第4話
「おい!今日はリクエスト通り、お好み焼き作ってやったぞ」
いつものように静かにドアが開き、すーっとお皿が部屋の中に吸い込まれていく。
パタンと扉が閉まった。
今日は自室に戻らず、
「あのさ、食いながらでいいし、返事はなくていいんだけどさ。ちょっと話しねぇ?今家の中に俺とお前しかいねぇんだし」
静からの返事はない。
でも嫌ならドアに何かぶつけてきたりするはずなので、嫌ではないのだろう。
「お好み焼き、上手いだろ?ふわふわになるように工夫したんだ」
静から返事はないが、代わりにスマホが震えた。
“ふわふわ感が足りない”
「ったく、かわいくねぇ・・・。素直に美味しいとかありがとうとかねぇのかよ」
“感謝はしてる”
やけに素直なメッセージが来た。
「前から気になってたんだけど、部屋の中で何してんだ?」
“別に何も”
「ちょっとお前のこと学校で聞いたんだけど、学年一位なんて頭いいんだな。それだけ頭いいんだから、わかってるんだよな?このままずっと部屋にいるわけにはいかないってこと」
返事はない。
「まぁまだ俺ら17だし?そんなすぐ無理をしなくてもいいけどよ」
そこまで言うと、涼介は立ち上がった。
「ちゃんと綺麗に全部食えよ」そう言って、自室へ戻った。
この日から晩御飯を出した後に他愛のない話をするようになった。
□■□
「今日は肉じゃがだぞ」
いつものように肉じゃがの入った皿やご飯が乗ったトレーを置くと、スッと部屋の中に吸い込まれていく。
「どうだ?今日のは自信作だ」
スマホが震える。
“・・・まぁまぁ”
「絶対美味いって思っただろ?素直に言えよ」
“・・・まぁまぁ”
「お前引きこもりのくせに強気だよな」
“うるさい”
「本当にかわいくねぇ女。そんなに強気なら外にでも出られそうなのにな」
“うるさい”
「そういや明日は冷えるらしいから温かくしとけよ。風邪ひいても病院いけねぇんだろうからよ。じゃあな」
いつものように涼介が去ろうとすると、スマホが震えた。
“どうして世話してくれるの?”
「どうしてってそりゃ一応家族なんだから当たり前だろうが。妹?いや、姉?お前の誕生日知らないからな・・・まぁどっちでもいいけど、戸籍上は兄弟ってことだしな」
“7月14日”
「何の日だよ?」
“誕生日”
「お前の誕生日か。マジかよ、お前が姉貴じゃねーか」
“あんたの誕生日は?”
「2月14日だよ。ってかあんたって言うなよ、俺には涼介って名前があんだし」
“あんたもお前って言うじゃない”
「そ、それは確かにそうか・・・。じゃあ静って呼ぶから、俺のことも名前で呼べよ」
“涼介”
「そうそう、素直でよろしい。女の子はいつだって素直な方がかわいいよ」
涼介がふざけてそういうと、“素直じゃなくて悪かったわね”と怒った顔のスタンプが送られてきた。
「なぁ、静。これだけ話せるようになったんだ、部屋の外に出て話さねぇか?」
いくら待ってもスマホは震えない。
「・・・食い終わったら食器外に出しとけよ。あと洗濯物も袋置いとくからそこ入れて食器と一緒に出しといてくれ」
涼介は返事のないドアにそう声をかけると自室へ戻った。
□■□
「新庄さん、ちょっと」
放課後の校門で涼介は新庄を見つけると声をかけた。
「何よ。もう私は話すことなんてないわ」
新庄は涼介を避けるように急ぎ足で立ち去ろうとした。
涼介は、その腕をつかみ引き寄せると、人から見えないように、耳元に顔を近づけた
「言うこと聞けって言ってんのがわかんねぇの?」
ヤンキー時代のドスの利いた声を出すと、にっこりと笑った。
「さ、新庄さん行こうか?」
そして涼介はそのまま近くの公園へ連れて行った。
「カフェだと金かかるから、寒いけど公園で我慢してくれ。ってか、お前、コーヒー代払えよ」
「な、何なのよ!コーヒー代なら払うわよ」
「コーヒー代はもういいよ。前にも聞いたけど、お前、静に何したんだよ?何かしたから逃げたんだよな?」
眼光鋭く睨みつけると、新庄は目をそらして下を向いた。
「べ、別に・・・何も・・・」
小さな声でそう反論した瞬間、涼介はベンチにバン!と足を乗っけた。
「何て?聞こえないんだけど?」
涼介の目は完全にすわっている。
「もう1回聞くよ?君は静に何をしたのかな?」
涼介の目を見た新庄はどうしてこんな目に…という表情でふぅと息を吐いた。
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