第13話 冒険者登録
放課後、ゼルぺダス教員に呼ばれ職員室へと足を運んだ。
なんだかオルニアス教員の視線が強い気がするが、おそらくは彼が密かに楽しんで作成している難問を俺が解いた、ないしは殆ど正解という段階まで導いたからではないだろうか。
優秀な魔法士であるはずなのに生徒の受けが悪い人物としてゲーム時に記憶している。
まあそんなことはどうでもいい。
本題は別で、ゼルぺダス教員の傍まで近寄り要件を伺う。
「私達は君が不正をしていなかったと結論付けました。疑って申し訳ない」
謝罪の言葉を述べるゼルぺダスの周囲で教員たちが慌てる。
不必要な部分にプライドを持ちださない。
内心をおくびにも出さず冷徹に思考を回転させ続けるのがこの男の恐ろしい部分。
(警戒されたか)
どうにも生徒を相手にする教員という雰囲気ではない。
視線の質を感じ取りながらその理由を思い浮かべる。出会ったのは再試験の場所が初めての筈。
(目に一瞬興味を持ったことが気付かれた? ジャブ一発ぐらいの数瞬だったが)
人類最高峰に迂闊な行動だったとは思ったが、やはりこのレベルはもう人間だと思わない方がよさそうだ。
「だから、再試験前に言ったようにお詫びの品を渡したいのですが。なにか希望はありますか?」
「はい。魔法全般に耐性のある軽装は可能でしょうか」
職員室内が一瞬静まり返った。
「す、すみません。もう一度いいですか?」
「はい。魔法全般に耐性のある軽装は可能でしょうか」
魔法に耐性のあるような装備は、基本的に古代の遺物から発掘されたアーティファクトか魔石――魔素が秘められた結晶体――を利用して付与したかの二通りだ。
前者は難易度鬼クラスの遺跡に赴かなければそもそも貴重なアーティファクトは存在しない。事前準備だけでもそれなりの費用と人材を算出する必要がある。
であれば後者なら容易なのかと問われれば、答えは否だ。
付与には成功確率が極端に低く、また失敗時には消費した物体が崩壊するという欠点が存在する。
どの位の確率か、王国内最高の技術レベルを誇る人間が同質量の剣100本に付与した結果、成功したのは53本。内、更に付与を重ねて成功したものは13本。3回目の付与に成功したのは1本。4回目の付与に辿り着いた物はなかった。
玄人でも4回以降の付与は1%を切る成功率しかない訳だ。
要は付与は失敗を考慮した素材を集めておく必要があり、莫大な金が必要になってくる。
魔法全般に耐性のある付与を作ろうとすれば、神が運を操作しようともしない限り財布の中身にはなにも残らない事は自明の理であった。
「・・・・・・それは私でも少々厳しい、ですね。全耐性ともなると国宝として管理されているものしかないでしょう」
そりゃそうだ、大抵の物は揃えられるといえど限度がある。
徐々に要望を下げていきいけそうなものを見極めることが狙いだ。
「そうですか、難しい、ですよね。では未来を見通すと言うアーティファクトは」
「残念ながら、それも私の権限では」
「禁書の閲覧許可を」
「・・・・・・すいません」
禁書の閲覧はワンチャン狙っていたんだが無理だったか。
「全耐性とはいきませんが、炎・水・風・土の四属性に対して耐性のあるグローブはあるのですが・・・・・・」
「えっ」
普通に貴族でも家宝にするレベルの代物だ。
魔法しか使わない以前のクリスだったら毛ほども興味の無いであろう代物だが、接近戦を仕掛ける俺にとっては十二分。今の成長初期であれば身の丈以上の効果を発揮してくれるだろう。
「そのグローブが欲しいです!」
「おや? 君は魔法しか使用しないと聞きましたが。ああ、従者か身近な者にということでしょうか」
「いえ、私は最近少しだけ体を動かすようになりまして。魔法に耐性のあるグローブがあればその助けになるかと考えただけです」
「ほう、以前はあまり知りませんが確かに体の軸はしっかりしている。いいでしょう、ではグローブを渡す事で今回の謝意とさせて下さい」
「はい」
物は王都の別邸に送るということで話はついた。
事が片付き職員室から直接校門へと帰る道で、なにやら学生が集まっているのを見かけた。
(あれは一体? ああ、テスト結果が張り出されたか)
不正を疑われる点数を出したのなら俺の総合点はかなり高かったと見て言いだろう。
今日は素晴らしい収穫があった日だったとほくそ笑みながら俺は学校を後にした。
背後の喧噪がなにを意味しているのか知りもせず。
1位 クリス・ローウェン 698点
2位 レオナ・フィッツジェラルド 644点
3位 エリオット・カーヴァー 610点
4位 ダミアン・ルブラン 602点
5位 ルナ・ロザリエ 596点
6位 カレン 590点
・・・
・・
・
「698・・・・・・」
王立学園に入学して以来、一度もその座を明け渡さなかったレオナは、ありえない点数を前に理解が拒み、しばらくの間ただ口の中で反芻していた。
