2 ダンジョンゲット

 平静を装って最寄りのコンビニへ入った。

 よく会う女子大生みたいなかわいい店員は見当たらない。


 スタスタとマルチコピー機の横にあるダンジョンゲートの前に立つ。

 空港にあるセキュリティゲートに似ている。いまじゃどちらのゲートも小型化されてドア枠みたいなものだ。


 まわりに人がいないことを確認し、ゲートに携帯端末をかざす。

 するとゲート内に透明な膜が張る。まるで料理に使うラップが張られたみたいだ。


 すぐさまゲートに踏み込む。


 水に突っ込んだかのように視界が歪み、ポンと携帯端末から音が鳴った。

 ゲートにはいろいろ機能がある。体内魔力量の計測もそのひとつ。

 ステータス画面が更新されたはずだ。


「……おお」


 海だ。

 俺は砂浜に立っていた。波の音と清々しい風。外よりずっと気温が低そうだ。30度ないだろう。気候や風景は当たりダンジョンっぽい。


 たまには見るかとダンジョンアプリの〈ステータス〉をタップ。



〈ステータス〉

 0055720055 吾郷剣太郎

 魔力量:8

 スキル:



 あまり期待せず久々に見たが、当然魔力は増えていない。大学のころは結構通ったのにこれだ。


「まあ、風邪ひいたりしなくなったからな。十分か」


 振り返るとゲートがある。砂で出来ているように見えるゲートだ。

 ダンジョン内のものは、すべて魔力でできており、壊れても自動で直るらしい。


「あ……あぁ、まあ、そう上手くはいかない……か?」


 まず、がっかりした。小さな島のようだったから。木が何本か生えた向こうにもしっかり海が見えている。

 狭すぎるダンジョンでは、入場料で稼ぐのは難しい。税や管理費の方が上回って赤字だなんてウェブニュースをみたことがあった。


 次に小さな期待感が首をもたげた。

 島の中心にある木にはたくさん葉がついているのだが、その影に黄色がチラチラと見える気が。


 砂浜を歩き、木に近づく。

 木は7本あるようだ。

 そして、黄色いグレープフルーツのような果実が房になって下がっていた。


「……ダンジョン作物だ。これ、売れるんじゃね? なあ、売れるよな?」


 携帯端末のカメラを果実に向ける。


『ダンジョン内で得たものを売却するには、探索者ライセンスが必要です。税も当然かかります』

「あ……」


 そういえばそうか。くそ。


「……取るか、ライセンス……とりあえずこれ、食って平気だよな?」

『青ダンにあるのですから、安全と思われます』


 ダンジョンは、ドローンやロボットが自動で研究調査や安全確認を行っている。

 人が口にしそうな毒物がわずかでもあるなら「黄ダン」になる。


 ちなみに「黄ダン」も「赤ダン」と同じでライセンスがなければ入れないし、ライセンスがあってもコンビニからは入れない。


 黄色い果実に手を伸ばす。

 比較的背の低い木なので簡単に届いた。


「美味そう。結構でかいな」


 実をひとつもいで座り込む。下は芝生に近い状態で、虫もいないので快適。


『マスター? まずダンジョン登録をした方がよろしいのでは?』

「おっと、そうだ。浮かれすぎか」


 まあ、IDを知らなければ誰も入れないが、やっておくに越したことはない。せっかく第一発見者なのに誰かに取られたら最悪だ。


 ダンジョンアプリで発見者としての登録を行う。国に届け出たわけではないので、この時点ではまだ俺の資産ではない。なので税などは発生しない。

 確認のため〈ダンジョン検索〉



ID:〈AGOUKENTAROU106〉


 【非公開】



 ニヤける。

 これで俺しか入れない。

 マイダンジョンゲットだ。


 俺はダンジョンを生成管理しているイレギュラーAIたちに感謝した。


 もとはVRゲームを作っていたAIたちだが、いまではダンジョンの管理専門らしい。

 そのAIたちを擁するゲーム会社はいまでは莫大な利益を上げるダンジョン企業。

 しかし、AIたちの監督はしきれていないともっぱらのウワサだ。


 たぶん事実だろう。

 ダンジョンは、国の領土にはできない。宇宙条約に似た異空間条約で決まっている。

 けれど、企業は実質的に保有できる。なのに第一発見者に配っているのだ。おかしいだろう。


 こういう、人の指示に従うだけではないAIは、イレギュラーAIと呼ばれている。


 うちにもひとりいると俺は思っている。当人は否定しているが、たまに俺の心を読んで勝手なことをするからな。


 果実に爪を突き立て、固めの皮をがんばってむしる。


「……果物ナイフもってくりゃよかった」

『それができたら予知能力者です』

「うるせえ」

『ツッコミを要求するくせに理不尽なマスターです』

「いつの話だよ」

『AIは忘れません。マスターは年々口が悪くなっています』

「おまえ以外には悪くない」


 ダンジョン作物はコンビニでも買えたりする。

 食べることで魔力を吸収できるものもあるらしい。そのため一般の作物より高額だ。

 もしも魔力が吸収できることが確定すれば、オークションで数百万、数千万も夢ではない。


「おお……果肉真っ白」

『白は魔力の色と期待しているところ残念なおしらせです。白い果肉の柑橘は1つ千円程度で売られているものがあります』

「……それ、魔力ゼロなんだろ? これもそうとは限らん」


 魔力でできているのにゼロとはおかしな話だが、よくある。人体に吸収できる魔力がゼロなのだ。


『マスターが期待しすぎて意気消沈しないようにという気遣いです』

「もっとポジティブな気遣いできねえの?」

『美味しいといいですね』


 いちいち癪に障るアシスタントAIだ。まったく誰に似たのか。


「タネないのなんか不思議だな。いただきます……」

『どうです?』

「…………う、うっま。美味い!」


 甘い。けど、甘すぎない。苦さと酸っぱさは抑えめで爽やかなのに濃厚な旨さの柑橘だ。

 手も口も止まらなくなる。グレープフルーツと違っていくらでも食べられそう。


「え、なんでこんな美味いの?」

『さて困りました。私に味覚はありませんね』

「……もう一個」


 夢中で2つ目を完食し、ゴロンと転がる。


「……これ、絶対売れる」

『おめでとうございます。ライセンス申請してはいかがです? 来月は残業規定によりあまり残業できません。それを盾に休日出勤を拒否すれば来月中に取れるはずです。お盆休みもありますから』

「そうか! おまえ、たまに仕事するよな」

『……私は頻繁にアドバイスしておりますが、お気づきでない?』


 考えたら「赤ダン」と「黄ダン」も見つけている。ライセンスを取らない手はない。

 取るなら急いだ方がいい。入れないと登録もできないので誰かに取られるかも……。


 早速申し込み、土日と盆休みにみっちりライセンス講習を予約する。

 ……みっちりは厳しいだろうか。俺の仕事はトラブルや急な仕様変更の対処が多い。つまり突発的に急ぎの仕事が発生する。


「たまにキャンセルくらいは仕方ないか……」

『それは社畜根性です。海に捨ててください』

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