怪獣乱舞 死に戻りハンターの英雄譚
テマキズシ
第1話 始まりの狼煙
皆に認められるようなかっこいい人間になりたい!
多くの人が一度はこの思いを持ったが、現実にやられ、その夢は消えたことだろう。
そもそもかっこいい人間とはどんな人間なのだろうか?
この物語は、前世で何も成せなかった一人の男が、死に続けながら絶望に抗い、かっこいい人間になろうと突き進む物語だ。
俺の名前はアラード。目が覚めると赤ん坊になり、特殊な能力を持ちゲームの世界にいた。
なろう小説によくある状態になってしまった男だ。
それだけならチートで無双できるなんてサイコーなんて思うだろう。
しかしこの世界はそんなに甘くない。
俺がいる世界の名前は怪獣乱舞。
文字通り山程怪獣がいる世界で怪獣たちを狩り続けるゲームだ。
俺が生まれたこの田舎の小さい村で、偶然モンスターを見たことでこの世界が怪獣乱舞なことが分かった。
…正直に言うと俺は絶望してしまった。
この世界はあまりにもモンスターが強すぎるのだ。
確かにモンスターを倒すハンターといった存在も居るには居るが、需要が追いついていない。
だから俺が生まれたような100人も居ない貧乏村はボンボン滅んでいく。
俺はこのゲームをやり込んでいたから知識はあったが運動能力は普通の村人だ。
魔力と呼ばれるものも存在するが、こんな小さな村じゃ調べる方法がないので、俺の体にあるのかどうかも分からない。
というかそもそも転生したのにチート能力なんて無い。何処にでも居る一般人A。それが俺だ。
そんなんじゃ怪獣どもには勝てはしない。
特に竜や龍はやばい。ブレスでどんなものも焼き払えるし、中には星を滅ぼすとか言うやばい奴もいるのだ。
人生にあきらめてこの場で自殺しようかと悩んだ時すらあった。
だが多くの人の支えがあって俺はある決意をした。
俺はハンターになり多くの人を助ける。それがこの村で決意した夢だ。
そのために俺は村を守る元ハンターのボコさんに剣を教わっていた。
俺には才能は無いと言われたが、それでもボコさんは俺の為に時間を作ってくれた。
両親や村の人もその事を受け入れてくれた。
こんな優しい人達を守れるようなハンターになってみせる!
そんな感じで充実した日々を過ごしていてとうとう15歳。
俺を含む数人の15歳の成人式を祝うため、村の仲間たちが祭りの準備をしていた。
この村は成人式の時、異様に度数の高い酒を飲む。
何でもこの村原産の酒で、村の主な収入になるほど売れているらしい。
そして最悪なことに、村人達は全員酒豪で悪酔いすることはないが、善意で酒を勧めてくるタイプだ。
死ぬほど飲まされるぞと、少し鬱々しながら成人式の会場からかなり離れたところにある家で、他の成人を迎える子供達と宴の準備が終わるまで待っていた。
他の子供達はワクワクしながら成人式を待っていた。
どうせあの人達の事だから宴の前に酒をしこたま飲んでいるんだろう。
俺が村人達の酔っ払っている様子を考え、ため息をついていると突然、村の中から悲鳴のような甲高い音が聞こえた。
「なんだ?」
この建物から村人がいる宴会場は遠い。 気の所為だとは思ったが、他の子供達も音に気付いたらしい。
もしかしたら何か事故でもあったのかもしれない。
成人式に出る友達数人と一緒に家の外に出る。
『酒飲みすぎて転んじゃったのかな?』
なんて安直考えをしながらドアを開ける。
ドアの目の前には、ラースという人間程の大きさの鳥脚類モンスターが3匹程歩いていた。
赤の毛皮に少し血が付着している。
既に村の仲間が襲われたのだろう。クルクルと音を鳴らし、こちらを見てくる。
「は…?」
あり得ない。思考が止まる。
逃げるや戦うなど様々な考えが頭から浮かび上がるが行動に移せない。
その間に奴らは一斉に飛びかかり襲いかかってきた!
咄嗟のことで反応できず、俺は鋭い足の爪で腹部を切り裂かれる。
「ぐあぁぁぁぁぁ!」
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!
体がジワジワと食べられていく。爪で引き裂かれ牙で体を噛まれる。
嘘だろ……。俺はこんなところで死ぬのか…? 前世と同じ、何も成せずこんなところで…。
「……や……て…」
そしてそのまま、馬乗りにされ体を貪り食われ、俺は死んでいった…。
気が付くと目の前に3匹のラースがいた。
「えっ…は?! えっ?!」
自分の視界が信じられない。
俺はさっき間違いなく死んだはずだ。いったい何が起こっている?!
