異世界召喚ラノベに否定的な俺が、召喚されたので逃げることを考える

ほんわか

第1話「勝手に召喚されたんだが、戦う気はねぇ」

「異世界召喚なんて都合のいい話が現実にあるわけねぇだろ」

俺、神崎勇斗はいつものように友人たちとくだらない話をしていた。大学の講義をサボってカフェでダラダラ過ごす、この日常が俺の生きがいだ。


「けどさ、勇斗。もし召喚されたらどうする?」

友人の中村が笑いながら言う。


「んなもん、即逃げるだろ。知らねぇ奴らのために戦うとか冗談じゃねぇ。俺に剣持たせたらまず自分で刺しちまうぞ」


俺の言葉に周囲が笑い出す。そんなラノベみたいな展開、実際に起きるわけがない。俺たちは現実の世界で生きているんだから。

──そう、あの日まではそう思っていた。



---


光の円陣


その夜、俺は帰り道を歩いていた。いつも通り、駅前のコンビニで缶コーヒーを買い、スマホをいじりながら家へ向かう途中だった。


しかし、突然足元が眩しい光に包まれた。


「な、なんだ……?」


気づいたときには俺の身体がふわりと浮き上がり、次の瞬間には全く知らない場所に立っていた。目の前には豪華な大広間が広がり、甲冑を身にまとった騎士や、派手な衣装の貴族らしき連中が俺を囲んでいた。


「おお! 異世界より来たりし勇者よ!」

玉座に座る年老いた国王が、俺に向かって叫ぶ。


「勇者……? いやいや、なんの話だよ?」

状況が全く飲み込めない。俺はただ缶コーヒーを手にして家に帰ろうとしていただけだ。


「そなたは、この世界を救うために選ばれた英雄である!」


国王の言葉に、俺は頭を抱えた。まさか、本当に召喚されたってことか? いや、そんな馬鹿な。現実にこんなことが起きるわけがない。だが、どうやらこれは夢でもなんでもなく、本当のことらしい。


「……無理」


俺はその一言を呟いた。



---


勇者の拒否


「戦え? 魔王を倒せ? ……勝手に召喚しておいて、そんなもん俺がやるわけねぇだろ!」

俺は国王を睨みつけた。


「しかし、そなたが戦わねば、この国は滅びるのだぞ!」

「知らねぇよ、そんなの。俺には関係ない話だろ!」


周囲の騎士たちがザワザワと動き出す。どうやら、俺の態度が気に入らないらしい。けど、そんなの知ったこっちゃない。


「おい、元の世界に帰してくれよ。俺、魔王とか興味ないんで」

「帰還はできぬ!」

「はぁ!?」


どうやら、召喚された以上、簡単には元の世界には戻れないらしい。ふざけんなよ。



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逃げるしかない


その日の夜、俺は城の部屋に案内された。豪華なベッドと調度品が揃った部屋だが、俺は全く落ち着かなかった。


「どうする……?」


頭の中は逃げることでいっぱいだ。だが、いきなり逃げ出して捕まったら終わりだ。ここで生き残るためには、計画が必要だ。


「まずは金だな。金がなきゃどうにもならねぇ」

俺は召喚された際に「剣聖」と「賢者」というチート級のスキルを手に入れていた。だが、それを公表すれば絶対に利用されるに決まっている。


「隠しながら、少しずつ準備して逃げる……それしかねぇ」


俺は覚悟を決めた。この異世界で自由になるため、徹底的に逃げる準備を整える。そうして始まった俺の「逃亡計画」の第一歩だった。

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