第16話 五日目①

 昨夜探したところ、大通りを通っていけば大きな交差点ばかりで、三ツ辻は無かった。大通りに出るまでは、少し細かく角を曲がらなければならなかったが三ツ辻は避けられる。

 私は、多くの車が行き交う横を歩いて、私鉄駅に向かった。

 大学に行くには、私鉄から地下鉄に乗り換える。そして、地下鉄の駅を降りるとそのまま校舎の中に入れるので道路を歩く必要はなかった。

 ただ、大学敷地内はどこに三ツ辻があるか分からなかったので角を過ぎる時は、探り探り歩いた。

 昼に学食に行くと、窓際の席で深雪がテーブルに座って手を振っている。ほっとした。

 昨日、付き合ってもらったことにお礼を言ってランチを食べていると、母からショートメッセージが来た。


「事故で断水してるので、ペットボトルの水を買って来てください」

 読み上げると、深雪が「うわっ、大変だね」と言った。


 その後、研究室に戻った。仕事が終わり、何とか三ツ辻に出くわさないで済んだと思ったら帰り際にまずい事が起きた。

 先生から時間が空いているかと聞かれたので、空いていると答えてしまった。すると、資料を別の研究室に持って行くように頼まれたのだった。しかし、その室は大学敷地とは離れた別館にあり、入り組んだ細い路地を通って行かなければならなかった。学部の先生なので断れなくて、想定外の道を歩く事になってしまった。

 それで、建物の間の細い道を歩いていて、路地の入り口が出てきた。奥を見ると突き当りが三ツ辻になっていた。一瞬ドキッとしたが、その前を急いで走って通り抜けた。

 資料は無事に届ける事が出来たのだけれど、また帰りもその道を通らなければならなかったので、また三ツ辻を見ずに一気に通り抜けた。


 大学の敷地内に帰って来ると、直ぐに帰宅することにして、学生会館の地下から地下鉄の通路に入った。

 私鉄に乗り継ぎ、家の近くの駅に着いた。駅からぱらぱらと出てくる人々に紛れて、駅を出る頃はもう6時になっていた。もう夕焼けが始まっている。

 帰りも三ツ辻を避けて帰らなければならない。朝通った道を思い出していたら、コンビニが目に入った。お母さんから水を買って来てと頼まれていたんだったと、コンビニに入った。

 お店の中で、2リットルのペットボトルを探していると、仕事帰りらしい40代くらいの女の人が電話で話してるのが聞こえた。


「水道管が破裂したの。それで断水なの。困ったわね。それでお一人一本になってるのね、水が。えっ、破裂したのって駅の近くなの」


 なるほど、そういうことか。私は、一人一本のペットの水を買ってコンビニを出た。

 

 駅前の通りを歩いていると、横の道路の向こう側にバリケードが見えた。前方の交差点に入ってくる道が通行止めになっていた。

 あれが事故現場かと、そちらを見ながら歩いて交差点まで来ると、目の前を歩いてるスーツ姿の女の人がバリケードの方を見て、「あら、まぁ、たいへん」と声を出しながら急に立ち止まった。

 彼女は、私の直ぐ前を歩いていたので、私は避けきれず、彼女の肩に当たってしまった。

「ちょっと、あなた」と、彼女が振り返る。

 

「す、すいませ……」

 睨んでくる彼女を見て言葉を失った。

 彼女にではなく、彼女の背後が目に飛び込んできたのだ。

 





 

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