咄嗟に自分の体が本当に無事なのか確認する。だがそんなことお構い無しにラース達は俺に飛びかかってきた。
パニックになっていたせいで判断が追いつかない俺は、また体を引き裂かれ3匹に食べられ、死んだ。
と思ったらまた目が覚めると目の前に3匹のラースがいた。
まだ現状が咀嚼できていないが、このままじゃ自分が殺されるのはすぐに分かった。
悲鳴を押しこらえ武器を探す。
こいつ等は普通の人間よりも速い。
怪物のように強いハンターたちならまだしも俺はただの村人。
そもそも人間サイズしかないラースでも低レベルのハンターぐらいなら食い殺されるケースも存在する程、この世界は人間が嫌いなのだ。
だが俺はこのモンスターの弱点を知っている。とっさに近くにある松明を真ん中にいるラースの腹に投げつける。
ちょうど三匹とも飛びかかろうとしていたので松明が直撃し、玉突き事故の様に三匹がふっ飛ばされる。
こいつらは飛びかかる間、一種の無防備状態にある。そしてこいつらの毛皮は燃えやすい。
そのため炎には強い恐怖を持っている。
飛びかかろうとした際に炎攻撃を当てると空中でジタバタ暴れて周りの敵も巻き込んでくれるのだ。
「今だ逃げるぞ!」
近くにいた他の子供たちも一斉に大人たちがいる宴会場に向かい走り出す。
奴らはたかが松明の炎如きで死ぬような甘っちょろい敵ではない事は知っている。
再び近くにある松明を取り、急いで宴会場に向かうがそこでとある疑問が出てくる。
ラースは怪獣たちの中では最弱クラス。だから常に群れで行動している。
……三匹だけということは絶対にない。
そして基本的にどの村も周りは柵と堀、そしてこの辺りのモンスターが嫌がる松明に囲まれている。
更に元々は星3だったハンター、ボコさんがここの守りをしているのだ。
ハンターには信頼度を明確にしたランクというものがある。
星1と2は見習い。ラースにも負ける可能性があるくらい弱い存在だ。
そして星3はこの世界のハンターの6割がこのランクで一生を終えるほど多いクラスで、このクラスになるとラース程度なら問題なく倒すことができ、旅人や商人の護衛なども行っている。
この村の守りをしているボコさんは星3。
閃光弾や音波弾といった様々な道具を使いこなすベテランで、たかがラースの数匹に負けるわけがない。
基本的にラース程度なら複数匹の不意打ちにも対応できる強さを持っているはずだ。
それなのにラースを通したと言うことは…
嫌な予感が頭によぎる。
そして宴会場に向かうための最後の角を曲がった時…絶望に頭を支配された。
そこにいたのはラース達の王。
人と同じ大きさのラースがトラックサイズまで大きく、少しではあるが炎への耐性を有しているモンスター。
ドララースがそこにいた。
奴は俺たちを見かけるとニヤリと笑い大きく咆哮をする。
すると周りから大量のラース達が現れた。
どうやら生き残りを食べようと辺りに散らばっていたラースが、咆哮で戻ってきたのだろう。中にはボロボロのラースもいる。
よく見るとドララース自体にも怪我が複数見える。
……だがそれでもただの村人の俺には脅威に違いはない。
後ろからドサッといった音が聞こえた。
どうやら俺の後ろにいた子供達が絶望して膝をついてしまったようだった。もう悲鳴を出す事もできないのだろう。
周りを見渡すとそこには大量の死体が重なっていた。この宴会場で囲まれて逃げ切れず食い殺されたのだろう。
そこら中に食べ物や酒が散乱している。
そこには流行り病で倒れていたときに看病してくれた村唯一の薬師のレテさんや俺によく剣を持たせてくれたり、特殊な道具でいっぱい遊んでくれた星3ハンターボコさんの姿、そして俺の両親の姿もあった。
俺の両親は俺が喋る時、どんなにどもろうともきちんと最後まで聞いてくれる優しい人達だった。
この世界では大人でも文字を読めなかったり、計算ができない事が多い。
しかし俺は文字を読めたし、計算だってできた。それもきちんと喋れるようになった後すぐにだ。
俺は店のお会計の時に計算した後、失敗したと思った。
不気味がられてしまうのではないかという不安が俺を襲ったが周りの人たちは、不気味に思うことはなく俺のことを天才だと褒めてくれた。
