第5話 赤字から黒字へ
春人は、夢の中で再び「エネルギーバンク」に足を踏み入れていた。前回訪れたときと同じ、不思議な空間。目の前にはあの行員が立っており、少し微笑んでいた。
「お久しぶりですね、春人さん。最近のご様子はいかがですか?」
春人は少し照れながら答えた。「なんとか生活を見直して、少しは赤字を減らせた気がします。でも、まだ十分じゃないかもしれません。」
行員は頷き、言葉を続けた。「そうですね。確かに、あなたのバンクは少しずつ黒字に近づいています。でも、本当の黒字にするためには、もう一歩踏み込む必要があります。」
行員は、カウンターから一冊のノートのようなものを取り出した。
「エネルギーは有限ですから、何に使うかが最も重要なんです。ただなんとなくの消費では、どれだけ入金しても赤字になりますよ。」
ノートの中には、春人が過去に使ったエネルギーの記録が記されていた。
夜更かし、無駄な付き合い、無計画な時間の使い方……。
「これらが無駄な出金だったのか……。」
「でも、ここを見てください。」行員がノートの一部を指さす。そこには、ギターを弾いている時間、友人と心から笑い合った時間、散歩を楽しんだ時間などが記されていた。
「これらは、あなたにとって価値のあるエネルギーの使い方です。なぜなら、これらはあなた自身を豊かにしているからです。」
春人はハッとした。自分が本当に満たされる瞬間は、「必要だから」ではなく、「心から意味を感じるから」だったのだ。
行員はさらに続けた。「黒字に転じるための鍵は、エネルギーを『本当に意味のあること』に使うことです。そのためには、あなた自身の目標や、何を大切にしたいのかを見直す必要があります。」
春人は、自分の生活を振り返った。
「俺の目標……何だろう?」
改めて考えると、これまでの生活は周囲の期待やその場しのぎで動いてきたことが多かった。けれど、自分が本当にやりたいこと、価値を感じることは何だったのか。
ふと、彼の胸に浮かんだのは、ギターを弾いていた時間や、子どもの頃に憧れたアーティストの姿だった。
「そうだ……俺、本当にやりたかったのは音楽だったんだ。」
春人は、夢から覚めるとすぐにギターを手に取った。そして、自分のやりたいことにエネルギーを注ぐ生活を始めた。
夜更かしをする時間を減らし、早起きして練習する。SNSで過剰に時間を費やすのをやめ、その分を曲作りに充てる。
同時に、大学の課題やバイトも必要なエネルギーとして無駄なくこなす努力をした。
「無駄なことに使うエネルギーを減らせば、こんなにも余裕が生まれるんだな……。」
少しずつ生活が整い、春人の心と体には新たな活力が宿り始めた。そして、ある日行員の言葉が本当に実感として降りてきた。
「エネルギーバンクが黒字になると、自然と自分が望む未来を引き寄せる力が強くなります。」
春人のバンクがついに黒字に転じた瞬間、彼の生活にも変化が訪れた。ある日の大学のイベントで弾いたギターが思わぬ評価を受け、バンドへの誘いが舞い込んできたのだ。
「エネルギーを価値あることに使えば、こんなに世界が広がるんだな。」
春人は笑顔でギターを抱え、新たな一歩を踏み出していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます