ガーベラが紡ぐ言の葉は、あの人からの花言葉


ガーベラが近くで咲く図書館のベンチ。そこで読書をするのが好きな小6中学受験生・舞人。
今日も同じ場所へと向かうと、ベンチの下に何も書かれていない本を見つけ拾います。

その本が文字を浮かび上がらせて語りかけてくる奇妙な光景。
しかし、舞人はその言葉たちを集めるように本をポケットにしまいこみ家へと持って帰りますが、家ではそのような現象は起きません。

後日、再びいつものガーベラの見えるベンチに腰掛けるとまた語りかけられるのですが、その言葉は以前よりも舞人の心に近く次第に訴えかけていくのです。
舞人は思い悩み、困惑し、自分のやりたいことが、本心がわからなくなっていく。

語り部は本からガーベラへ……
その真意を感じ取るまでに時間を要しましたが、なるほどと腑に落ちました。
そうか、あの人が語りかけてくれていたのですね。

目の前のガーベラが春に咲かせる約束のように。
そして、それは今は亡きあの人の言葉のように。

父のストレートで現実的な冷たい言葉。
本を、花を介した誰かの温かい心の言葉。

対比されるように我々読者に訴えかけてくる描写は秀逸です。
その葛藤に打ち勝ち、自ら進むべき道を選ぶ舞人を、彼の成長を応援したくなる。
そんな読後感に花言葉と心の眼差しがハートフルな短編小説です。

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