しかし天才だからといって余計な色眼鏡はつけず接してくれた。その心に俺は本当に助けられていた。
あんなに優しい人達だったのに目の前でゴミのように嬲り殺されている。
きっとこの後は食うだけ食って、残りを巣に運んでいくんだろう。
怒りが全身を襲う。今すぐにでも目の前にいる怪獣共の首を切ってやりたい。
勝てなくてもあいつだけは絶対に殺してやる。
……俺は何度でも蘇るんだから。
そう考え、目の前にいるドララースに襲いかかろうとした時、俺はボコさんの言葉を思い出した。
『ハンターになるなら絶対に気をつけなければならないことがある。それは短絡的思考になることだ。考えることを辞めた時、ハンターは負ける。その事を忘れるなよ。』
危なかった。
俺は死んでも戻れるが子供たちは戻らない。
そんな単純なことを忘れてドララースに突っ込んでしまうところだった。
ありがとうボコさん。
俺は心のなかでボコさんに感謝し、覚悟を決める。
慎重に辺りを見回し、作戦を考える。
どうやらドララースは俺たちを襲うつもりはないようだ。子分たちに餌をあげるつもりなのだろう。まずは取り巻きの12匹を倒せれば問題ない。
ラース達は仲間に異様に優しいのが特徴だ。ならやることは決まっている。
俺は松明を持ち、一番傷の深いラースに走り出す。ラースの最初は基本的に右手の爪の引っかき攻撃。
俺は紙一重でその攻撃を回避すると、松明で首をぶっ叩く!
他のラースが咄嗟に助けようとするがもう遅い。
俺は松明の炎で燃えたラースの尻尾を持ち、他のラースにぶつける。
こいつ等は基本的に遠い敵には飛びかかり攻撃のため、絶対に回避はできない。おかげで3匹を巻き添えにすることができた。傷の深いラースはこれで死んでるだろう。
ローリングで他のラースの攻撃を回避しボコさんの側による。
ボコさんが持っていた双剣。それを取り出し、一番子供たちの近くにいた敵に近づき斬り伏せる。
基本的に首を掻っ切れば一撃で死んでくれる。
ただ俺の実力じゃあそんなにたくさんの敵には勝てない。俺は大声で子供たちに呼びかける。
「今すぐこの場所から離れろ! 俺が止める!」
子供たちはビクリと震えて動けなかったがそのうちの一人。
普段は子供たちのリーダーをしている男の子が震える体を起こして残りの子たちを引っ張っていった。
それを見たラース達は襲いかかろうとするがそうはさせない。
俺はローリングの際にこっそり取っておいた酒を双剣にぶっかけ、松明の火を移す。
「皆の仇だ。覚悟をしろよ糞ども」
燃えた双剣を見たラースたちは怯えて、俺から距離を取る。そんなラース達を見て煽るようにうざい笑みを浮かべる。
「おいおい。こんな子供に怯えるなよ。まあこの世界じゃ今年で成人だけどな」
……正直きつい。
残り10体のラースだけでもきついのに、俺の正面にはドララースまでいる。
星3ハンターでも複数人で挑むことが推奨されている敵だ。熟練した腕を持つ星4ハンターならソロで勝てるかといった所だ。
俺が考えを巡らす。このまま膠着状態を生み出し時間稼ぎをする。
明日は成人後の子供達の魔力を測るためにハンターギルドのメンバーがこの村を訪れる。
その中には星5クラスのハンターも来ていたはずだ。
それまで粘りたいところだが、正直不可能。まだ月は真上にある。
後はコイツを倒すこと。コイツをソロで倒せるのは星4クラスのハンター出ないとだめだ。しかし今の俺にそんな実力はない。
全力で逃げる。その間に子供達が狙われるかもしれない。却下。
どうしたものかと構えていると…奴らは10体が一斉に襲いかかってきた。
「何を!」
纏めて回転斬りで斬り伏せてやろうと、構えたその時…辺り一帯が大きく揺れた。
ドララースが勢いよく尻尾を地面に叩きつけたのだ。
そうして体が動けなくなった次の瞬間、一斉にかかってきたラースに体中を引き裂かれ死んでしまった。
「うおおおおお!」
ドララースが尻尾を叩きつける瞬間を見極め一瞬でジャンプし、二体のラースの首を切り落とす。
攻撃を見切られたドララースが驚いている隙をつき、敵の首を次から次へと切り落とす…事は出来なかった。
