第13話
「ふわぁああああああああ……!!」
きっと今のわたしの瞳は、どんな宝石よりも輝いているのだろう。わたしは目の前の人物に尊敬のまなざしを送る。何を隠そう、わたしの前には彼の最恐の魔王、パパを討ち、そして神々にまで立ち向かった名実ともに世界最強である勇者イズミの姿があるのだった。
「ゆ、勇者さま!! わたしっ、あなたに憧れていてっ!! 決して芯を曲げない心強さとか、普段は飄々としているのに困っている人を見たら放っておけないところとか、なによりめちゃくちゃ強いところも、全部尊敬しています!! 冒険譚も全部読んだし、高じて日本にまで来てしまいましたっ!! わたしの人生で一番つらかった時期も、勇者さまの冒険譚を読んで勇気をもらったんです。勇者さまにしたらそんなの知らない、関係のないことなのかもしれないけど、わたしはあなたに救われたんです!! そ、その、だから、え、えーっと、わたしは勇者さまが大好きですっ!! ずっと応援してます!!」
突然のことすぎて、うまく言葉にできない。いつか勇者に会うことが出来たらとずっと妄想していたのに、いざその場になると口が回らなくなってしまう。今この瞬間だけはわたしの口が恨めしい。
しかし勇者はそんなわたしに向けて、にこっと笑いかけ、
「嬉しい。私をこんなにも熱烈に支持してくれているだなんて。私こそ、ありがとう。私も君に応援されていると思えるから、こんなにも力が湧いてくるんだよ」
真正面に瞳を見据えながらそう言われ、わたしは照れと嬉しさでどうにかなってしまいそうだった。
「……そ、そんな……!!」
「それに私も、アリスが好き。大好き」
「――へぅ!?」
……ゆ、ゆ、ゆ、勇者が、わたしのことをす、す、す、好き!?!?
「そ、それって……!?」
「大好き超好き食べてしまいたいくらいに好き」
「た、たべてしまいたいくらい……!?」
憧れの人にそんなことを言われて頬がわたし史上一熱くなる。血が沸騰してしまいそうだ。
い、いきなりそんなこと言われても、心の準備が……!!
……ってん? あれ、なんだこの違和感は。
「あ、あの、つかぬことを伺いますが……」
「なに」
「わたし、勇者さまにアリスって名乗りましたっけ……?」
「名乗っていないけれど、それくらいわかる」
……なんで?
「だって、私、――勇者だし」
「……ぅえ?」
瞬間、あたりの空間がぐにゃりと歪む。同時に、黒い瘴気がわたしと勇者を中心に漂い始めた。
「ゆ、ゆうしゃさま……?」
わたしは少し怖くなってしまってすがるように勇者の顔を見る。すると、なぜ今まで気づかなかったのだろう。勇者の顔は、どこかで見たことのあるものだった。
黒いしなやかな髪を肩口に切りそろえられており、アーモンドのように切れ長な瞳。長いまつげ、小さな口、毛穴一つない白い肌の整った顔立ち。その無表情さも相まって精巧な人形のような印象を受ける少女。
「って葵!?!?」
「さあ、アリス。こっちに来て。私と一緒に、永遠に愛し合おう」
瞬間、葵はわたしを捕獲せんとばかりに両手をがばっと広げ、わたしに向かってせまってきた。
「う、うわぁあああああああああああっ!!!!」
刹那、わたしの全身に悪寒が走り本能がわたしの体を動かした。つまり全力で回れ右をして葵から逃げ出したのだ。
地面をこれでもかと強く蹴り、わたしは必死に足を回転させ続ける。捕まったらなにをされるかわからない。そんな凄みを葵から感じたのだ。
「ぶへぅ!?」
その時、なにものかにわたしの足が引っ張られ、顔面から転んでしまう。
「ひぃっ!!」
その何者かを見て、わたしは小さく悲鳴を上げてしまう。痛い、だなんて思う暇すらなかった。
「……ぁあああ、ぁあっぁ、ありすにゃーーん、……つぅーかまぇたぁー」
なんとそこにはアニマルパンツを頭に被り、鎖でぐるぐる巻きにされた男が地面に這いつくばっていた。鎖から右手だけを出して、わたしの足を掴み不気味に笑っていたのだ。
「な、なに!? は、はなして……!!」
わたしは半泣きになりながら足をぶんぶんと振るが、男は一向に放してくれない。
そんなことをしているうちに、葵がわたしに追いついてきた。
「アリス。なんで逃げるの。私、傷ついた」
足を掴まれ、女の子座りで地面にへばりついているわたし。葵はそんなわたしに対して腰を折ってかがみこみ、わたしの頬をつんつんとつつく。
「ぃ、いや……!! やめ……!! もぅ、ゆるしてぇ……」
「だめ、アリスはもう私のモノ。許してなんてあげない」
そう言うと、葵はわたしを押し倒してお腹のうえに馬乗りになる。
「なにを、するき……?」
「ふふっ」
葵はぺろっと舌舐めずりをする。瞬間、葵はあろうことか両手でわたしの胸を揉みしだき始めた。
「ひゃう……!?」
「……小さいのに柔らかい。発展途上、いい感触」
「……な、なにを言って――ひぅ!?」
「……可愛い。アリス、好き」
そうして頬を紅潮させた葵は、わたしに顔を近づけてくる。
「キス、するね」
耳元で葵が囁く。元来、耳が弱いわたしは葵のその囁きに体をびくっと痙攣させてしまう。心臓がドクドクとうるさい。
葵はわたしの服をめくると、お腹やら太ももを彼女の細く長い、しなやかな指で厭らしく舐めるように、ゆっくりと撫でてくる。葵の指が肌に這う度に、わたしの体はびくっ、びくっ、と小さく痙攣を繰り返す。
「……んぁ、んんっ」
普段はひんやりと冷たい葵の手も、今はとてつもなく熱くて。
わたしは必死に顔を逸らそうとするが、葵の両手が頬に添えられ固定されてしまった。至近距離に葵の顔がある。その顔はやはり白く透き通るようで、こんな状況でもふと、ああ、綺麗だな、なんて思ってしまうほどだ。
「目、とろんとしてる。期待してるの?」
頭がぼーっとする。葵が何か言っているが、もはやわたしの耳には一言たりとも届かない。やがて、葵の顔が、ゆっくりと降下を始めた。熱い吐息がわたしの唇にかかる。もう抵抗の余地は残っていない。
最後にわたしは、思わずきゅっと目をつむると――
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