黒赤色の薔薇
とろり。
1話完結 黒赤色の薔薇
「あ~あ、振られちゃった」
先ほど3年付き合った彼と別れる事になった。互いの幸せを願って別々の道を歩もう、と。聞こえは良いが私は納得ができずにいた。
駅前のコンビニで夕食を買い、家まで近道をしようと路地に入った。月明かりの届かないような場所にSALEの文字。売られていたのは薔薇だった。こんな陰で売ろうとしても売れないだろうに……。が、私は少し興味本位でそれを覗いてみた。
「お客さん、この薔薇は夢が叶う薔薇です。この薔薇は不思議な薔薇です。そしてこれは一本しかありません。どうでしょう、一本100円です」
一本100円と聞いて躊躇したが、夢が叶う薔薇と聞いて「100円なら……」と財布に手を伸ばした。
「例えば、彼氏とよりを戻すのもできますし、望めば結婚も可能です。不可能なことはありません。ただ……」
その男は人差し指を立てると私に一つ注意点を教えるのであった。
「ただ……。お客さんの夢が叶った時、ほんの少しお礼をいただきます」
「……あなたに、ですか?」
「いいえ、この薔薇が、です」
「……この薔薇、が?」
「ええ、まあ、嫌であれば買う必要はありません」
「……」
少し頭の中で思考した。3年は女にとって長い。元カレとよりを戻すのができるのであれば願いたい。しかしそれが叶う保証はない。証明ができないからだ。だが……
「保証は……? 保証はありますか?」
「保証ですか? ありません。ですが使えばその効果を必ず実感できます。100円です。高いと見るか安いと見るか、お客さん次第です」
「……か、買います」
私は財布から100円玉を一枚その男に渡すと、男はニヤリと笑って「ありがとうございました」と頭を下げた。
その夜、薔薇を花瓶に生け元カレとよりを戻すようお願いをした。
するとスマホの着信音が鳴った。
「あ、もしもし
まさか、だった。お願いをして1分後には元カレからの電話。予想以上の効果に私は驚きを隠せなかった。
その流れで結婚についてもこの薔薇に願うことにした。すると、
「あ、それと俺は
まさかの連続だった。あの男の人には感謝しかない。私は彼氏との幸せな会話を終えるとベッドに横になり目を閉じた。
「明日、お礼をしにいこう」
そして私は眠りに落ちた。
あの路地に男はいなかった。私は仕方なく帰宅しようとすると今日が大安吉日の一粒万倍日だと宝くじのノボリで気付いた。
「買っても当たらないんだよなー……」
私は宝くじ売り場をうろうろしていると、あの薔薇のことを思い出した。
「お願いすれば叶うかな……?」
結局、スクラッチを1枚買って大事に仕舞った。
家に帰ると薔薇に一等当選を願う。そして財布から10円玉を取り出し削り始めた。
「えっと、このマークが3つ揃えば良いのよね」
一つ、二つと揃い最後の一つ。
「あ~、なんか緊張してきた!」
ゆっくりと少しずつ削り……
「え? え? ええええええええええぇぇぇぇっっ!? 当たってるぅーーー!?」
一等5000万円のスクラッチカードを宝くじ売り場に持って行き早速換金することにした。
幸運が続き少し怖くなってきていた。時折あの「お礼」とは何だろうか、と頭をよぎる。しかしこれで彼との幸せな生活が待っていると私は期待していた。
鏡を見ると少し老けているような気がした……。
あれから3年。彼は私の貯金を持ち逃げし他の女と蒸発した。そして今、私はビルの屋上にいる。
「お客さん、その黒赤色の薔薇はあなたによくお似合いですよ」
不気味な笑い声が夜の街に聞こえる……。
Fin
黒赤色の薔薇 とろり。 @towanosakura
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