は笑いながら、顔に蹴りを入れようとした瞬間―
「メーン!メーン!」
暗闇から謎の言葉が聞こえる。
内添の気がそれた瞬間に、涼介は体を離した。
だんだん謎の声の主が近づいてくる。
そして内添の仲間がバタバタ倒れている。
「な、なんだ…?」
そこには剣道着に防具をつけ、竹刀を振り回す男、いや女がいた。
「勝負だ!!」
女は竹刀で内添を指した。
その声は普段から聞いたことある声だった。
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