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カシラ!」



「ちげえよ」



「あっ、陽(はる)さん、失礼しました」



「兄貴なら自分の部屋だろ」




こんな会話はよくある事だ。俺の兄は

九条組の若頭 九条 翔(くじょう しょう)である。




一卵性の為、俺と翔の顔は見分けがつかない程似ている。顔だけではなく身長や体型、髪色、髪型までも。




だが何故 身内に間違えられてまで、そっくりでいる必要があるかと言えば、それはこの世界を生き抜くためだ。




若頭である翔を支えるのが俺の役目。




翔の代わりとして仕事を引き受ける事もあって、だから今みたいな間違えられるのも慣れてて何も思わない。



寧ろ間違えられるほど似てるって思われることが大事だったりする。そして俺がそうしたかったというのが大きい。




とは言っても俺と兄貴の性格は全くの正反対だ。




兄貴は頭もキレるし、冷静沈着で俯瞰して物事を見ることが出来る。



一つ残念な事と言えば、ドがつくほど女好きだ。一方俺は女なんかそこまで興味ねえしすぐ頭に血が上る。




同じ手を出すと言っても翔は女に、俺は暴力の面で手が早い。




翔は日頃、屋敷にあまり帰って来ないし(多分、自分のマンションか何処かに女連れ込んでるけど)、表の会社もやっているし、傘下や他の組との会合も多い。俺も着いて行くが、何をそんなに集まる必要があるのか俺にもさっぱりだ。




比べて俺はシマの巡回や、ケツ持ちしてる店に足を運んだり裏社会と表を繋ぐ仕事も多い。




俺達の双子事情は、世間からひた隠しにしている訳ではなくて、入れ替わりで仕事する時だけ偽って翔の代わりをしていたりもする。




兄貴が死んだら俺が跡目を任されるから意味がねえって思うかもしれねえが、それなりに意味はある。




俺みたいな猪突猛進タイプが若頭になっちまったら自分で言うのも何だが、少しばかり不安になったりする。




好き放題やっちまいそうだから、それはこっちの事情な訳で。




俺は裏で翔がやりやすいように動くのが性に合ってる。俺は兄貴の身代わりだ、そうやって常に生きてきた。




若頭の心臓が二つあると思えば、怖いものなんて何もねえ。




敢えて外見で違う言えばピアスの色くらいだ。翔はシルバー、俺はゴールドのピアスを付けている。これは翔が正式に若頭となった時に俺にくれた揃いのプレゼントだ。




本家である九条組の廊下は一見日本風だが、中は和と洋を合わせた造りだ。綺麗にワックスが施されたフローリングを歩いていると、翔が自分の部屋からのっそり扉を開けて出てきた。




あ、という顔をした翔は、俺と同じダークブラウンの髪をふわふわと揺らしながら手招きをして俺を呼ぶ。




「陽〜。お前この間抜け出して何処行ってたんだよ?」



「真夜中のパフェに行ってた」



「何その真夜中のパフェって」



「そういう店名なんだよ! 21時以降からじゃねえとやってねえの」



「21時は真夜中じゃねぇでしょ」



「そこは良いんだよ別に」




まあ、こういう好き勝手出来るのも兄貴のおかげでもある。




「なぁ〜それより‘あの話’、来週だよな?」



「あーそう言や、来週だな」



「あんな焦らされてたから、俺ちょーワクワクしちゃってんだけど〜」




翔がニコニコと肩を揺らして笑顔になってるその内容は言わずもがな、女のことである。




双子の会話で成立している『あの話』とはついこの間、親父とお袋から通達された披露目の話の事だ。




あれは突然だったとはいえ、あの時親父達の話を聞いていたから、どこかのタイミングで後々こうなる事はあるだろうなと思っていたところで。




それをあの時、既に何やら察知していた翔は、霧島組の凪の顔を思い出しながら悪戯っ子のような顔をしている最中。




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