おはようございます

 覚悟を決めて、ヒロイン達の縄を解いた。

 すると、タイミングよく、ヒロイン達は目を覚ました。……と言うか、俺が目を覚まさせた。


「……おはよう、ございます」


 急な事だったから、頭が真っ白になった俺は、そんなことを言ってしまった。

 いや、何が「おはよう」だよ。馬鹿か俺は?! 

 ほら見ろよ。このヒロイン達の反応。明らかに怪しんでるだろ!


「怪しい者では、ない、です」


 だから馬鹿なのか俺は!? それを言うやつは大抵怪しいんだよ!

 やばい。ヒロイン達の目に怯えの色が見えてきたぞ。このままじゃ本当に、俺が誘拐犯になっちまう。……いや、なっちまうって言うか、事実、俺が誘拐犯なんだけどさ。


「あなた達が、怪しい男に縛られて、誘拐されそうになっていたので、一応、俺が助け、ました」


 俺は縄を指さしながら、そう言った。

 ヒロイン達は一応、体の自由がきくことに安心したのか、怯えの色が少しずつ無くなってきているのが分かった。

 よ、よし、いい調子だぞ。


「あなたは誰、ですか」


 俺がそう思っていると、赤い髪の方のヒロインが、勇気を出して、そう聞いてきた。

 ……誰? いや、うん。俺って誰なんだろうな?


「誰なんだろうな?」


 そう思った俺は、馬鹿正直に思ったことを言ってしまった。

 いや、でも仕方ないだろ! 実際、俺が誰かなんて聞かれたら、即殺モブとしか答えられねぇよ。

 だって俺、一応裏組織に所属してた人間だぞ? 名前なんて元から無いんだよ。

 そして前世の名前は、何故か思い出せない。……いや、名前どころか、何も思い出せないな。俺が読んでいたはずのラノベの内容以外は本当に常識的なこと以外は何も思い出せない。

 ……それこそ、色々と考察されてたはずなのに結局内容には関係の無かったラノベのタイトルすら思い出せないぞ。

 

「ふ、ふざけて……るんですかっ?!」


 ……やばい。この子、俺の事をまだ怖がって、無理して敬語を使ってる。

 赤い髪の方のヒロインは確か、お転婆娘的な感じだったはずだから、敬語を使ってるところなんて自分以上の立場がある人と話すようなところでしか見たことねぇよ。


「すまん。ふざけてる訳では無い、です。普通に、間違えました」

「だったら、あんたは誰なのよ!」


 あ、俺があまりにもふざけてるからか、素が出て来てる。

 いや、別にふざけてるつもりは無いんだけどさ。


「……秘密?」


 よく考えたら、別に名前を言う必要はなくね?

 確かに、この子達からの信用は欲しいけど、パッと思い浮かばないし、どうせこの子達を公爵領に送った後は直ぐに逃げるつもりなんだ。

 むしろ、そんなに信用されすぎるのもどうかと思えてきたな。

 だって、信用されすぎて、このヒロイン達を公爵領に届けた後、信用してるが故に、逃げた俺を探し出して、部下にするなんて言われたら、断れないんだぞ? うん。嫌だわ。

 信用されすぎないのも不味いけど、信用されすぎるのもまずい。


「ふ、ふざけてんじゃ​──」


 あ、やばい。この子本気で怒ってる。俺に向かって魔法を撃とうとしてきてるんだけど。

 俺がそう思った瞬間、白い髪のヒロインの方が、何かを赤い髪のヒロインの方に耳打ちした。

 すると、俺に向かって撃とうとしていた魔法を解いて、俺を睨むだけに留めてくれた。

 ……良かった、のか? ……いや、魔法を撃たれなかったんだし、良かったってことにしとくか。


「聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「あ、はい」


 白い髪のヒロインの方に、そう聞かれたから、取り敢えず、頷いておいた。

 俺に答えられることなら、答えるつもりだし。


「誘拐犯から助けてくれたという話でしたが、その誘拐犯はどこに行ったのでしょうか」


 やっべー。考えてなかった。

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