十体のラースによる波状攻撃。避けようにも奴らは仲間の背後に隠れ、上手いように攻撃を隠してくる。そのせいで上手く避ける事ができない。
一度でも攻撃を与えられたら終わりだ。
痛みで怯む間に別のラースの攻撃で殺される。漫画のように覚醒して敵をギッタンバッコン倒すことなんてできない。
十回を超えた辺りで限界が来た。
「…うっ、おおええええええ!!!!!」
もう耐えれない。何度死んでも蘇り、再び殺される。
突然吐いた俺にラース達は困惑するが、攻撃の手は止めない。
再び殺される。何で俺の能力はこんなにクソなんだ…。
最初の頃はアドレナリンドバドバで何とか耐えられた。しかしここまで死に続けると心は冷めていく。
二十を超えた辺りで俺は倒れた。精神的に限界が来たようだ。蘇っても痛みは覚えている。精神的な疲労は消えない。
「いてえ……いてえよ…」
涙を流し失禁する。情けない姿だ。俺みたいな何もできない人間にはふさわしい姿。
十匹のラースが次々に俺の体を貪っていく。
さっさと心が壊れたほうが楽になれる。
そんな事を考えていると、とある光景が目に映る。
「……れ…わ」
赤ん坊だ。
死体の山から少し離れた所に母親の死体に隠された赤ん坊の姿があった。
近くには薬の瓶が転がっている。
昔レテさんが作っていた睡眠薬。
飲めばどんなに寝言がうるさい人でも静かに寝ると好評だった。
恐らく自身の身体で赤ん坊を隠し薬を飲ませることで泣き声を出さないようにしているのだろう。
母親の方は怪我の深さから死んでいるようだが赤ん坊は無傷。恐らくまだ生きている。
だがこのまま奴らが死体を運べば赤ん坊が生きていることに気づくだろう。そうなったらあの赤子は間違いなく死んでしまう。
母親の目がこちらを見ている。死んでいるというのにこちらを見る目には意思があるようだ。
『この子を助けて』と、そう言っている気がする。
「…………ねえ」
情けねえ。あの母親は俺とは違う。
死をものともしない覚悟がある。自分が死んでも子供は守るという覚悟が。
この覚悟を見て、俺は何もせずにやられているだけか?
それじゃあ今までと何も変わらない。変わるんだ。ここでこいつら全員倒してあの子を助ける。絶対に!
それから俺は三十回ほど死んだ。その間に少しづつ少しづつ、奴らの動きが分かってきた。
奴らは味方に攻撃が当たらないように、互いに少し距離を置き、なおかつ攻撃のために使う箇所を仲間の体で隠している。
後やることは一つ。
全員の動きを完全に暗記すること。一匹一匹がどう動くかを完全に暗記し攻撃を与える!
攻撃を避けて首を切る。攻撃を避けて首を切る。避けて、切る。避けて、切る。避けて、切る!
ドララースにとっては一瞬の出来事だったのだろう。
しかし俺にとっては永遠のように感じる程の時間だった。辺りには首を切り落とされ燃えているラース達の死体が10体いる。
「全員殺してやったぞ! ざまあみやがれ! 次はお前の番だ!」
やったぞー!
内心大きく叫びそうになるのを堪える。
幸い赤ん坊はドララースから遠い位置にいる。動きをしくじらなければ奴にはバレないはずだ。
燃える双剣を構えドララースに睨みをかける。まだ月は遥か上に昇っている。夜明けとは遠い。
時間稼ぎで逃げ切りはできそうにない。ここでこいつを確実に殺す!
「ギエエエエ!!!!!!」
ドララースは激怒していた。仲間思いなドララースは仲間を殺されると必ずその仇を取ろうとする。
これでいい。これで奴は俺に釘付けだ。
俺は奴の足と尻尾に注意をはらいながら一定の距離を保つ。
こいつは少しでも隙を見せると一瞬で突っ込んで爪で体を引き裂かれてしまう。これはどちらが先に我慢できなくなるかが肝だ。
ジリジリとお互いに距離を保ちながら広場を回る。赤ん坊から少しでも遠ざけるように位置を調整していく。
ドララースが村人達の死体のそばにいったその時、勢いよくこちらに突っ込んできた。
どうやら先に我慢ができなくなったのは奴だったようだ。俺は攻撃を避けきれず顔面に奴の爪が突き当たる。
恐ろしい威力。一撃で俺の体はスプーンでくり抜かれたように頭がこそぎ落とされる。
目が覚めた俺は奴の攻撃をかわす。もう死んだだけでは怯まない!
