第53話 悪役女優
「買ってきました!コーヒーです!」
「ほんっと使えないんだから」
うわぁ……
あんなことする人ほんとにいるんだ。
「斎藤、あの方は?」
「はっ、女優の白石ミナトさんですね。7年前の学園モノドラマでイジメ役を演じて大ヒット、迫真すぎる演技で日本中が震え上がったとか。それ以来悪役女優として活躍、映画にも何本か出ています、全て悪役ですが売れっ子と言っていいですね。ただスタッフに対する態度が悪いと言う噂がありましたが……どうやら事実のようですね」
斉藤がメモ帳を取り出しデータを喋りだす。
何となく聞いただけなのにペラペラと、なんなのそのメモ帳、業界のデータ全部入ってるんだろうか。
しかしそうか、悪役女優。
だからって普段から態度悪いのはどうかと思うが……。
さて、私はどうするか。
近寄らないようにする?幼児なんだから怖いと言えば皆守ってくれるだろう。
演技で勝負して分からせる?
いやいやそんなことして何になる。
やはり私の取る行動としてはこれだ。
「白石さん、初めまして、娘役の天原久遠です。今回はよろしくお願いします」
私は笑顔で話しかける。
「あら、可愛い子ね。私は白石ミナト、母親役よ、よろしくね」
流石に幼児にまでキツイ態度は取らないようだ。
「ミナトさんって呼んでいいですか⁉」
「え、ええ、いいけど」
グイっと一歩近づく。
「ミナトさん、私、ドラマは今日が初めてなんです。よかったら色々教えてくれませんか?」
「なんで私が……」
手を取ってキラキラした目を見せる。
「お願いです!それにミナトさんの出てるドラマ見ました!すっごく上手くて、あんな風になりたいなって、だから今日会えるのを楽しみにしてて!もしかしたら演技の秘訣が分かるかもって!」
「そんな……私の役なんて嫌な役ばかりだったでしょう?あなたなら悪役なんてやる必要ないわ、いえ、やるべきではないのよ」
おや?少し憂いを帯びた表情。どうやら彼女にも悩みがあるようだ。
なら尚更!
「そんな事ありません!悪役こそ一番技量がいるんだって、私知ってます!それに誤解されやすいってことも……それでもこうして役者として頑張ってるなんて、尊敬するのは当たり前です!」
「分かった!分かったから!えーと、久遠ちゃん?ドラマのこと、お姉さんが教えてあげるから、しっかり見てるのよ?」
「やったー!」
勝った。
煽てて無理矢理教えを乞おう作戦である。
こうして幼女が褒めて尊敬の念を送れば、大体の相手は幻滅されないように模範的な態度をとるようになるものである。
問題行動があっても、舎弟としてやんわり意見すればいいのだ。
これ、タケルがよくやってた。
奴はとにかく調整力が高く、こうした癖の強い役者を上手くコントロールして、役者全員で力を合わせた作品を作ってきたのだ。
薄々感じていたが、どうやら私もその役割を受け継ぐことになりそうである。
普段は武闘派な私だが、演技に関しては皆仲良くが信条である。
取りあえず、今日は帰ったらミナトさんの出てるドラマを見なければ。
悪役女優を尊敬するのは本当だがドラマを見たというのは嘘だからね、嘘は少ない方がいい。
それに仲良くなれば彼女の悩みも解決できるかもしれない。
「じゃあミナトさん、私、挨拶続けてきますね」
「ええ、挨拶は大事よ、頑張んなさい」
やっぱりけっこういい人だ。
さて、最後に挨拶をするのは娘を陰ながら助けてくれるおばあちゃん役の人だ。
さっきまでは居なかったが……ん?
もしかしてあの人だろうか。
ってあの人……もしかして!
私の心臓がドクンと高鳴る。
日向受売命(ウズメ)、タケルの師匠だった人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます