第4話 認める勇気
夕暮れの中、ユウキは祖母サキと縁側に座っていた。日が沈むにつれて赤く染まる空を眺めながら、二人は静かにお茶を飲んでいた。ユウキは言葉を発することができずにいたが、サキの穏やかな表情に背中を押されるように、ぽつりと口を開いた。
「俺、ダメなんだと思う。仕事も続けられなくて、周りにも迷惑ばかりかけて…。なんでこんな自分になっちゃったのか、分からない。」
その言葉を聞いても、サキは驚くことなく頷きながら、湯飲みを置いた。
「ユウキ、それはダメなんじゃない。人間として、ちゃんと疲れてるだけさ。」
「疲れてる…だけ?」
サキは縁側に腰を深く下ろし、空を見上げるように目を細めた。
「人はね、頑張ることが好きだよ。特に若い頃は自分の力を試したくなる。でも、頑張りすぎている自分に気づかないことが多いんだ。そして、気づいたときには身体も心も動かなくなっている。それを責めたくなる気持ちも分かるよ。でも、それで自分を追い詰めるのは、雨の中でさらに濡れにいくようなものさ。」
ユウキはその言葉に少し眉をひそめた。
「でも、自分の弱さを認めるって…怖いんだよ。認めたら、本当にダメなやつみたいな気がして。」
サキはしばらく黙ったまま、そばに置いてあった小さな木箱を手に取った。箱の中には色とりどりの石が入っていた。そのうちの一つ、小さな透明な石を手に取り、ユウキに渡した。
「この石を見てごらん。何が見える?」
ユウキは石を手に取り、光にかざした。石の中には小さな傷のような線が走っていたが、光を通すとその線が虹色に輝いて見えた。
「…これ、傷があるけど、光が当たると綺麗に見える。」
サキは優しく微笑んだ。
「そうだよ、ユウキ。人間の弱さって、この石の傷と同じなんだ。傷がなければ光はこんなふうに輝かない。自分の弱さを認めるということは、その傷に光を当てることなんだよ。」
ユウキはその言葉にしばらく考え込んだ。そして、サキの静かな声が再び響いた。
「弱さを認める勇気があれば、次に進める力も湧いてくる。それは自分を諦めることじゃなくて、自分に優しくなることさ。人はね、誰だって一人じゃない。だからこそ、自分の内側にある弱さを誰かに見せることで、本当の意味で強くなれるんだ。」
その言葉に、ユウキは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。今まで必死で隠してきたものを、初めて誰かに受け入れてもらえたような気がした。
翌朝、ユウキは川沿いを歩きながら、サキの言葉を反芻していた。自分の弱さを受け入れるとはどういうことか、まだ完全には分からない。それでも、どこかで小さな希望が芽生えたのを感じていた。
「自分の中にある傷も、きっと光を当てれば輝くんだよな…。」
川面に映る自分の姿を見つめながら、ユウキはそっと呟いた。傷ついた心を隠すのではなく、向き合う。その一歩を踏み出そうと、彼は初めて自分に誓ったのだった。
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