TS転生ぐうたら聖女は、昼行灯になりたい!
暁刀魚
1 昼行灯とは――
異世界に転生したら、自分はやり直せるんだ……みたいな話はよく聞くけれど。
残念ながらそんなことは全くなく。
仕事なんてしたくない、仕事してたら人生腐る。
そんな哲学の元生きている私は、異世界に行っても怠惰だった。
言い訳はさせてもらうと、私が転生したのは教会の聖女なんていう字面だけでも質素極まりない存在。
修行という名の労働は苦痛というほか無いのだ。
ちょっとくらい楽をしたいと思うのは、別に悪いことじゃないよね?
女神様だって、「毎日を楽しく生きることを何よりも優先しなさい」って言ってるし。
だから思ったのだ。
ちょっとくらい自堕落でも許される存在に、なっちゃえばいいんだって
果たしてそんな存在はいるのか?
いるじゃないか、「昼行灯」と呼ばれる普段は仕事しないけど本気を出すと凄いみたいなヤツ。
なっちゃえばいいじゃん、昼行灯。
というわけで、私は本気を出すことにした。
怠けるために頑張ることを、私はためらわないのだ。
昼行灯に必要なのは、強さ。
幸いここは異世界で、私はTS転生聖女。
元々特別な立場に加えて、転生者特有のチート染みた才能で私はぐんぐん強くなった。
そして満足行く強さを手に入れた後、私は昼行灯になるべく最初の行動を移す。
王都の外れにある寂れた教会に赴任させてほしいと願い出たのだ。
――なんか、悲壮な覚悟に満ちた表情で「貴方様がそう言うならば」と言われた。
……何か間違ったかな?
+
とある少し古ぼけた、けれども清掃の行き届いた教会で一人のシスターが祈りを捧げていた。
特徴的なのは少しクセのある美しい銀髪と、今は瞳を閉じているけれどその瞼の裏にある赤目。
背丈は小柄だけど、出るところは出ている。
ただし胸はそこそこ止まりなのに対し、尻がやたらとでかい。
そのシスターの名前は”リア”。
まぁ、私のことである。
私、ぐうたら聖女リアの朝は礼拝から始まる。
正確に言うとその前に孤児院の子どもたちを起こして、朝食を一緒に食べて子どもたちを送り出すフェーズがあるのだけど、そこは割愛して。
聖女としての仕事は、この礼拝から始まるのだ。
一人、静かに女神様へ向けて祈る。
この世界を創り給うた尊き女神、ヌーン様に祈りを捧げるのだ。
片膝をついて、両手を組んで祈りを捧げる。
それを、かれこれ一時間。
一時間!? と思うかもしれないが、これは必要なことなのだ。
何故なら――朝は眠いから!
はい、寝てます。
礼拝? 祈り? 睡眠も瞑想の一種みたいなもんだからセーフセーフ。
こんな態勢で寝てたら身体が痛くなると前世の私なら思うだろうが、そこも問題ない。
この世界には回復魔術というものが存在する。
祈りの態勢で寝て身体を痛めても、回復魔術でちょちょいのちょいよ。
まぁ、この世界で回復魔術を使えるのは聖女クラスの人間だけなんですけどね。
これぞ昼行灯流奥義の一つ、礼拝寝だ。
幼い頃から聖女として、礼拝をやらされてきた私はこの退屈な時間を何とかやり過ごすため開発したのがこの礼拝寝。
その練度たるや、教会の一番えらい人ですら私が寝ているということに気付けないくらい堂に入った礼拝っぷりである。
デメリットは、普通に寝てるので周りに起こされないと礼拝をやめれないというところか。
おかげで、他の人はもう礼拝やめてるのにまだやってるよ……みたいなことが結構起きた。
ただ、これも悪いことばかりではない。
私は怠惰なのだ、普段の聖女としての仕事も適当で済ましてばかりなので周囲の印象は悪いだろう。
こういう自分でもできるところで聖女ポイント稼がないと、周囲の評判が昼行灯どころかマイナスぶっちぎってしまうのだ。
と、そんな時である。
不意に教会の扉が開いて、私は目を覚ました。
「相変わらず、”安寧”の聖女様は敬虔ね」
入ってきたのは、スラリとした体躯の少女。
私と同じ、教会のシスター服を着ている。
この世界のシスター服はよくあるシスター服なのだけど、特徴は頭に被るウィンプルが存在しないことと、なんかめっちゃでかいスリットが入ってて足が出る仕様になってるところ。
後ボディラインがくっきりでる、おヘソとかまで見えちゃう。
そんなスケベシスター服にふさわしい、豊満な乳が特徴的な長い黒髪の少女だ。
「――ヒルネ、どうしたんですか?」
彼女の名前はヒルネ、同年代の聖女である。
名前が私より昼行灯しているところが憎いけど、それ以外は気立ての良い少女である。
逆恨みじゃん。
ちなみに私は常に敬語だ、一人称を私にして敬語で喋れば元男の私でもいい感じにごまかせるんだよ。
もう大分思考もメス落ちしてる? まぁそれははい、十数年生きてたらね。
「リアが真面目に聖女しているかなって、様子を見に来たのよ」
「見ての通りですよ、リア」
「そうね、見ての通りね」
この態勢は普通に足が痺れるので、人が来たなら立ち上がる。
身体が訴える節々の痛みは、軽く回復魔術で直しておいた。
