第2話 魔獣使い

私は、フェンリルをつれて街を歩く。

フェンリルは、私が町へ行こうとしたら何も言わずについてきた。

昨日転生した時に流れてきた記憶によると、どうやら元の体の持ち主は、盗みをはたらくとき以外はフェンリルといつも一緒に行動していたらしい。

それにしてもこのフェンリル、どこかで見たことがある気がするんだよね。

どこだろうか?

私はしばらくの間考えたが、わからなかった。

すると、そこへ道の反対側から不思議な白いシルクハットをかぶった男の人が歩いてくる。あの人も、どこかで見たような_?どこだろうか?

――ああ!ゲームだ!

そこで私はここが死ぬ直前に前世でプレイしていたゲームの世界だということに気が付いた。それで、先ほど通り過ぎた男はⅡでのラスボスのノアだ。それで、このフェンリルはⅠでのラスボスの魔王の娘、フェリアのフェンリルだ。

今のフェンリルのサイズとはかなりサイズが違うから今まで気が付かなかった。

確かⅠで登場した時は人間を縦に5人並べた分くらいのかなりの巨体だったはずだ。

今の子猫のようなサイズ感からはかなり程遠い。

気が付かなかったのも無理はない気がする。

というか、だとしたらフェリアはどこにいるのだろう?

このあとこのフェンリルはどうやってフェリアの元に行きつくのだろうか?

しばらくの間、そんなことを考えていると急に声が聞こえてきた。

「おい、嬢ちゃん。」

誰かが私に声をかけてきたらしい。

私は振り返る。

すると、そこには40代後半くらいの年に見えるおじさんが立っていた。

「なんですか_?」

やや警戒しながら私はそう聞く。

「あ、怪しいもんじゃないからそんなに警戒しないでくれ。そのフェンリルも。」

少し怯えた様子でその男はそう言った。

「フェンリル?」

足元を見ると、子猫くらいのサイズだったフェンリルが中型犬くらいのサイズに見えるくらいまでぶわあっと毛を逆立てて警戒している。今にもうなり声が聞こえそうなほどだ。

私はフェンリルに、

「大丈夫だから。」

と、一応言った。

すると、フェンリルは本当にこいつは信用しても大丈夫なのか?というような疑いを持った目でこちらを見てくる。

「たぶん大丈夫だよ。」

そう言って私はフェンリルの頭を撫でた。

フェンリルは仕方がないな、と言った様子でふんっと鼻を可愛らしくならした。

徐々に逆立っていた毛が元に戻っていく。

「なあ、あんた魔獣使いの仕事に興味があったりしないかい?」

「魔獣使い_?」

「ああ、あんたのフェンリル、すごく強そうじゃないか。」

私はフェンリルの方をちらり、と見た。

このフェンリルは強いのだろうか?

フェンリルはじっと静かな瞳でこちらを見つめていた。

「具体的にはどんな仕事ですか_?」

普通に聞いたことがない。

ただ、異世界にはそういうものがあるとどこかで聞いたことがあるような気もする。

このゲームの世界にもそんな職業が存在するのだろうか?

「闘技場で魔獣を戦わせる仕事だ。」

「魔獣を_?」

「ああ、あんたはそのフェンリルを使って他の魔獣と戦わせるんだ。報酬は勝ったら多いが負けたら少ない。どうだ?」

このフェンリルは、強いのだろうか?

強いのであれば、いい仕事ではあるのかもしれない。

しかし、魔獣同士を戦わせるなんてこの異世界はどうなっているんだろうか?

どうしてそんなことをしなければならないのだろうか?

私は別に楽してお金を得たいわけではない。

自分の力でまっとうな方法で生きていきたいだけなのだ。

「しかし、この仕事についてくれなかったら嬢ちゃんを殺さないといけないんだがどうする?」

その男は私の耳元でそうささやいた。

うそでしょ?

何で脅迫されてんの?

でも私の今の体はかなりがりがりで筋肉がないみたいなんだよね。

どうがんばってもこのふくよかで私よりも筋肉のついているおじさんには勝てなさそうだ。背でもう負けてるし。

「どうしてですか?」

私はそう聞いてみた。

どうしてこのフェンリルを戦わせないとこのおじさんに殺されてしまうのか、それが気になったのだ。

だって、フェンリルを私が戦わせたくない、と言ったところでこのおじさんが私を殺したら私の死体の始末などがきっと面倒くさいだろうから。どうしてそこまでして私のことを殺そうとするのかわからなかった。

「そりゃ、嬢ちゃんを殺してそのフェンリルを従わせたいからさ。嬢ちゃんが生きていたら、このフェンリルを取り戻そうと余計なことをするかもしれないだろう?」

なるほど、つまりこの男は私の隣にいるフェンリルをどうしても手に入れたいらしい。だからこんなことを言うのか。しかし、フェンリルを戦わせなかったら殺す、ということを教えてくれるだけまだ優しいのかもしれない。

「じゃあ、わかりました。やります。」

私はそう言った。

私だって死にたくはないのだ。

前世では死んで異世界に転生したばかりなのにもう殺されるとか、絶対に嫌なのだ。

それに、このフェンリルは強いらしいし怪我をさせるような相手とは戦わせずに辞退させればいいだろう。

「おお、それは良かった。」

そのおじさんは微笑んでそう言った。

すると、私の隣にいたフェンリルが急に人型に変身してこう言った。

「おい、報酬はいくらなんだ?めしは食えるのか?」

おじさんは驚いたような顔をして、

「こりゃ驚いた、フェンリルの中でも変身ができるのはかなり希少種だ。」

と言った。

どうやらこのフェンリルはかなりめずらしいらしい。

「で、報酬だっけ?それはその時によって違うから何とも言えないな。だが、平均は一日1000リン~3000リンだな。飯はフェンリルの方の分は必ずあるが飼い主である嬢ちゃんの分は報酬の中でなんとかしてくれ。」

おじさんはそう言った。

先ほど市場のある道をあるいていて分かったことだが、1リンは10円ほどだ。

ということは、一日一万円ほど稼げるということか。

まあ悪くはないかな。

「飯が食えるならなんでもいい。」

フェンリルはそう言ってこちらを見た。

どうやら、この職業に就くことを了承してくれたらしい。

「そうかい!なら決まりだね。とりあえずここじゃなんだから、室内に入って詳しいことを話そうか。」

そう言うとおじさんは私を近くにあった闘技場の内部へ私を案内した。

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魔獣使いとその日暮らし 藍無 @270

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