この流れで一発食らわしてやろうと側面への攻撃にかかる。
だがあまりにも硬すぎる。魔力を使えない俺には、低級でもボス級のモンスターに傷を負わせることはできない。
尻尾の薙ぎ払いにより体中の骨がへし折れ死亡した。
ならば今度は狙いをより絞る!
幸い奴の体は大量に怪我をしている。その怪我の場所に合わせ攻撃を叩き込む!
「ギャギャー!!!!」
奴の悲鳴が響き渡る。流石に攻撃を負った箇所に酒と炎が混ざった剣は染みたようだ。
「ギャー!!!」
奴が再びこちらに突撃してくる。数回の死亡を得て何処に攻撃するかは既に把握済み。
「ここぉ!」
頭スレスレに奴の爪が通る。ギリギリだがようやく回避できた。このまま攻撃を当て続けてみせる。
その時だった。奴が脚で何かを飛ばしてくる。
俺はそれを回避しようとするが、飛ばしてきたものを見て固まってしまう。
それはボコさんの遺体だった。
「なっ!」
咄嗟に俺はボコさんを受け止めてしまう。それが致命的だった。
俺はボコさんの体を抱えたまま尻尾に貫かれ、殺されてしまった。
抱きついた際に見たボコさんは泣いていた。
死体の顔をあそこまで近くで見ることは初めてだった。
あそこまで悔しそうな顔をしているボコさんは初めて見た。
俺がモンスターに怯えるたびに俺が必ず守ってやると言って豪快に笑った時の笑顔を思い出す。
「必ずボコさんの無念。晴らしてみせるよ」
作戦を思いついた。しかしとても非道な行いだ。とても許されることとは思えない。
……だがしかし、その作戦を使わなければ確実に俺は負けてしまう。そうしたら子供達もあの赤子も死んでしまう。
迷いは一瞬で振り切った。俺は一番最初に松明で殺したラースの元へ向かう。
後ろから奴の攻撃が飛んでくる。しかし俺には意味がない。
奴の方を一切見ることなくラースの元へ辿り着いた俺はラースの死体を勢いよく蹴り飛ばした。
何度も殺された中である知見を得た。
それはこいつ等は見た目より意外と軽いということ。恐らくだが跳躍力を得るために骨や肉をかなり減らしているのだ。
奴は咄嗟に尻尾で仲間を受け止める。
「ギエーーーーー!!!!!」
奴は仲間の死体を投げられたことに激昂する。自分も同じ事をしたっていうのにクソみたいなやつだ。
怒りに身を任せ奴は俺に尻尾で攻撃してくる。今までで一番の速度。とてもじゃないが避けられない。
だが俺はボコさんの死体からとある物を取り出していた。
俺がラースに襲われる前に聞いた音。あれは悲鳴のように聞こえたが、それは違った。
ボコさんが持っていた音波弾だろう。だが閃光弾は使った気配はない。
閃光弾の光が出ていたら夜なら確実に気づくはず。おそらくまだ逃げている人がいたから、閃光弾の方は使えなかったのだろう。
耳塞ぐだけならともかく目をつぶっては逃げられない。
だが今は違う。周りに人はあの赤子しかいないし俺は逃げない。確実にドララースを殺す。
奴がラースをキャッチした瞬間に、俺は閃光弾を投げていた。奴は勢いよく突進した所でいきなり光が現れたことに驚き悲鳴を上げる。
「ギャギャーーー!!!!」
目をつぶり勢いよく飛び込み、ドララースの腹部を切りつける。
ここは一番傷跡が多い部分だ。奴にかなりのダメージを与えられるはず。
だがしかし! それだけで俺の攻撃は終わらない!
