【短編】私の生きる

松下一成

【短編】私の生きる

「私、佐々木美香には目的がある」


「私、佐々木美香はお葬式の資金をためる必要がある」


 お金を払った人生相談セミナーで質問したら返事が返ってきた。


「死ぬためにはどうしたらいいですか?」


 講師の回答はこうだった。


「・・・葬式代も出せないうちは死ねないよ」


 その言葉を私は中学3年生の時に聞いた。そうか、死ぬためには葬式代を稼げないといけないのか。地獄の沙汰も金次第とはこういうことかと感じた。


 それから私はとりあえず高校に上がると、欲しい服とか友人と遊ぶお金が欲しいという理由で親を騙してバイトを始めた。


 親は「社会勉強してこいよ」と快く送り出し、了解してくれた。


 高校側も「佐々木なら成績もいいし、出席状況も悪くない」とのことで一切の疑いもなく、許可をくれた。


私は心底この世界の仕組みに感謝していた。


「他人は私の考えまでは読めないということに」


 まさか手塩にかけた娘が、それなりに品行方正な生徒が、自分の葬式代を稼ぐためにバイトをしているなんか考えつかないだろう。


 バイトをする場所も目星がついていて、近所にあるホームセンターに併設されているたこ焼き屋さん。


 休日になるとそこでたこ焼きを買うことが私にとって楽しみだった。そのたこ焼き屋さんは今現在なんというか年寄りばかりで人手不足感が否めなかった。だからそこを狙った。


狙いは当たった。


 書類審査と面接を少しだけしたら直ぐに受かって働くことになった。


 このたこ焼き屋さんは私が小学生のころから利用している。だから愛着があると言えばあるし何となく作業風景を眺めていることが多かったからすんなりと体に作業が入り込んできた。


 近所の小学生がお小遣いを握りしめてやってくる。話を聞けばお母さんのお手伝いをしてもらったお金。子供は私に「これは〝ろうどうたいか〟だから」って言ってた。私はそれを聞いて笑うと少しだけサービスしてあげた。私なりの接客術。


 高校1年から始めたこのバイト。気が付いたとき、私は高校3年生になっていた。通うことが決まった調理師の専門学校も実家から通える範囲。このバイトは辞めなくて済む。


 そろそろ葬式のお金は貯まったのだろうか?おそらくまだ足りないのかもしれない。よくよく考えれば自分の葬式に必要なお金がいくらかかるのか知らなかった。


 そんな私の本心も知らないまま時が過ぎた。調理師になるための専門学校も終わりを迎えはじめ、私はまた人生の岐路に立たされた。


 岐路に立った時に感じる。私はくだらない理由でバイトを始めたことに。自分の葬式を上げるために働いていた。


「死ぬために働いていたのに、それなのに時間が経ってしまった」


 専門学校を卒業すると同時に私はたこ焼き屋も卒業することになった。長年世話になった風景を見送るのは何だか寂しかったが仕方がない。


 私の卒業後の進路は大きな町のレストランに決まってしまった。


 そこでもまた変わらないのだろう、


なにせ葬式代っていうのは一生かかって稼ぐものなのだから。

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