「リアがこんな寂れた教会に赴任させて欲しいって言い出した時は、なんか変なものでも食べたかと思ったけど、存外立派にやってるみたいね」
「一言余計ですよ。それに、この教会が維持できているのは皆さんのおかげです」
そうだぞ、私は特に何もやってないからな。
面倒だから掃除は月に一回しかやらないし、それにしたって孤児院の子どもたちの手を借りている。
まぁ、月に一回で済むように掃除自体は真面目にやりますけどね。
「そういうところが立派だって言ってるの。……まぁ、貴方にそんな事いうなんて、女神様に説法をするようなものね」
「……それを貴方が言いますか」
「あはは。それより聞いた? ここ最近、街でおかしなものが出回ってるの」
「おかしなもの?」
ヒルネは私の様子を見に来た、というけれど。
本題はこっちだろう。
「狂いマギって言われてるマナを狂わせて、人に酩酊感を与える薬物ね」
「ははぁ、あぶないクスリですか」
「なにそれ? まぁそのせいで街に中毒者が出てて、聖女が駆り出されて大変なわけ」
「大変ですねぇ」
「人手が足りないって言われた時に、絶対手伝おうとしないわよね、貴方」
そりゃあ怠惰ですから。
でもあぶないクスリの中毒をどうにかできるのは、聖女の回復魔術だけ。
聖女の数は限りがあるので、ヒルネも私みたいなぐうたらの手も借りたいってことなんだろう。
そういうことなら――
「……明日でもいいですか?」
「今日はだめなの?」
「今日はこの後、
東区というのは私の教会がある地区だ。
周囲はスラム化していて、私が定期的に巡回しないと良からぬ連中が跋扈することがある。
……というのは口実で、単純に今日は行きたくないだけだ。
面倒だし。
ただ、東区を回るのは理にかなっている理由でもある。
「東区に下手人がいないか確認してから、ってことね」
「ですです。それが終わりましたらお手伝いしますので」
「解ったわ」
スラムにそのあぶないクスリを蒔いてる連中が、蔓延ってるかもしれないのだ。
だから行けないのは仕方がないことなのだ。
「はぁ……”救済の聖女”様がさっさとこの事件を解決してくれればいいんだけどね」
「そうですね……ヒルネも気をつけてくださいね」
「ええ、せいぜい夜は出歩かないことにするわ」
そう言って、ヒルネは要件を伝え終えると去っていった。
ふうむ、と私は午後の予定(スカスカ)に街の巡回と言う名の散歩を加えつつ。
――もう一眠りするかぁ。
と、礼拝に戻った。
”救済の聖女”。
ここ最近、街を騒がせる謎の聖女様だ。
一言でいうと、時代劇みたいにこっそり悪を成敗する聖女様である。
なお、正体は私だ。
理由は、話の流れを見れば明らかだと思うが面倒事をさっさと片付けたいからだ。
だって面倒じゃん自分の担当じゃない仕事って!
しかも、断れない理由でやるしかない仕事って!
じゃあその根本を断つしかないよねぇ……!
ということで始まったのが、この救済の聖女としての活動。
聖女として私が担当している教会以外の仕事が発生しそうな時、いい感じにその原因となる悪い奴らをやっつけてくれる存在だ。
だが、もし私が直接動いたら、すぐにバレてしまうだろう。
なにせ聖女であることは隠してないし、むしろバンバン聖女の力を使ってるし。
生身で動くということは、夜にこっそり教会を抜け出してこっそり帰ってこなくてはならないということ。
そんなことしていたら、誰かに尾けられてそのうちバレる。
それに、そんなの昼行灯のすることじゃない。
だから私は――意識だけを現場に送りつけることにしている。
方法?
簡単だ。
聖女にはね、神託と呼ばれる便利な能力がある。
神からとお話をするための能力で、簡単に行ってしまえば神様とテレパシーする力だ。
要するに、聖女には意志を他者へ”飛ばす”力がある。
これを利用して、意識を身体から切り離して飛ばすのだ。
罰当たりじゃないかって?
まぁ、問題はないと思うよ。
これを初めてやった次の日、女神ヌーン様から神託が来たのだ。
内容はひたすらヌーン様が爆笑する内容だった。
何もそんなに笑わなくても――
なんて思いつつ、まぁ大丈夫なら使い倒してしまおう、と。
度々意識だけを飛ばして、正体を隠して悪を倒してたら”救済の聖女”なんて名前がついていた。
今のところバレてはいない……と思う。
いや、正直バレバレだけど、指摘されてないということはバレていないということだ。
例外はヒルネ。
むしろヒルネは、私に救済の聖女が必要な情報を持ってくるメッセンジャーだ。
普段は町外れの寂れた教会で、ぐうたらしている聖女が実は裏では悪を成敗する救済の聖女様。
なんか、すっごい昼行灯じゃない? これ! 時代劇の!
というわけで、私は時折悪を成敗しながら、日夜昼行灯になるべくぐうたらに勤しむのであった。
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