奴の足の怪我に剣を合わせ斬りかかる。痛みに怯んだやつは死体の上で転がりまわる。
ここで気をつけなければいけないのは尻尾を馬鹿みたいな速度で振り回すことだ。
気を付けないと体を吹き飛ばされ殺される。
七回目のリトライでようやくドララースの周囲から脱する事ができた俺は、燃えた双剣の片方を近くに転がっていた酒の入った樽に刺し燃やした後、死体の方に蹴り上げる。
「これでも喰らえ!」
大量の死体から出る脂とそこら中に散らばる酒により勢いよく燃え上がる。
燃えた炎が火柱のように燃え上がり確実にドララースを焼いていく。
「ギャアアアアアアア!!!!!!!」
ドララースは確かに炎に対する耐性を持っているが、さすがにこれほどの炎なら体が焼けて行くだろう。
ドラゴンの炎がどんなものでも燃やせるのは耐性を超えるほどの圧倒的な火力があるからだ。
耐性を超える程の火力を出せば耐性を無効にする。
まあそんなことができる奴らなんて最低でも星5以上。英雄と呼ばれる奴らぐらいだ。
ドララースの場合は毛深い剛毛が酒により、雨でシナシナになった子犬のようになっていたのと、たくさん怪我を負ったところに酒が染み込んでいるからといった理由がある。
「後は適当に近くにある酒を全部ぶっかけよう」
まだまだこれじゃあドララースは死なない。
尻尾をバンバン撃ち付けて炎から逃げようとしている。
確実に殺せるようにもっと火力を上げようとしたその時、何かが後ろから俺の体を切り裂いた。
「ぐわぁ!!! ……なんだ…?」
咄嗟のことで反応できず体が崩れ落ちる。
体がグチャグチャに何かに踏み潰される感じがする。
血溜まりから正体を確かめようと見てみると、そこには俺が先ほど焼いた三匹のラース達がいた。
「おらああ!!!! よくもやってくれたな!!!!」
奴らの攻撃に合わせ、振り返り剣で斬りかかる。
「ギャアァ!?!」
奴らは奇襲に対応されたことに驚いたのか回避ができていない。
一匹仕留め、残りの二匹も怪我を負わせられた。しかし致命傷ではない。
「邪魔をするなあ!!!!」
急がないと奴が動き出す。残りのラースが攻撃態勢に移る前に殺す!
何とか死ぬことなく無傷で三匹目を斬り伏せた…その時! 恐れていた事態が起きてしまった。
「な、何だ!」
辺りに轟音が鳴り響く。音はドララースのいた方からだった。
まずい…! ドララースの方を咄嗟に向く。
しかし既にそこに奴は居なかった。何処にいる…?
それ以上のことを考えることは出来なかった。何かが勢いよく体にのしかかり、潰され殺された。
「…っつ!」
後ろを振り返る暇はない。意識を取り戻した瞬間、即座に横に跳んで避ける。
俺がいた所にダン!!!といった轟音が響き渡る。
目の前にドララースが降ってきた。先程殺されたのはこいつに潰されたからだろう。
「あっぶねえ!」
奴を睨みつける。奴の体はボロボロで自慢の毛はハゲてしまい、皮膚もボロボロ、攻撃の際にいつもする咆哮はかすれており、体はまだ燃えている。
間違いなく死に体。この状態なら俺の攻撃も確実に通るはずだ。
しかしそんな状態でも奴はギロリとこちらを睨みつけてくる。
これほどまでの状態になっても戦意を捨てずに立ち向かい続けるドララースに俺は何か敬意のようなものを抱いてしまった。
覚悟を決め剣を構える。
ドララースもこれで終わらせるつもりなのだろう。
尻尾をいつでも打ちつける構えをしている。
同時に互いが動く。ドララースは尻尾を打ちつけるフリをして姿勢を下げ、爪で引き裂き殺そうと突っ込む。
対して俺は双剣の片割れを勢いよく投げ飛ばした。
頭を狙った攻撃にドララースは咄嗟に片手で剣を防ぐ。
その隙を突き俺は先程腹部につけた十字傷に勢いよく左手に残した剣を突き刺し、勢いよく上に引き上げた。
「キケェーーーーーーー!!!!!!!」
今まで聞いた時にないほどの悲鳴を上げドララースは倒れ伏す。
もう二度と目を覚ますことはないだろう。俺は燃えている死体の前に立ち、頭を下げた
運が良かった。
この村では度数が異様に高い酒を使っていたこと。酒豪が多くて度数の高い酒がそこら中に転がってたこと。
ボコさんが事前にかなりの怪我を負わせてくれたこと。
大量の奇跡が俺を勝利に導いてくれた。
「今まで本当にありがとうございました。皆のおかげでドララースを倒すことができた……。死体をこんなことに利用して、本当にごめんなさい」
謝罪を終えた俺は、赤子を拾い歩き出す。子供達のいる所にこの子を避難させなければ…。
「……………あ……」
ある程度進んだ所で俺の体は崩れ落ちる。
既に何回か死んでいたし、精神的にも肉体的にも限界が来たのだろう。
俺は赤子を抱き締めながらその場で意識を失った。
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