鬼退治の巫女は節分に鬼を祓いたい!

にゃべ♪

鬼退治の巫女

 瀬戸内海には大小様々な島があり、その中には不思議な伝説を持つ島も存在する。そう言う島のひとつ『角隠し島』には、昔から鬼が住む島と言われていた。島に向かって流れ星が落ちた日、島の神社で赤ん坊が発見される。誰が捨てたのか分からず、神社を管理する一族が育てる事になった。

 13年後、姫奈と名付けられたかつての捨て子はすくすくと育ち、元気な少女に成長する。島の子供達と楽しく遊ぶこの子の頭には、2本の小さな角が生えていた。


 その年の節分の日、闇夜に紛れて一人乗りの小さな舟が島に着く。乗っていたのは巫女装束の少女。彼女は舟を島の裏側の目立たない場所に隠し、こっそりと上陸する。


「まずは、情報が本当か確かめないと……」


 少女は、この島に鬼がいると言う情報を聞いてやってきた鬼退治の巫女。彼女は15歳で、この任務が初仕事だった。巫女衣装は目立つものの、これが組織の正装なので仕方がない。

 彼女は夜が明けるまで適当な場所で休憩し、日が昇ってからは本当に島に鬼がいるのか住人達に聞き込みを始める。


「あの~すみませ~ん。この島に鬼がいるって聞いたんですけど、何かご存知ですか?」

「はあ……? 知らんねえ」


 少女は出会う人全てに話しかけたものの、誰からもハッキリとした返事を聞く事が出来なかった。ほぼ全ての人が同じ返事をしたので逆に怪しさを感じ、彼女は島民達が鬼を庇っているのだと言う結論を出す。

 そして、それは正解だった。姫奈は角を隠さず、島民達からもその姿を認められていたのだ。不審な少女が鬼を探していると言う話はすぐに島中に伝わり、姫奈は一時的に家から出ないように言いつけられる。


 一通り島を巡って全く成果が得られなかった巫女少女は、自らの能力で鬼を探そうと誰も来ない場所を探し、そこで瞑想を始めた。

 鬼退治の巫女は、自力で鬼を見つけ出す力も身につけている。その感知能力によって、ついに彼女は島にいる鬼を感じ取る事が出来た。


「見つけた!」


 鬼を感知した少女はすぐに立ち上がる。そして、自分の直感が示す方角に歩いていった。



 その頃、どうしても外に出たかった姫奈は、育ての親に自分の気持ちを訴える。


「もう外に出てもいいでしょ?」

「う~ん。姫奈を探していた子も見なくなったみたいだしなあ……」

「じゃあ!」

「でもまだどこかにいるかもだし、何かおかしな事があったらすぐに大人の助けを求めるんだぞ。誰でもいいからな」


 こうして許可を得た彼女は念の為にと帽子を被らされ、ウキウキ気分で外に出る。そうして、一番仲良しな友達と一緒に遊んでいた。

 2人で海の景色を眺めていところに、ずんずんと瞳に炎を宿した巫女少女が強い足取りでやってくる。彼女は姫奈を見かけた途端、懐から何かを取り出した。


「鬼はァー! 外ォーッ!」


 掛け声と共に投げつけたのは、煎った大豆。そう、節分でお馴染みの鬼祓いの儀式だ。本当に効果があるかは別として、いや、それなりの訓練を受けた巫女が投げる大豆なら、本当に鬼退治の効果があるのだろう。


「痛っ!」

「あゆちゃん!」


 その念のこもった大豆は、姫奈ではなく、彼女の友達のあゆに当たる。彼女が姫奈の前に立って豆の攻撃を防いだのだ。

 初撃を邪魔された巫女少女は、目を吊り上げて叫ぶ。


「どけ! そいつは鬼だぞ!」

「姫奈ちゃんをいじめないで!」

「これはあたしの仕事なんだ!」

「絶対どかない。それより仲良くしようよ」


 あゆは巫女少女に向かって優しい笑顔を浮かべて手を差し出す。この慈愛に満ちた行動には、流石の鬼退治少女もうろたえた。

 純粋で真っ直ぐなあゆの目をまともに見られない。


「お、鬼をおいておくと穢れが広がるんだぞ。そうなったらこの島だって不幸が連鎖して……」

「何言ってんの? そんな訳ないでしょ。あなたが姫ちゃんを鬼だと言うなら、何でこの島は今までそうなっていないの? おかしいでしょ」


 あゆの正論に、巫女少女は言い返せない。彼女もまた上からの司令で島に来ただけなのだ。付け焼き刃の理由では現実に勝つ事は出来ない。

 それでも命令は絶対だと教えられているために、巫女少女は意見を変えなかった。


「邪魔するなら実力行使だ!」

「あなたも鬼じゃない! まだ気付かないの!」

「は? 何を……」


 あゆの突然の告白に、巫女少女はピタリと動きが止まる。動揺する彼女に向かって、あゆはこの島の秘密を話し始めた。


「この島は島民全員が鬼の鬼の島なの。だから島の周りには鬼しか入れない結界が敷かれていて、だからずっと守られてきてるんだって」

「嘘、だろ……。じゃあ、お前も鬼なのか……」

「そうだよ」


 あゆは巫女少女に向かって頭を下げ、自分の頭にある角を見せる。つむじのある場所に小さな可愛らしい角を見つけて、巫女少女の目は大きくなった。


「島民全員が鬼……そんなの聞いてない。じゃあお前らも祓ってやる」

「やめときなさい」


 巫女少女がパニックになった時、この島の宮司の男性、姫奈の義理の父親が話に割って入る。そうして、目の前の少女にこの島のもうひとつの秘密を話し始めた。

 そう、巫女装束の彼女もまた鬼だと言う事の説明を。


「この島にも外から人間が来る時はある。この国の中にある以上、当然だ。けどな、鬼以外が入る時は島民の許可がないといけない。島の結界は鬼以外では解けないからだ」

「そ、それって……」

「君はどうやってこの島に来た? 来る時に島民の誰かの許可を得たか?」


 宮司の目が鋭く光る。巫女少女は一人でこの島に侵入した。それはつまり結界が働かなかったと言う事。それが出来たと言う事が彼女が鬼だと言う証明なのだ。

 この衝撃の事実にショックを受けた巫女少女は、ガクリと膝から崩れ落ちる。


「あたしも鬼だったのか……」


 彼女が事実を受け入れた瞬間、封印された記憶が解き放たれた。その中で、10年前に政府組織に壊滅された山の鬼の里のメージが流れ込んでくる。この時に捉えられた鬼の少女が政府の裏組織に引き取られ、洗脳教育を受けてきていたのだ。


「あたしは……同族を倒すために……。騙されていたのか……」

「鬼を倒すには鬼か。政府もエグい事を考えるな」


 今生き残っている鬼の集落はみんなしっかり人間対策をしていて、容易には潰されない仕組みを作っている。巫女少女の故郷の山の里は地震で結界が壊れて人の特殊部隊に滅ぼされ、住民の鬼達は他の鬼の里を潰すのに利用されてしまったようだ。


「君さえ良ければ、この島で暮らさないか。丁度巫女が欲しかったところなんだ」

「あたし、ここにいていいんですか?」

「ああ、記憶が戻った以上、組織には戻れないだろう。君、名前は?」

「あたしは……」


 こうして島を襲った巫女少女は姫奈と一緒に宮司に家に住み着き、それからは島のみんなと仲良く暮らしましたとさ。



(おしまい)

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