2 聖女様は孤児院だって経営します
私が転生した世界には、”聖教”と呼ばれる教会とその宗教が根付いていた。
なんでも魔物と混沌が跋扈する時代、始まりの聖女様と呼ばれる聖女が人々を導いて安寧を手に入れたのだとか。
以来、この大陸の宗教は常に”聖教”であり、時には腐敗しながら、時には改革によって正常化されながら。
まぁ、どうにかこうにかやってきたのが今の時代。
聖女というのは、人類の中に時折現れる女神ヌーンのマナを有する人間のこと。
このマナは人を癒やす特別な魔術を習得できるマナで、私もそんなマナの持ち主の一人。
どういうわけか女性にしかそのマナは宿らないので、宿った人間は聖女と呼ばれているわけだ。
これ、私が男のまま転生してたらやばかったんじゃない?
世界初の男性聖女とか、物語の中ならともかくリアルでなりたくないよ!
TSしてよかった……
そんな私は、大陸最大の国家「デイブレ」の首都「ユウヤケ」に生まれた孤児。
幼い頃に聖女のマナが存在することが発覚し、いつの間にか聖女を養成する機関”修道院”に入れられていた哀れな転生者だ。
修道院での生活は質素極まりなく、退屈しかないものだった。
結果私は昼行灯を志、今では
個人的には、これが一番聖女として楽に生きる方法だと思う。
小さな店のワンオペが一番仕事楽なんだって、前世でも学びましたからね私は。
ちょっと治安は悪いけど、そこは鍛えた聖女ヂカラでゴリ押しすればいい。
なんてスマートな作戦なのだろう。
そんな私が、聖女としての評判をある程度いい感じにするために始めた事業が一つだけある。
それが――孤児院。
スラムには、身寄りのない子どもがいっぱいいる。
これを教会の金で養うだけで、私の評価もうなぎのぼりだ。
子どもの世話って大変じゃないかって?
そこは昼行灯志望、ちゃんと考えてあるわけですよ。
具体的には――楽できるところはとことん楽をするのだ。
料理とか。
+
朝、セットしておいた”起床魔術”により誰よりも早く起きた私は、十五分ほど二度寝を堪能した後起き上がる。
それを見越して、起床魔術の時間は予定より二十分早くしてあるのだ。
起床魔術っていうのは、寝ている状態からいい感じに目を覚ます回復魔術の一種。
私オリジナルである。
そうしていそいそとシスター服を着て、朝食の準備を始める。
孤児院には多い時には三十人くらい子どもがいるので、用意しなくては行けない朝食の量は膨大だ。
といっても、メニューは基本決まっている。
パンだ。
西洋風異世界ということもあって、この世界の主食はパン。
パン、パン、パン! 異世界として恥ずかしくないのか!?
みたいなくらいパンが出てくる。
いや異世界なんだからパンでも恥ずかしくないよなぁ。
伝承では、始まりの聖女様が貧しい人たちに神からの授けものとして与えたのも、パンとワインだったらしい。
なんか前世でも聞いたことあるような無いような話だな(うろ覚え)。
んで、その話を聞いた時、私は考えた。
女神様がパンくれるならそれでいいじゃん!
創生の女神ヌーン様は、全知全能の尊き神である。
パンの一つや二つくらい出して当然、いやむしろ出せないほうが神の称号に失礼。
というわけで私は台所にたつと、まず最初に礼拝のポーズを取る。
膝をついて手を組むアレね。
そして――
(パンください)
祈る。
(パンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンください)
祈る、ひたすら祈る、祈り続ける。
(パンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンツくださいパンくださいパンくださいパンくださいパンください)
数分ほど祈りを捧げると――そこには孤児院の子どもたちに食べさせるに十分な数のパンが!
後何故かパンツが一つ床に落ちていた。
新品なので、子どもたちに上げよう。
理屈は単純だ。
神託である。
こちらからは意識しか送れないが、全知全能の女神様は自分の創造物を転送することもできるのだ。
これぞ名付けて「神託調理法」、一日の食事は基本これで用意している。
罰当たりじゃないかって? 爆笑神託が飛んできたから大丈夫だよ、多分。
とはいえ、パンだけじゃ味気ない。
そこで私はもう一度祈りを捧げる。
(ぶどうジュースください)
捧げること数分、そこには真っ赤なぶどうのジュースがコップごと。
伝承では、始まりの聖女様はパンとワインを人に与えたらしい。
でもここは孤児院なので、ワインではなくぶどうジュースがでてくるのだ。
ちなみに、祈りを捧げて出してもらえる料理は二つだけ。
伝承で与えたのがそれだけだからってことだけど、私は女神様のレシピのレパートリーがそれくらいしかないからだと睨んでる。
ヒルネも料理できないしね。
んで、パンに付けるものはこちらで用意することになっている。
用意するのは――ずばりジャムだ。
いちご、ブルーベリー、マーマレード。
ジャムと言われて思いつくものは、一通り用意してある。
なんでジャムが大量に用意してあるかと言えば、大量に作るのに向いているからだ。
素材を山程かき集めて、作って、保存。
これだけで一年は持つから、ジャムは偉大だ。
一年は長すぎだろって? この世界には食材を新鮮に保存する魔術があるんだなぁ。
まぁ、この世界これが前提になりすぎて新鮮な十年前のパンとか普通に出てくるから恐ろしいけど。
他にも、ハムとかチーズとか、中世風異世界でも用意しやすいものはある程度用意してある。
ただこっちは、孤児院で作れないから必要な分だけだ。
買いに行くのが面倒なので、できれば消費したくないなーと思いつつ、保存魔術がかけられた箱のなかから取り出す。
と、そんな時だ。
「――おはよ、ございます、聖女様」
不意に声が聞こえる。
質素な服の金髪少女だ、年は十二歳くらいなんだけど背丈は私とそんなに変わらない。
「おはよう、シウ。まだ寝ててもいいんですよ?」
「聖女様の、お手伝い、した、です」
「そっか。ならお皿を運んでくれますか?」
シウ、それがこの少女の名前だ。
言葉少なな少女だが、孤児院では最年長。
子どもたち――特に女の子組のまとめ役。
男の子の方は、ラマウというシウと同い年の少年が面倒を見ている。
口数は少ないけど、困っている人を見かけたら放っておけない心優しい娘だ。
私の手伝いも、よくしてくれる。
「ところ、で、聖女様」
「なんですか? シウ」
「パン、多くない、ですか?」
「多いですねぇ、神様が頑張りすぎちゃったみたいです」
シウの指摘どおり、今日神様が用意してくれたパンは数が多かった。
基本的にヌーン様は適当なので、少ないのは問題だけど多い分には構わないだろうと考えている節がある。
ヒルネがしっかりもののようで細かいところは雑なのと同じだ。
「どうし、ますか?」
「保存してもいいのですが……ヌーン様からの賜り物を、死蔵しておくのはもったいないと思います」
「じゃ、じゃあ……」
さて、こんな時どうするか。
保存する、というのも一つの手ではある。
保存魔術は偉大なので、ストックにしておけば万が一の時にそれを食べることもできるだろう。
でも、神様はもっと偉大なので、祈ればパンを出してくれる。
それなら、わざわざ保存する意味もない。
とすると、答えは一つだ。
「東区の人たちに振る舞いましょう」
「みんな、笑顔、なります、ね」
うむ、実に笑顔になるイベントだ。
私にとっても、聖女ポイントを稼ぐまたとないチャンス。
こういうところで、楽してポイントを稼ぐのが昼行灯のコツなのだ。
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