◇
放課後、シルと副団長のマルスを連れ王都の街に繰り出している。
目的地は王都の冒険者ギルドだ。
父親から受けた課題を遂行しつつ、金策も望めるため冒険者登録をしに行こうということである。
いつか家をでるという意味でも、生活基盤の一つとして世界で通用するものを保持するというのは悪くなかった。現実世界でいう資格のようなものと考えていいだろう。
木造二階建て、立地的には貴族が住まう場所より少し離れた場所に建っている剣と盾の看板が目印のそこ。
中が見える背の低いうち開きの扉を押して中に入る。
周囲から一瞬視線が向けられるが、すぐに流れる。関わると面倒なタイプであると判断したのかもしれない。
(右手が受付で奥にバーがあるのか。未成年にはお勧めできそうもない世界だな。にしても見た目で舐めてかかってくる奴がいるかと思ったが)
その原因はやはり後ろの二人だろう。
歴戦の騎士に、荒れくれ者を見ても表情一つ動かさないメイド。
彼等の前を歩く人間は20にも届かぬ餓鬼。
交渉できる判断を持つような大人ならまだしも、権力を誇示するかのように連れ歩く俺から漂う地雷臭は相当なものだろう。
取り敢えず用事を済ませるためカウンターに向かう。
カウンターに立っているのは容姿が整っている女性の受付だった。
よく見れば受付には女性が多く、目を引くような人物が多い。男性の率が多い冒険者に対しての意欲向上でも狙っているのかもしれない。
「王都冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「冒険者登録をしに来た。後ろのメイドの分も頼みたい」
「承知いたしました。では登録料はお二方合わせて銀貨2枚となります。それと、こちらの用紙への記入をお願いいたします」
ちなみにマルスは既に登録しているということで再度手続きをする必要がない。騎士になる前は冒険者として日銭を稼いでいたらしい。
手渡された用紙には、使用武器、魔法適正などの戦闘に関するものの他、名前、出生、身を寄せている場所などの項目があった。
「戦闘に必要な項目以外の部分は書く必要があるのか?」
「ご記入は必須ではございません。ただ、万が一の際に遺品が見つかった場合、ご指定の宛先へお送りする形を取らせていただいております。そのため、未記入の場合は遺品がギルドの保有物となりますこと、あらかじめご了承くださいませ」
「ああ、成程」
ゲームの中では死んでもセーブ地点に戻るだけだったから必要がなかっただけで、現実だとこうなる訳か。
別に隠すようなことはない。
そのまま用紙に記入していく。名の欄――流石に家名は書かなかった――で一瞬受付嬢が口角をひくつかせたが直ぐに元に戻っていた。流石に俺も段々と慣れてきた。クリスにはデフォルトで周囲の人間をドン引きさせるパッシブスキルがあると考えればいいだけだ。
「クリス様は王立学園生でお間違いございませんでしょうか?」
「そうだが」
「ではランクの飛び級制度が適用されます」
「飛び級制度?」
「はい、主に実力者を早急に見合ったランクに昇格させるための制度になりますが、王立学園生は通常Gランクからの所を2段階上のEランクで登録することが可能となっております」
冒険者のランクはA~G、そしてその上にSがある全8段階。
最低ランクのGがこなせる依頼は星一のもので、ランクが上がるごとに受領が可能な星も一つずつ上がっていく。
この前殺したドップラーゴブリンが星三相当であるため、俺がEランクというのは妥当なものなのかもしない。逆にシルにとっては低すぎるだろう。
とはいえだ、正直ランクはどこでもいい。
冒険者に登録する最大の利点は万国共通の身分証明書になることと、魔物の解体・買い取りをやってくれることにある。依頼を受けずとも、討伐した魔物であればなんでもいいというのが大きい。
別に解体は自分でやっても問題ないが、その時間を別のことに当てるだけで色んな生物と接触ができるはずだ。幾らか手数料はひかれる事になるが本職に任せるのが最大効率だ。
「ただ、専攻している分野によっては戦闘経験が少なく不得手という方もいらっしゃいます。飛び級を辞退することも可能ですが、どういたしましょうか」
俺を知っているという事は、勿論俺がスライムに敗北した事も周知のはず。
ギルドとしては貴族が死ねば厄介ごとになるし、弁えて欲しいというのが本心か。
「Eランクで登録しておく」
「・・・・・・承知いたしました。では冒険者プレートを発行いたしますので少々お待ちください」
数分で出来上がったプレートを受け渡され、晴れて本日冒険者となった。
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