言葉では語り尽くせないほど、美しいものを見たから

それでも語ろうとするのが、人生を歩むと言うことなのだな……と思うお話でした。このレビューを書いている季節はちょうど春、桜が満開で、どう写してもあの清らかな花々の清廉で豊かな美しさが伝えられず、歯がみする今日この頃です。
物語はスロースタートに、あるいはとても丁寧に、勇者ルー、やや人間不信気味のレナルド、麗しくも病弱なシャルロッテ姫の描写と共に進んで行きます。
そんな彼らは魔王が残した「遺構」を巡り、幾つもの冒険を重ね、絆を積み上げていく。やがて見えてくる、「勇者と魔王の物語」に秘められた真実とは!

「語る」とは「話す」ということであり、語るべきものを持ちながら自分なんて、と卑下していた〝彼〟は、「話し相手たち」を――友を得ることで、語る事へとたどり着きます。
 物語序盤を見返すと、キャラクターたちの変化にぐっと来ますね……。人間が言葉を交わすのは、それが種族全体の生存率を上げるからであるけれど、それ以外の部分もたくさん担っている。彼らとは別の「勇者と魔王の物語」に思いを馳せ、これからへとピリオドは打たれます。めでたし、めでたし――でも、彼らは生きて歩んでいるよ、と。